プジョー308アリュール(FF/8AT)
フツーに見えて並じゃない 2019.07.24 試乗記 パワートレインが刷新されたプジョーの主力モデル「308」。見た目や最高出力、最大トルクの数値に変更はないが、その中身は大きく進化を遂げているという。1.2リッター直3ガソリンエンジン搭載のエントリーモデル「アリュール」で、出来栄えを確かめてみた。308にも8段ATの時代
以前記したことの繰り返しになるが、それでもやはり言っておきたい。プジョーのコンパクトCセグメントハッチバック308に、それもベーシックな1.2リッター3気筒を積んだモデルに電子制御8段ATが載る時代なのである。
私自身も長く「406」や「ルノー・ラグナ」(覚えていますか?)と付き合った経験があるが、同じようにかつての仏民族系AT、プジョーで言えばAL4型4AT(共同開発したルノーではDP0)に何らかの苦い思い出を持っている人には、にわかには信じられないような出来事ではないだろうか。
AL4型はごく最近まで(2007年の初代308のデビュー当時は4段AT)使われていたが、きめ細かさとはほど遠い、ちぐはぐなシフト制御とトラブルで有名な4段ATだった。それが今やディーゼルターボで300万円ちょっと、ガソリンターボでは300万円を切る価格のプジョーのハッチバックに8段ATが載るなんて、と古い人間は素直に驚くばかりである。
フラッグシップの「508」がシャープでキリッとした表情に生まれ変わったいっぽう、主力モデルの308のほうはライオンエンブレムの取り付け位置を除けば見た目もほとんど変わらず、何だか取り残された形になっているが、中身は着々とアップグレードされている。その主な内容はパワートレインの刷新とADAS(先進運転支援システム)系装備の拡充である。
現行のプジョー308は2014年末に国内発売された2世代目だが(「308」から新型に切り替わってもモデル名の数字末尾が増えなくなった。ちなみに新興国向けには昔に戻った「301」がある)、今回のマイナーチェンジで1.2リッターの3気筒ガソリンターボエンジン搭載モデルも含めて全車にアイシン・エィ・ダブリュ製の最新鋭8段ATが採用された。
細かく言うと実は、2リッターターボディーゼルエンジンを搭載する「308GT BlueHDi」は、2018年夏からプジョー言うところのEAT8型8ATに換装したモデルが導入されていたが、他のモデルについては2018年末にマイナーチェンジが発表されていたものの、ガソリンモデルは導入が遅れていたようで5月にようやく発売された。
これで、先行していた新型1.5リッターディーゼルターボ仕様に加え、1.2リッター3気筒ガソリンターボエンジンも最新仕様にバージョンアップ。さらに308全車にモード切り替えとシフトパドルが付いた電子制御8段ATが備わることになった(6段MTの「GTi」を除く)。このセグメントでは従来の6段ATでさえ見劣りするものではなかったのだから、やはり豪勢な決断である。しかもアイシンの最新ATを日本メーカーのFWD車ではなく、プジョーがいち早く取り入れているのである。
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3気筒ターボも最新仕様に
新たに8段ATを搭載しただけでなく、エンジンも改良を受けた新仕様に換装されている。EB型直列3気筒1.2リッター直噴ターボ、通称ピュアテックエンジンは、燃料噴射圧が(確かこれまでは200バール)250バールに高められた。
これはかなりの高圧だが、参考までにBMWの最新ガソリンエンジンは350バール、話題のマツダの「スカイアクティブX」は700バールという高圧噴射、さらに最新のディーゼルは2000バール以上に達している。
精密な燃焼コントロールには精密な燃料噴射が必要であり、そのためには高圧で燃料を噴射するインジェクターと堅牢(けんろう)なシステムが必須である。さらにガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)も採用された。リーンバーンではディーゼルと同様、NOxとPM対策が必要になるからだ。小型エンジンでも高圧インジェクターやGPFが欠かせないとは、何とも物入りの時代である。
ご存じのようにEUの各メーカーは待ったなしのエミッション向上を強いられており、今回のエンジンのバージョンアップも第一にそれを考慮したもの。新型エンジンはユーロ6.2に適合させているという。
いっぽうで130ps/5500rpm、230Nm/1750rpmという出力とトルクは、従来型と同一である。ちなみにプジョー・シトロエン・ジャポンの資料にはターボチャージャーが電子制御式に変更されたとあるが、これはおそらく電動ウェイストゲートを採用したということだろう。こういうところが相変わらず、ちょっと、である。
サラリと軽快
当然ながら同じ回転数で300Nmの最大トルクを生み出す1.5リッターターボディーゼルほどの力強さはないものの、その代わりにストレスなく健康的に吹け上がる軽やかさはガソリンエンジンならではの特徴だ。
3気筒ゆえのネガはほとんど感じられない。高めのギアで軽く踏んで加速する際だけはわずかな振動が感じ取れるが、それ以外では気になるノイズもバイブレーションもまったく看取されず、ほとんどの人は言われなければ3気筒とは分からないと思う。すっきり、嫌みがなく、十分に扱いやすいエンジンである。
もっとも、オープンロードでは快適爽快ながら、ストップ&ゴーが続く街中では8段ATになっても依然として、いささか首をかしげるようなシフト制御を垣間見ることもある。AL4時代とはレベルが違うが、漫然と運転していると不意にシフトアップしたりしなかったり、その意味ではドライバーに意識的な操作を要求するクルマである。
またプジョーの場合、アイドリングストップからのエンジン再始動のトリガーはブレーキのみで、停止中にスロットルペダルを軽く踏んでも始動しない。癖が強いとは言わないけれど、いささか変わっているのがプジョーである。
フランス車こそ質実剛健
癖が強いといったら、何をおいても小さなステアリングホイールを抱えるように握り、その上からメーターを見るプジョー独特の「i-Cockpit」と称するドライバーズシートまわりを挙げなければいけないだろう。このインストゥルメントに馴染(なじ)めるかどうかで現行プジョーに対する印象は大きく左右されるはず。
さらに、ベーシックモデルに相当するアリュールでもACCを標準装備するなど、安全関連装備は充実したが、カーナビなどのインフォテインメントも相変わらず、あれっと思うことが少なくない。
高速道路を走行中、VICS情報が飛び込んでくると、装備されていないTVの画面に勝手に切り替わる(もちろん画像は何も映らない)のはどういうロジックなのだろうか? 基本的な走行性能には影響ないからとなおざりにはせず、そろそろ細かい点にもきっちり配慮しなければ熱心なファンからも愛想をつかされるのではないだろうか。
とはいえ、そういう点を除けば、乗り心地やハンドリング、居住性などに手抜かりないことも事実。リアドアの切り欠き形状を見るだけで、プジョーが何を優先しているのかがよく分かる。
私としては今後も妙な色気を出さないで、快適で実用的な小型車路線を突き詰めてほしいのだが、ちょっと売れ行きが良くなるとたちまちプレミアムとか世界観とか言い出しがち。今どきの若者こそ“フランス”という語感にたやすくなびくような世代ではないことを忘れないでほしい。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
プジョー308アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1805×1470mm
ホイールベース:2620mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130ps(96kW)/1750rpm
最大トルク:230Nm(23.5kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)/15.6km/リッター(WLTCモード)
価格:283万9000円/テスト車=319万8964円
オプション装備:メタリックペイント<ダークブルー>(5万9400円)/タッチスクリーンナビゲーション(23万4900円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万1924円)/ETC2.0(4万3740円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:804km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:278.0km
使用燃料:22.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
