ホンダ・クラリティPHEV EX(FF)
現実的なセットアッパー 2019.04.29 試乗記 燃料電池車、電気自動車、プラグインハイブリッド車の3つのパワートレインを同一プラットフォームに採用する、「3 in 1コンセプト」の下で誕生した「クラリティPHEV」。欧州を筆頭にパワートレインの電化が積極的に推し進められていく中、あらためて試乗してその存在意義を再考してみた。ふつうに買えるPHEV
ホンダの「クラリティ」といえば、2007年に発表された「FCXクラリティ」がはじまりだ。ご存じのとおり、初代は燃料電池車のみのラインナップで、日本では限られたユーザーへのリース販売だったことから、私を含め、一般ユーザーにとっては縁遠い存在だったように思う。しかし、第2世代に進化するにあたって、燃料電池車の「クラリティ フューエルセル」に加えて、プラグインハイブリッド車の「クラリティPHEV」、電気自動車の「クラリティ エレクトリック」(ただし北米市場専用)が用意されたことで、以前に比べて身近に思えるようになった。
ホンダのプラグインハイブリッド車がふつうに買えるようになったのもうれしいところ。2013年6月に登場した「アコード プラグインハイブリッド」は台数限定のリース販売だったため、一般ユーザーが興味を持っても、そう簡単には手が届かなかったのだ。そうこうしているうちに、2016年3月にはアコード プラグインハイブリッドの販売が終了。それから2年がたち、クラリティPHEVの登場によって、欲しい人がふつうに買える環境が整ったのは、喜ばしいことである。
「そうはいっても588万円は高い!」と思う人は少なくないようだ。クラリティ フューエルセルとの価格差は約180万円。どう見ても比べものにならない開発費がかかっている燃料電池版とは、もっと差があってもいいはずだ。ただ、クラリティ フューエルセルの価格は、ライバル車の存在が見え隠れする戦略的なもので、実際はかなりのバーゲンプライスということを考えると、クラリティPHEVの価格は適正かもしれないし、例えば、上級セダンの「フォルクスワーゲン・パサートGTE」が500万円台後半ということを考えれば、欲しい人には十分手が届く価格といえるのではないだろうか?
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荷室が広くなった
とにかく、新しい時代に向けて、燃料電池車でも、電気自動車でも、プラグインハイブリッド車でも、電動化車両の選択肢が増えるのは良いことである。しかも、クルマとしての魅力が高ければ言うことはない。
その点、クラリティPHEVには期待が持てる。このクルマには、ホンダの3タイプのハイブリッドのうち、今後、主力となる2モータータイプの「SPORT HYBRID i-MMD」をプラグインハイブリッド用に改良した「SPORT HYBRID i-MMD Plug-in」を搭載。17.0kWhという、そこそこ多めのリチウムイオンバッテリーを搭載することで、114.6km(JC08モード、カタログ値)のEV走行を可能としているのだ。
もちろん、プラグインハイブリッド車だけに、バッテリー残量が少なくなっても、発電、または、駆動のために1.5リッター直列4気筒ガソリンエンジンを使うことで、さらに遠くまで走り続けることが可能。なにしろバッテリー切れの心配がないというのは、プラグインハイブリッド車の一番のメリットである。
プラグインハイブリッド化の恩恵は他にもある。クラリティ フューエルセルでは、水素タンクがラゲッジスペースを侵食していたが、このクラリティPHEVでは十分なラゲッジスペースが確保され、さらに、トランクスルーまで備わっている。見た目はうりふたつのクラリティ フューエルセルとクラリティ PHEVだが、実用性のうえではクラリティPHEVのほうが一枚上なのだ。
黒子に徹するエンジン
早速、ほぼ満充電の状態からスタート。基本的にはバッテリーの電力を使ってモーターで走るクラリティPHEVは、当然のごとく走りだしはスムーズで、エコドライブを実践する「ECONモード」でも、ストレスとは無縁の、伸びやかな加速を見せてくれる。
高速走行時、「インサイト」やアコードなどのi-MMDではエンジンが始動し、エンジン直結の状態で走ることになるが、このクラリティPHEVではエンジンが停止したまま、モーターのみで走行を続けるところが大きな違い。できるだけ電気の力だけで走りたいと考えているに違いないクラリティPHEVユーザーの期待に応えてくれるのが頼もしい。しかも、スピードが上がっても十分な速さをみせてくれるのだ。
ほぼ高速道路ばかりを約70km走ったところで、バッテリーの残量が底をつき、自動的にエンジンが始動した。こうなるとハイブリッドのi-MMDに近い動きになるが、それでもエンジンの音は控えめで、ついエンジンがかかっていることを忘れてしまうほどだ。前述のとおり、この状態での高速走行はエンジン主体になるが、必要に応じてモーターがアシストするため、アクセルペダルの操作に対するレスポンスは良いし、加速も十分に力強い。
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無理せず進めたい電動化
クラリティPHEVの走りっぷりも悪くない。バッテリーや燃料タンクを床下に積むこともあって、走行時の挙動は落ち着いていて、乗り心地も実に快適なものだった。高速走行時のフラット感も良好で、期待以上の仕上がりといえる。
強いて気になったところを挙げるとすると、路面の荒れた一般道を走行するような場面では多少ゴツゴツとした印象になるのと、静かなパワートレインに対して、ロードノイズが少し目立つところだろうか。
残念ながら(!?)、今回は途中で充電する時間が取れなかったが、200Vの普通充電に加えて急速充電が利用でき、後者なら30分で約80%までの充電が可能とのこと。一充電あたりの走行可能距離が長めのクラリティPHEVでは途中で小まめに急速充電を活用すれば、比較的長めのドライブでもガソリンをほとんど使わずに済みそうだ。
もちろん時間に余裕がないときや、急速充電器に行列ができているときには、そのままエンジンで走れるのがプラグインハイブリッド車の強み。電気自動車を買って、何がなんでも電気の力で走りたいという気持ちもわかるし、電気自動車や燃料電池車に比べると、プラグインハイブリッド車が何となく中途半端に見えるのも事実だけれど、無理をせず、できる範囲でEV走行可能なクラリティPHEVも悪くないと、元プラグインハイブリッド車オーナーの私は思うのである。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ホンダ・クラリティPHEV EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1875×1480mm
ホイールベース:2750mm
車重:1850kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:105ps(77kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5000rpm
モーター最高出力:184ps(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ブリヂストン・エコピアEP160)
ハイブリッド燃料消費率:28.0km/リッター(JC08モード)/24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:588万0600円/テスト車=592万3800円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(4万3200円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<フロント用>(2万7000円)/フロアカーペットマット(7万0200円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:7388km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:237.0km
使用燃料:10.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:23.7km/リッター(満タン法)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。