第130回:新名神のショボさにショック!
2019.04.02 カーマニア人間国宝への道巨大建造物は男のロマン
当連載開始から約2年半。当時は文字通りカーマニアとして人間国宝を目指す意気込みだったのですが、2年半ですっかりスピードへの情熱は雲散霧消。現在は盆栽いじり的なサステイナブルなカーマニアへと舵(かじ)を切っております!
私の新たな自動車趣味は、「開通前の高速道路巡り」。いや、思えば20年以上前からやってるんだけど、それは道路交通ジャーナリストとしての使命感や、渋滞解消への激しい渇望によるもの。現在はそのめども立っているので、気持ちはかなりノンビリしてきました。
つい先日、3月17日に、新名神の新四日市JCT-亀山西JCTが開通しましたが、それを見越して、ちょうど1年前の昨年3月に、この区間を巡っておりました。
開通前の高速道路巡りというのは、まだ地図には書かれていない開通前の高速道路を、予定路線になるべく沿って一般道を走り、工事中の様子を見るというもの。地図に描かれていないという点では、鉄道の廃線巡りにやや近いです。
新四日市ー亀山西間最大の鑑賞ポイントは、亀山西JCTだ。東名阪亀山JCTから西へ向かってトンネルをひとつ越えると、深い谷をまたぐ高架橋の周辺に巨大なクレーンが林立し、JCT工事が行われていたわけです。これを下から見たらどんなに壮観だろう! 巨大建造物は、いつでも男のロマンをかきたてるのですね。
開通後の新名神に突撃
亀山ICからのどかな道を上っていくと、突如行く手に新名神の橋梁(きょうりょう)「安楽川橋」が現れた。
「うおおおお、あれが亀山西JCTか!」
近辺は絵に描いたような山村。建設中の巨大建造物とニッポンの原風景とのコントラストが、開通前巡りの醍醐味(だいごみ)のひとつ。都市部の場合は違いますが。
「1年後にはこれが完成するのかぁ……」
開通前の高速道路巡りは、訪れる時期が早すぎると、トンネルくらいしか掘ってないので拍子抜けになる。高速道路の場合、建設はおおむねトンネル→橋梁→土工部という順で、土工部がその姿を現すのはせいぜい1年半前くらいから。1年前になってもまだ土がむき出しだったりする。何度も訪れりゃ一番いいんだけど、開通予定の1~2年前くらいが、一番ダイナミックな工事風景が味わえるのです。
昨年の現場巡りで一番感動したのは、山あいの細道を走って峠を越えた瞬間、眼下に見えた、鈴鹿付近の高架橋建設現場でした。
1年後には1日数万台のクルマが行き交い、現在の東名阪道・鈴鹿付近の恒常的渋滞も解消されるはずだけど、今はまだほとんどの人がその存在すら認識していない。それをこうして秘(ひそ)かに眺めるのは、高速道路マニアならではの、ゾクゾクするような快感でした。
あれから1年。1年前に巡ったあの区間が、予定通り開通いたしました!
そこで開通翌日の3月18日に、実際に走りに行きました。
完成した亀山西JCTで分岐し、新名神の新規開通区間へ突入。それだけで感無量。分岐後すぐトンネルに入る。それを抜ければ、1年前に見たあの高架橋区間だ。実際に走るとどんな感じなのか。
「えっ、狭っ!」
実物はショボかった!
1年前、山の上から眺めたこの区間は、いかにも日本の新たな大動脈感満点だったのに、実際には、路肩の余裕も少ない(1m~2.5m)、暫定4車線(片側2車線)の、割とショボめの高速道路でした。
新東名・新名神は、計画時には全線6車線(片側3車線)、勾配やカーブの曲率も小さいため、設計速度は120km/h。全線が日本のアウトバーンとなる予定だったけど、道路公団民営化議論の過程で、「ムダだ!」「建設を中止しろ!」という世論が沸き上がり、最終的にコストダウンのため暫定4車線となることが決まったのです。
もちろんそれはわかっておりましたが、工事現場のダイナミックさを目の当たりにしていただけに、実物のショボさに軽いショック! しかも、開通翌日だというのに、早くも大型トラックがバンバン走り、交通量はかなり満杯な感じ。こりゃキビシイ……。
新東名の6車線区間(御殿場JCT-浜松いなさJCT間145km)は、これまでの日本の高速道路とは明らかにランクの違う、いわば「夢の超特急」だったけど、アレがすべて6車線の構造で造られたのは、暫定4車線化が決まる前に工事契約が終わっていたから。つまり滑り込みセーフだっただけ。その後はしっかり公共事業批判の波にもまれ、在来線に格下げされたのです。
あれから約15年。現在は、ダブル連結大型トラックや自動運転による大型トラックの隊列走行に対応するため、新東名・新名神全区間の6車線化が事実上決定するというUターン路線を進んでおるのですが、「なにやっとるんじゃ!」と言うは易(やす)し。
なにせ当時は新東名・新名神の計画自体が、日本中から袋だたきにされておりましたので、そういった変遷を脳裏に刻んでいる高速道路マニアは、なんとも言えない複雑な思いに駆られるのでありました。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。