フィアット500Xクロス(FF/6AT)
細かいことはいいんだよ 2019.06.19 試乗記 フィアットのコンパクトSUV「500X」が、デビューから5年を経てマイナーチェンジを受けた。エクステリアデザインに手が加わるとともに、新世代の1.3リッター直4ターボエンジンが採用されたイタリアンSUVの出来栄えをチェックする。イタリアで大人気!
去年のちょうどいまごろ、久しぶりにイタリアを訪れる機会があった。目的はもちろん仕事。部品メーカーの取材がメインで、自動車メーカーの工場見学といったプログラムもあったが、自分でステアリングを握ることはなかった。そのぶん、街やアウトストラーダを走るクルマを楽しく観察したのだが、そのとき気になったのが、実はフィアット500Xである。
なにが不思議って、500Xがたくさん走っているのだ。フィアットのお膝元のイタリアとはいえ、500Xがこれほど人気とは思わなかった。実際、500Xはイタリアで売れていて、イタリア在住の大矢アキオさんの連載「マッキナ あらモーダ!」でも、2019年1月~4月のクロスオーバー新車登録台数でイタリアのトップはこの500Xと書かれている。
その人気の秘密を大矢さんに聞いてみると、イタリアでもSUVがブームになっていることに加えて、リース会社による積極的なプロモーションのおかげで、500Xの販売が好調なのだという。さらに、「近年税務調査が厳しいイタリアでフィアットというポピュラーなブランドに乗っていれば、あまり目立たない、ということもあります」と教えてくれた。何がきっかけでヒットするかわからないものだが、いずれにせよ、イタリアで500Xに勢いがあるのは確かである。
FFだけのラインナップに
そんな500Xがフェイスリフトを受け、2019年5月から日本でも販売が始まっている。「フィアット500(チンクエチェント)」のイメージを受け継ぐとともに、全高と最低地上高を高くし、少しぽっちゃりとしたボディーを与えられた特徴あるスタイルを守りながら、新デザインのLEDヘッドライト/デイタイムランニングライトなどにより、キリッとシャープなフロントマスクを手に入れたのが印象的だ。
なお、500Xは500ファミリーの一員であるとはいえ、中身はまるで別モノ。「ジープ・レネゲード」と共通のプラットフォームを採用していることをご存じの方は多いだろう。
それはさておき、新しい500Xには、新開発の1.3リッター直列4気筒ターボエンジンが搭載されている。従来型が1368ccのターボエンジンだったのに対し、新型は1331ccと37cc排気量が小さいが、151psの最高出力、270Nmの最大トルクはともに従来型よりもアップしている。これに6段デュアルクラッチトランスミッション(DCT)が組み合わせられる。
これまでラインナップされていた4WD仕様は今回は用意されず、販売される2グレードはともにFF。そのうちエントリーグレードの「500X」は受注生産ということになるから、実際の販売はほぼこの「500Xクロス」ということになる。
思いのほか軽快な走り
運転席に座ると、少し高めのアイポイントから、いつもよりちょっと見晴らしのいい眺めを楽しむことができる。つややかなボディー同色のインストゥルメントパネルもおしゃれで、それでいてチープな感じがしないのがうれしいところだ。全長4280mm、全幅1795mm、ホイールベース2570mmの余裕あるサイズのボディーのおかげで、前席はもちろんのこと、後席に大人が座っても十分なスペースが確保されている。
早速走りだすと、出足こそ少しトルクが細いが、2000rpm手前あたりからは、存在感のあるクロスオーバーのボディーをストレスなく走らせるのに十分なトルクを発生させてくれる。さらにエンジンを回すと、6000rpmあたりまで活発さは持続し、なかなかの気持ちよさだ。DCTが乾式クラッチを使うからか、低回転でスムーズさに欠ける場面もあるが、シングルクラッチタイプに比べれば、その動作はより自然である。
見た目の印象とは裏腹に、500Xのハンドリングは思いのほか軽快だ。全高や最低地上高が高めであるにもかかわらずロールがよく抑えられているので、コーナーを走る場面でも不安を感じず、爽快な走りが楽しめるのもいい。
改善すべき箇所はあるが
少しのんびりした見た目の500Xだけに、意外に軽快な走りに驚かされたが、それと引き換えに乗り心地はいま一歩というのが正直な感想。少し硬めというのは許せるものの、常に小刻みな上下動があり、せわしないのだ。ベースグレードより1インチアップされた215/55R17サイズのタイヤを履くためか、目地段差を越えたときのショックも拾いがちで、もう少し落ち着きや快適さがほしい。
また、細かいところでも気になることがいくつかあった。ひとつはアダプティブクルーズコントロール。先行車との車間距離を自動的に維持する便利な機能だが、500Xの場合、30km/hを少し下回ると解除されてしまうので、ノロノロ渋滞などでの追従はなく、その魅力が半減している。7インチタッチパネルモニターを搭載するインフォテインメントシステムの「Uconnect」には、スマートフォンとの連携機能が備わり、スマートフォンアプリのナビゲーションも利用できるのだが、Apple CarPlayを試すと表示エリアが狭く、やや見にくいのが玉にキズだ。
ラゲッジスペースももう少し広かったら……などど、欲をいえばきりがないが、このデザインにホれた人には、私の指摘など、ほんのささいなことだろう。おおらかな気持ちで付き合いたい一台である。
(文=生方 聡/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フィアット500Xクロス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4280×1795×1610mm
ホイールベース:2570mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:151ps(111kW)/5500rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1850rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:334万円/テスト車=344万1952円
オプション装備:ボディーカラー<アバターブルー>(5万4000円)/ETC車載器(1万3392円)/フロアマット<ロゴプリント入り>(3万4560円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1110km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:301.2km
使用燃料:21.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/13.0km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.8 「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
NEW
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】
2025.9.12試乗記レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。 -
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから”
2025.9.12デイリーコラム新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――BMW M5編
2025.9.11webCG Moviesシステム最高出力727PS、システム最大トルク1000N・mという新型「BMW M5」に試乗した、レーシングドライバー山野哲也。規格外のスペックを誇る、スーパーセダンの走りをどう評価する? -
日々の暮らしに寄り添う新型軽BEV 写真で見る「ホンダN-ONE e:」
2025.9.11画像・写真ホンダの軽電気自動車の第2弾「N-ONE e:(エヌワンイー)」の国内販売がいよいよスタート。シンプルさを極めた内外装に、普段使いには十分な航続可能距離、そして充実の安全装備と、ホンダらしい「ちょうどいい」が詰まったニューモデルだ。その姿を写真で紹介する。 -
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ
2025.9.11デイリーコラム何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。