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ヤマハの新型スクーターも実はGogoro製
台湾発の電動二輪とバッテリーインフラが世界を変える!?

2019.07.22 デイリーコラム 河野 正士

ヤマハが発表した新型電動スクーターの“中身”

2019年6月10日、ヤマハモーター台湾は、台湾の電動スクーターメーカーGogoro(ゴゴロ)との協業によって開発した新型電動スクーター「EC-05(イーシー・ゼロファイブ)」を発表。同月27日に台北市内でメディアおよび一般ユーザー向けの発表会を開催し、実車をお披露目した。

EC-05は、Gogoro製電動スクーターのプラットフォームを使い、ヤマハが車体外装をデザインしたもの。Gogoroが生産を担い、ヤマハモーター台湾のディーラーで販売される。ベースとなるのは同社の躍進を支えた普及モデル「Gogoro2」で、2つのバッテリーを使った一充電走行可能距離は150km。最高速は90km/h、0-50km/h加速に要する時間は3.9秒と、ザックリと言えば125ccスクーターと同等のパフォーマンスを持つ。またシート下には、バッテリーとともにおおむねキャップタイプのヘルメット2つを収納できる25リッターの収納スペースを持ち、スマートキーシステムも搭載されている。もちろん、Gogoroが提供するバッテリーステーションはもちろん、スマートフォンアプリも利用可能だ。

EC-05が注目される点はまさにここにあり、ヤマハはこのモデルの投入により、「台湾でGogoroが提供するエネルギーインフラに乗っかった」と言えるのだ。では、Gogoroとはどんなメーカーで、どのような形でインフラを提供しているのか。

Gogoroの電動スクーターは、2015年に米ラスベガスで開催されるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でデビュー。同年、欧州最大のモーターサイクルショーのEICMAにも出展された。自社開発のスクーターは、独自のフレームや前後サスペンションシステム、そしてデザインを持ち、シート下に2つの交換式バッテリーを搭載していた。乗り物として非常にユニークだったのはもちろんだが、なにより周囲を驚かせたのは、そのバッテリーを瞬時に交換できるバッテリーステーションも同時に発表したことだった。

台北市内で開催された「EC-05」の発表会の様子。メディアのほか、SNSなどで大きな影響力を持つインフルエンサーなどを集めて実車が初披露された。
台北市内で開催された「EC-05」の発表会の様子。メディアのほか、SNSなどで大きな影響力を持つインフルエンサーなどを集めて実車が初披露された。拡大
「ヤマハEC-05」と、同車の開発に携わったヤマハモーターR&D台湾 企画部の高橋大輔氏(右)、およびヤマハ発動機デザイン部の山口壽人氏。
「ヤマハEC-05」と、同車の開発に携わったヤマハモーターR&D台湾 企画部の高橋大輔氏(右)、およびヤマハ発動機デザイン部の山口壽人氏。拡大
「ヤマハEC-05」は、Gogoroの電動スクーター「Gogoro2」のプラットフォームをベースに、外装類にヤマハ独自のデザインを用いたものだ。
「ヤマハEC-05」は、Gogoroの電動スクーター「Gogoro2」のプラットフォームをベースに、外装類にヤマハ独自のデザインを用いたものだ。拡大
シート下のスペース。写真左側に見える取っ手付きのボックスが、脱着式のバッテリー。その隣に見える「Gogoro」のロゴ入りキャップは、家庭用コンセントで充電する際に用いるジャックだ。
シート下のスペース。写真左側に見える取っ手付きのボックスが、脱着式のバッテリー。その隣に見える「Gogoro」のロゴ入りキャップは、家庭用コンセントで充電する際に用いるジャックだ。拡大

車両と同時にバッテリーインフラも提供

Gogoroが提案したバッテリーステーションには、常に複数のバッテリーがストックされており、蓄電量が少なくなったバッテリーを空きスロットに差し込めば、蓄電済みバッテリーが提供されるというもの。それをGogoro販売店だけでなく、カフェやコンビニなど多くの人々が日常的に利用する場所に設置すると発表したのだ。要するにGogoroは、新型電動スクーターと同時に、電動車に欠かせない電力供給インフラも開発したのである。

当初、そのアイデアは高く評価されたものの、実現は難しい、もしくは実現には時間がかかると考えられていた。しかし、Gogoroのスクーターは台湾での販売開始から約3年で15万台近い累計販売台数を記録。同時に、Gogoroエナジーネットワーク社によって運営されるバッテリー交換ステーション「GoStation(ゴーステーション)」も、1200カ所を上回るまでに普及が進んだ。現在、Gogoroは台湾の新車販売で10%近いシェアを占めるほどの存在となっている。

この躍進を支えているのは、台湾の環境政策および電動化政策だ。台湾政府は、人々の重要な移動手段である二輪車が環境に与える影響を抑えるため、新しい排出ガス抑制技術を採用した新型車やEVスクーターへの買い換えを促進すべく、買い換えユーザーに補助金を支出している。Gogoroの電動スクーターの場合、その金額は地域によって多少変動するものの、おおむねメーカー希望小売価格の30%以上になるのだ。

