第594回:乗り心地を改善したい人にもおすすめ
テインのリプレイス用ダンパーの実力を確かめる
2019.10.18
エディターから一言
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純正品を上回る高い耐久性と快適な乗り心地を同時に実現。テインがグローバル展開しているリプレイス用ダンパー「エンデュラプロ/エンデュラプロ プラス」の実力を、この商品を装着した「トヨタ86」の試走を通して確かめた。
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世界市場での成長が見込めるリプレイスダンパー
「純正品を凌駕(りょうが)する乗り心地と耐久性を実現」
そんなうたい文句とともに2017年に発売されたのが、リプレイス用サスペンションメーカーとして知られるテインが手がけたエンデュラプロ/エンデュラプロ プラスという名のダンパーである。
テイン製のサスペンションでは、スプリングシートを任意の位置へと調整することによる車高調整式のダンパーが圧倒的なシェアを誇ってきた。そうした中にあってエンデュラプロ/エンデュラプロ プラスは、あえてその機能が備わらない“純正形状”が特徴だ。開発の背景には、日本はもとより中国やアジア/オセアニア圏、さらには欧州などの海外における、今後のリプレイス用ダンパー市場の成長に対する期待があったという。
例えば、日本製の中古車の人気が高く、かつ路面状況が悪くて純正ダンパーが短期間で寿命を迎えてしまうような市場では、純正品以上の耐久性を備え、よりハイレベルな乗り心地を実現可能な“プレミアム補修用ダンパー”には、たとえ多少高価なアイテムでも「大きな潜在需要があって、今後も急速な伸びが期待できる」という。テインではそうした読みから、すでに稼働をスタートさせた中国工場だけでなく、ヨーロッパやアセアン地域にも新工場を建設し、こうした“純正形状”のダンパー事業を拡大していく計画を持っているという。
製品の随所にみられるテインならではのノウハウ
新車装着品と同形状のロワスプリングシートを備え、純正アッパーマウントを用いることを前提とした純正形状でありながら、純正より高性能で高耐久であるとうたうエンデュラプロシリーズ。
その、主に“高性能”の部分を担っているのが、温度に関わらず安定した粘度特性を発生する高性能オイルや、フルバンプ付近でのみ熱エネルギーへの変換によって高い減衰力を発生させ、通常のバンプラバーが起こすような反発を抑えることで、突き上げ感や跳ね返り挙動を緩和させる「ハイドロ・バンプ・ストッパー(H.B.S.)」である。
一方、主に“高耐久”の部分を担うのが、内製によって実現される高精度なピストンロッドや、強度や容量で純正品を上回るシェルケースなど。さらには、各部品の念入りな洗浄と手術室レベルのクリーンルームで組み立てを行うことによる異物の徹底排除や、丁寧な塗装工程といった、これまでにテインが培ってきた生産技術も寄与していると考えられる。いずれにしても、「ここまでやられているならば、多少高価になってしまうのも、むしろ当然」と納得がいくというものだ。
ちなみに、エンデュラプロとエンデュラプロ プラスの違いは、プラスのみ頭頂部のダイヤルを回すことによる減衰力調整機構が搭載されていることにある。こちらの場合、車種によってはスイッチ操作で車内から減衰力を自在に変更できる、「エレクトロニック・ダンピング・フォース・コントローラ(EDFC)」を装着することも可能だ。
今回は、そんなスイッチ操作による可変システムを搭載した、トヨタ86のデモカーを短時間ながらテストドライブ。日本市場でより重視されるであろう、その快適性をチェックした。装着されていた「EDFCアクティブ・プロ」により変更可能な減衰力の段数は、最大で実に64段。ただし、今回は16の段切り替えモードで走行を行い、純正ダンパー相当の“10”レベルを中心に、最強減衰力の“0”と最弱減衰力の“16”の、3つのポジションをチェックすることとした。
乗り心地の改善にも確かな効果あり
テストルートは、相模湾沿いの西湘バイパスの往復。まずは目地段差の厳しさで知られるこの有料道路を、ポジションを“16”にセットしたテスト車が「まるで86ではないようなスムーズさ」で走り抜くことに驚かされた。
実は、テスト車に装着されていたのはダンロップきってのハードなスポーツタイヤ「ディレッツァZ III」。そんなシューズを履きながら、さしたる不快さもなく目地段差をクリアしていくのだから、乗り心地のよさは本物だ。特に、ストロークに伴うフリクションがすっきりと取れている感覚が好印象で、同時に、減衰力不足でユラユラと揺れが続くような挙動がなかった点も見逃せない。
そんな状況から、今度は純正品相当という“10”のポジションへとスイッチを操作する。当然ながら、ショックは途端にきつくなる。あくまでも“86での評価”ではあるものの、やはり「快適性向上のためにこのダンパーに替える」という手は、大いにアリという印象だった。
一方、そこから最強減衰力の“0”のポジションへと切り替えると、さすがに揺すられ感が一気に強まった。恐らく、この設定が功を奏すのは、舗装の行き届いたミラーのような路面のサーキットに限られそう。実際のスポーツ走行では、“10”から“0”の間で、好みのポイントを探り出すという作業が必要になりそうだ。
いずれにしても、「純正品の2倍を目標とした」という耐久性のみならず、乗り味の向上という点でも確かに効果が認められたこのアイテム。「ダンパー交換に興味はあるけれど、車高の変化や快適性の悪化は遠慮したい」というユーザーに対し、こうした純正形状のアイテムは、なるほど新たな需要を発掘することになりそうだ。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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