第835回:イタリア初の女性首相 彼女の愛車は?
2023.11.23 マッキナ あらモーダ!公私の両立は難しい?
イタリア国家統一以来初の女性首相ジョルジャ・メローニ氏(1977年生まれ)が、2023年10月で就任満1年を迎えた。今回は彼女がどのようなクルマに乗っているのかを、イタリア系メディアの記録をもとに検証してみよう。
まずはメローニ首相の最新情報を。過去10年にわたってパートナーであったジャーナリスト、アンドレア・ジャンブルーノ氏との関係が終わったことを、2020年10月にSNSのインスタグラムを通じて本人が明らかにした。最大の引き金となったのは、発表の2日前、ジャンブルーノ氏が出演番組のCM待ち中に共演者に行ったセクシュアルハラスメントとされている。メローニ氏とジャンブルーノ氏との間には、7歳の娘がいる。
いっぽう、メローニ氏が代表を務める政党「イタリアの同胞」は、2023年11月13日現在の政党支持率において、29.1%で第1党の座を維持している。ただし、直後の2位、3位には、いずれもイタリアの同胞と対立する中道左派政党の「民主党」(19.7%)、ポピュリスト政党の「5つ星運動」(16.2%)が迫る。
単独での政権維持が不可能な「イタリアの同胞」は、いずれも中道右派である4位「同盟」(9.4%)、かつてシルヴィオ・ベルルスコーニ氏が結党した5位の「がんばれイタリア」(6.7%)と連立を組む状態が続く(データ出典:SWG)。
首相は「MINI」がお好き
さて、そのメローニ氏のクルマはなにか? 2022年10月21日の大統領官邸、クィリナーレ宮における首相任命式には、白の「フィアット500X」で登場した。続く同年10月23日の首相就任式には、正式な公用車としてグレーの「アルファ・ロメオ・ジュリア」で官邸に現れている。いずれも後席ではなく、助手席に乗っての登場であった。これは親しみを演出するためのパフォーマンスのひとつであり、歴代のイタリア閣僚の間でも時折行われてきた。また、かつてマッテオ・レンツィ元首相が初日にアルファ・ロメオ・ジュリアでやってきたように、旧FCA系ステランティス車という選択が、イタリア国内を発祥とするブランドへの敬意を表していることは明らかだ。
ただし、これまでプライベートでメローニ氏が愛用していたのは、ずばりBMWの「MINI」であった。野党党首だった2015年の段階では、2代目「MINIクーパーSD」の助手席に乗って移動していたのが確認できる。また2022年10月、就任前の大統領府訪問にあたっては、同じMINIクーパーでも「5ドア」で現れている。このときも助手席だったが、プライベートでは彼女自身も運転している。実際に娘を乗せ、ステアリングを握っている写真がある。さかのぼれば、青年担当大臣だった2011年、34歳のときには、ヴァレルンガサーキットで開催されたBMWとイタリア自動車クラブ共催のドライビングスクールに参加し、MINIを操縦している。
あの男の時代とは違う
ところでメローニ氏は、ファシスト党の流れをくむ政党「国民同盟」の学生部から政治の世界に入った。そうした経歴から、従来は極右との見方が一般的であった。実際に就任後、同性カップルの権利拡大に否定的な見解を示し、大きな議論を巻き起こしている。
いっぽうで、イタリアが欧州連合(EU)と距離を置くことに期待していた支持者たちからは、失望の声が上がっている。例えばロシア・ウクライナ戦争に際しては、従来通商において重要だったロシアとの関係を維持するかと思われたが、就任後はEUに歩調を合わせるかたちで、ウクライナへの武器供与継続を決めた。不法移民問題についても就任後はEUに遠慮がちで、これまで彼女を指示してきた右派が期待するような強硬な手段には出られていない。
ただし、筆者の観点からすると、クルマに関してはこれまでと異なる。もちろん前述のように、メローニ首相も職務中の移動には公用車を用いている。だが任期の大半を自ら注文した「アウディA8」超装甲仕様車の後席で移動していた、あのシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相の頃とは、明らかに違う時代になりつつあることを、MINIに乗る首相から感じるのである。
またメローニ政権はすでに2023年5月、高馬力車に課している追加課税を廃止することを示唆している。これは最高出力251PS以上の車両に課されている「スーペルボッロ」という事実上の禁止税で、2011年以来、特に高級輸入車のインポーターなどから強い反対を受けながらも続けられてきた税制だ。実際に廃止されれば、自動車市場活性化の起爆剤となるのか。それとも「もっと広い自動車ユーザー層に資する法改正を」の声が上がるのか。フタを開けてみないとわからない。かつてメローニ氏は「クルマを自分で運転していると、自由な気持ちに満たされる」と発言している。その一般人感覚をいつまでも大切にしてほしいものだ。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA> 写真=大矢アキオ、ステランティス、BMW/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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