ホンダ・クラリティPHEV(FF/CVT)
これならイケる 2018.07.21 試乗記 2030年には世界で販売する四輪車の3分の2を電動化するというホンダ。そのプロジェクトの先駆けとして日本の道を走りだすプラグインハイブリッド車「クラリティPHEV」に、クローズドコースで試乗した。早くから電動化に取り組んできたホンダ
ホンダは電動化に早くから取り組んできた自動車メーカーのひとつだ。電気自動車(EV)を初めて発表したのは1997年。米国カリフォルニア大気資源委員会(CARB)のゼロエミッション車普及プログラムに対応したもので、トヨタや日産、ゼネラルモーターズ(GM)なども開発に乗り出したが、専用設計の車両を送り出したのはホンダとGMだけだったと記憶している。
「EVプラス」という名前のその車両は当時のコンパクトカー「ロゴ」の車高を上げて床下にニッケル水素バッテリーを積んだような成り立ちを持っていた。ホンダはこれを日米でリース販売した。
EVプラスは日本仕様の場合、満充電での航続距離が210km(当時の10・15モード)、最高速度が130km/hと十分な性能を持っていたが、登録諸費用やメンテナンス料などを含めた月々のリース額は26万5000円で、36カ月リースという契約だったから支払金額は954万円にも達した。
他のEVも同じような状況であり、いくらカリフォルニア州が推進してもユーザーがなかなかついていけなかっただろう。さらに一連の経緯を再現したドキュメンタリー映画『誰が電気自動車を殺したか?』によれば、石油業界などの圧力によって、ゼロエミッションプログラムが骨抜きにされたことが紹介されている。
しかも同じ1997年にはトヨタが初代「プリウス」を発表。ホンダも2年後の「インサイト」を皮切りにハイブリッド車(HV)に力を注ぐことになる。さらにホンダは同じ年に「FCX-V1」「FCX-V2」と名付けた2種類の燃料電池自動車(FCV)を発表。2002年には日米でリース販売した。つまり現実的な環境対応車としてはHV、ゼロエミッションビークルの本命としてはFCVを掲げていくことになった。
ホンダの先見性は健在
注目したいのはこの時登場したFCXが、EVプラスと基本的に共通のボディーに燃料電池ユニットを搭載していたことだ。EVでは大容量バッテリー、FCVでは水素タンクや燃料電池スタックを格納する必要があることから、床下にこれらを搭載しようという発想になったのだろう。
当時はEVもFCVもまだエンジン車の改造が主力となっていた時代で、次世代車のための最適設計を行って共用化するという発想は斬新だった。
その後ホンダのFCVは、2008年に発表された流麗な4ドアセダンの「FCXクラリティ」を経て、2016年に発売した「クラリティ フューエルセル」に至る。注目は同じボディーでプラグインハイブリッド車(PHEV)とバッテリーEVも出したことだ。「クラリティ エレクトリック」と名付けられた後者は米国でのリースにとどまったが、前者はわが国でも販売することになった。
それが今回の主役となるわけだが、前世紀末にトライしたEVとFCVの設計共用化が、そこにPHEVも加えて再来したという事実を見ると、ホンダの先見性は健在ではないかと思いたくなる。
この間、自動車業界ではフォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジン排出ガス不正問題が明るみに出て、VWをはじめ欧州の多くの自動車メーカーが電動化へ急速に舵を切った。同時に欧米中など多くの地域でPHEVを次世代環境車の本命と位置付け、HVを環境対応車と認めないという方向性で一致した。
『誰が電気自動車を殺したか?』とは異なる形で、再び環境車の進化に政治が関わってきたわけだ。日本車の先行は許せないという思いがあったのかもしれない。そんな中でホンダがクラリティにPHEVをいち早く設定したのは、先見の明があると思えた。
電動領域を増やしてダウンサイジング
ホンダにとってわが国で販売するPHEVは、2013年の現行「アコード」以来だ。当時は3年間でわずか238台のリースにとどまり、同じ年に登場した「三菱アウトランダーPHEV」に大きく水をあけられた。
発表前にクローズドコースで行われた今回の試乗会では、“ホンダ初の売り切りPHEV”という言葉が聞かれた。売り切りという言葉を久しぶりに聞いたので、「どういう意味だっけ?」と思ってしまったが、要はリースではなく、本気で売ろうとしているということだ。
ホンダは2030年までに電動車の比率を3分の2にしたいとのこと。すでにHVで相応の比率は稼いでいるものと思われるが、将来的にはPHEVがボリュームリーダーになると予想しているという。ということはクラリティ以降もPHEVが複数登場するということなのだろう。