会場に集まった台湾メディア。二輪専門誌のほか、デザイン誌、ライフスタイル誌、ガジェット誌、テレビ局や新聞社など、幅広いジャンルのメディアが集まっており、その注目度の高さがうかがえた。
会場に集まった台湾メディア。二輪専門誌のほか、デザイン誌、ライフスタイル誌、ガジェット誌、テレビ局や新聞社など、幅広いジャンルのメディアが集まっており、その注目度の高さがうかがえた。拡大
会場にはバッテリー交換ステーション「GoStation(ゴーステーション)」も展示されていた。この2列4段のキャビネットをベースに、設置場所によっては複数のキャビネットをつなぎ合わせてステーションを形成する。スマートフォンと連携しており、空きスロットにバッテリーを差し込むと充電済みバッテリーが提供される仕組みだ。
会場にはバッテリー交換ステーション「GoStation(ゴーステーション)」も展示されていた。この2列4段のキャビネットをベースに、設置場所によっては複数のキャビネットをつなぎ合わせてステーションを形成する。スマートフォンと連携しており、空きスロットにバッテリーを差し込むと充電済みバッテリーが提供される仕組みだ。拡大
「ヤマハEC-05」について、プラットフォームの提供だけでなく車体製造も担っているGogoro。同じ台湾の二輪メーカーである、AEON(エーオン)やPGO(ピージーオー)とも同様の形で協業を行うとしている。
「ヤマハEC-05」について、プラットフォームの提供だけでなく車体製造も担っているGogoro。同じ台湾の二輪メーカーである、AEON(エーオン)やPGO(ピージーオー)とも同様の形で協業を行うとしている。拡大

いまや電動スクーターのリーディングカンパニーに

またGogoroはドイツのボッシュや自治体と組み、ベルリンで電動スクーターのシェアサービスをスタートさせている。スマホアプリを使い、空き車両の検索や乗り出しに必要なメイン電源の操作ができるうえ、どこにでも乗り捨てが可能というものだ。Gogoroはパリでもシェアサービスに参入しており、欧州でのバッテリーステーション運用も視野に入れているという。日本では住友商事と組み、石垣島でシェアサービスをスタートさせている。

いまや台湾は、世界で最も進んだ電動二輪市場であり、Gogoroはそのリーディングカンパニーだ。もちろん、たった3年で急成長した企業と製品には、克服しなければならない課題は多くある。しかし台湾と欧州での電動スクーターの開発と販売、そしてシェアサービスの運用で得たノウハウは膨大で、電動化を進めようと画策する二輪メーカーを大きく引き離している。台湾限定とはいえ、ヤマハがGogoroとの協業でそのノウハウを共有する。その意味は大きいだろう。

ヤマハとGogoroのコラボレーションによって生まれたEC-05は、台湾内で大きなニュースとなった。まだ価格も発売時期も発表されていなかった、ティザー動画と簡単なプレスリリースだけしか情報がなかった6月10日の段階で、購入を即決したユーザーがヤマハディーラーに手付金を置いていく事例が何件も報告されたという。

EC-05の予約受付は7月1日にスタートしており、8月1日に販売開始となる。価格は9万9800NT$(約35万円)、初年度は2万台の販売を予定している。もちろん、他の電動スクーター同様、政府からの購入助成金を受けることができる。8月の発売以降、このモデルがどのような評価を得て、マーケットにどんな変化を及ぼすか、大いに注目したい。

(文と写真=河野正士/編集=堀田剛資)

囲み取材を受けるヤマハの高橋氏と山口氏。通常、こうした新車発表会では個別取材が行われるのだが、今回は各メディアからの要望が多く、合同での囲み取材になったという。
囲み取材を受けるヤマハの高橋氏と山口氏。通常、こうした新車発表会では個別取材が行われるのだが、今回は各メディアからの要望が多く、合同での囲み取材になったという。拡大
「Gogoro2」および「ヤマハEC-05」では、モーターをフレームマウントし、チェーンで後輪に駆動力を伝達する。リアホイールはスイングアームと2本のリアショックで支えられている。
「Gogoro2」および「ヤマハEC-05」では、モーターをフレームマウントし、チェーンで後輪に駆動力を伝達する。リアホイールはスイングアームと2本のリアショックで支えられている。拡大
メーターディスプレイについては、過密な台湾の道路状況を考え、ライダーの視線移動を極力減らすべくベース車よりやや前方に、やや上方に設置。フレームを多角形とするなど、オリジナルのデザインも取り入れられている。
メーターディスプレイについては、過密な台湾の道路状況を考え、ライダーの視線移動を極力減らすべくベース車よりやや前方に、やや上方に設置。フレームを多角形とするなど、オリジナルのデザインも取り入れられている。拡大
台湾の街中をイメージした発表会場のディスプレイ。
台湾の街中をイメージした発表会場のディスプレイ。拡大
河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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