プジョー508 GTライン(FF/8AT)
上等な舶来品 2019.06.27 試乗記 伝統的なセダンスタイルを捨て、プジョーが新型「508」で世に問うたのはアグレッシブな4ドアクーペだ。そのスタイリングを楽しむとともに、最新の8段ATやADAS、プジョー初となる電子制御アクティブサスペンションなどの出来栄えを確かめた。アバンギャルドなコックピット
舶来品、という言葉が脳裏に浮かんだ。海の向こうからやってきた特別ないいもの、という意味合いである。プジョー508は、見ていても乗っていても、明らかに異文化に触れているという気分になる。以前に比べ、輸入車に乗っても驚きや感動を覚えることは少なくなってきた。どの国の自動車会社もグローバルなモデルをつくっているのだから当然だ。かつて使われていた“外車”という言葉に含まれる異物感のニュアンスは薄れている。
特にドイツ車は、わかりやすい。日本の自動車産業が始まった当時はアメリカ車をお手本にしていたが、戦後になって欧州車、とりわけドイツ車を規範とするようになった。だから、ドイツ車的価値観には日本人も慣れ親しんでいる。メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどに乗るといつも感心するものの、どこが優れているのかを言葉にするのは容易だ。フランス車は時に戸惑いを与え、どう紹介したものか表現に困ることがある。
508は高級サルーン、プレミアムセダンというジャンルに属するはずだが、威厳や重厚感は感じさせない。低い構えで威圧感はなく、軽みと優美さ、あか抜けたオシャレ感がある。テールゲートを備えるから、厳密にはセダンではない。シルエットはクーペ風で、プジョーが“4ドアファストバック”と名付けているのも納得がいく。フラッグシップモデルなのだから、プジョーはこれがブランドイメージとしてふさわしいと考えているのだろう。
乗り込むと、さらに感覚のゆらぎが強まる。運転席に座ると、前に見えるのはふだん接することのない奇異な風景だ。一般的なクルマよりも下方にレイアウトした小径のステアリングホイールの上にメーターパネルを配しただけのことだが、コックピットはエキセントリックでアバンギャルドな空間へと変貌する。センターモニターの下に備えられた鍵盤じみたトグルスイッチと合わせ、「i-Cockpit」は未来的な印象をもたらす。機能性を重視したのかデザイン優先なのかは判然としない。