メカニズムを見ると、前輪を駆動する直列4気筒エンジンが、大柄なボディーにもかかわらず1.5リッターであることが目立つ。
搭載される機構「スポーツハイブリッドi-MMDプラグイン」という名前で分かるように、システムの考え方はアコードや「オデッセイ」「ステップワゴン」のHVに近い。発電用と走行用の2つのモーターを持ち、一般道ではエンジンは発電に専念する一方、高速域では駆動系と直結しガソリンで走る。
ただしモーター出力はアコードPHEVの3.3倍であり、エンジンを始動しなくても160km/h出すことができるという。システムでの最高出力は215psに達する。電動領域を増やすことでエンジンの負荷を減らした結果、ダウンサイジングが可能になったそうだ。
“走れる”クラリティに
FCVのクラリティでは、燃料電池スタックをはじめとする主要部品をノーズ内に収めていたが、PHEVではバッテリーや燃料タンクを床下に薄く敷き詰めた。電池容量は17.0kWhと「プリウスPHV」(8.8kWh)の倍近い。満充電での電動走行可能距離は、JC08モードでは114.6kmに達する。
スタイリングはFCVと同じかと思ったら、細部が異なっていた。フロントグリルはクロームメッキのモールが一直線になり。リアにもモールが入った。ルーフは黒ではなくなり、フロントフェンダーのエアアウトレットはなく、ホイールのデザインは別物だった。
それ以上に感じたのは、2年前は違和感さえ覚えたスタイリングが受け入れやすくなったことだ。その後国内では「シビック」、米国ではアコードやインサイトが、軒並み同じファストバックスタイルに衣替えしたことが大きい。これが今のホンダのセダンスタイルなのだと納得した。
筆者にとって初のエンジン付きクラリティは、予想以上に静かだった。耳を澄ましていないと始動したかどうか分からない。でも望むだけの加速は十分に得られる。モード数値で100km以上電動走行可能というデータに納得である。これなら普段使いはEVだけでまかなえるだろう。
ECONやスポーツなどのドライブモードも用意されていた。前者は基本電動で、アクセルペダルを踏んでいくとエンジンが始動するタイミングでクリックするような感触が返ってくる。スポーツはレスポンスが鋭くなるだけでなく、メーター照明が青から赤に変わり、パドルで操る4段階の回生ブレーキはマニュアルモードになる。これ以外にバッテリーキープやチャージのモードもある。
記憶の中にあるFCV仕様は、多くのメカニズムをノーズに収めた弊害で前が重く、重心が高い印象があった。それに比べるとPHEVははるかに自然にコーナーをクリアできる。前後重量配分は57:43でFCVと同じだというから、重心の低さが功を奏しているのだろう。
これに合わせてサスペンションも設定し直したようで、ストローク感のある乗り心地と接地感を味わうことができた。身のこなしはさほど鋭くはないけれど、全長4.9mのセダンとして不満はない。シートのサポート性能がもう少し欲しいと思ってしまうほど、“走れる”クラリティに変身していた。
(文=森口将之/写真=小林俊樹/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ホンダ・クラリティPHEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1875×1480mm
ホイールベース:2750mm
車重:1850kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:105ps(77kW)/5500rpm
モーター最高出力:184ps(135kW)/5000-6000rpm
システム最高出力:215ps(158kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5000rpm
モーター最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0-2000rpm
システム最大トルク:--Nm(--kgm)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)/24.2km/リッター(WLTCモード)
EV走行距離:114.6km(JC08モード)/101.0km(WLTCモード)
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ブリヂストン・エコピアEP160)
価格:588万0600円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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