ボルボV60 DRIVe(FF/6AT)【試乗記】
実直なシャレ者 2011.05.31 試乗記 ボルボV60 DRIVe(FF/6AT)……470万円
ボルボのイメージをがらりと変えた(?)新型ワゴン「V60」。巨匠 徳大寺有恒は、その見た目を、中身を、どう評価する?
じつは“ボルボ史上初”
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車は「ボルボV60」。早い話が、3月に乗ったセダン「S60」のワゴン版です。
徳大寺有恒(以下「徳」):とはいうものの、いわゆるボルボのワゴンのようにカーゴルームが広くて実用第一、というんじゃないんだな。
松:ええ。ボルボでは走りもスタイリングもセダンにひけをとらない、セダンプラスアルファのスペースを備えたスポーツワゴンであるとうたってます。
徳:なるほど。ボルボのスポーツワゴンというと、ピンとこない人もいるだろうが、じつはボルボはその手の嚆矢(こうし)なんだよな。「1800ES」って知ってるだろう?
松:1970年代初頭にラインナップされていた、クーペの「P1800/1800E」をベースにしたスポーツワゴンですよね。80年代の「480」や現行の「C30」は、その血を受け継いでますね。
徳:そのとおり。でも、それらはみな3ドアだったな。
松:「C30」なんか、ボルボではクーペと呼んでますからね。5ドアのスポーツワゴンという意味では、この「V60」が初めてでしょう。
徳:とはいえ、なかなかカッコよさげなクルマじゃないか。
松:ボディサイドを流れる「ダブルウエーブ」と呼ばれるキャラクターラインがスタイリング上の特徴ですが、処理がうまいですね。日本車にも同じようなモチーフを採り入れているモデルがありますが、こちらのほうがシャープに見えます。
徳:ウエストラインが高いのか、ルーフが低いのか、相対的にガラス面積の小さいところが「1800ES」を彷彿(ほうふつ)させるよ。
松:チョップドルーフみたいですよね。後方からの眺めは、最近のボルボのワゴンに共通する「鏡餅」のようなフォルムで、ブランドのアイデンティティが保たれています。
徳:好みでいえば、俺は「S60」よりこっちのほうがいいな。
松:僕も。「V60」のほうがキャラクターが明確な感じがしますよね。その意味では「セダンにひけをとらない」というボルボの意図は、少なくともスタイリングでは実現していると思います。
徳:もうひとつの走りのほうはどうかな?
松:じゃあ、そろそろ乗ってみますか。
いい伝統が生きている
徳:なかなか上品な色だな。
松:コスミックホワイトというそうです。白にちょっぴりグレーを混ぜてあるんですね。
徳:明るい茶色(ビーチウッド)と黒のコンビネーション……革シートの色合いもいいな。
松:革の質もいいですね。クッションは適度に固く、革なのに滑りも少なくて、座り心地も上々ですね。
徳:なんでもかんでも革シートという風潮には反対だが、こうしたワゴンに革シートというのは悪くないな。本来は多少荒く扱っても、丈夫な素材が革なんだから。
松:デザインにそこはかとなくスウェーデン家具のテイストが感じられませんか?
徳:ああ。日本でもようやく知られるようになったけど、スウェーデン家具って本当にいいもの。
松:シンプルだけど温かみがあって、しかも廃れないデザインは独特ですよね。
徳:そうそう。ところで、これのエンジンは?
松:1.6リッター直4の直噴ターボです。3リッターのV6ターボを積む上級版もあるんですが、こっちのほうが時流に即しているんじゃないかと思って。
徳:たしかに。今はダウンサイジングの時代だからな。キャパシティが小さいからといって、まったく力不足を感じさせないんだから、立派なもんだよ。この感じだと、最大トルクは25kgmくらいあるんじゃないか?
松:さすがですね。1500rpmから5000rpmの間で24.5kgmだそうです。ちなみに最高出力は180psあります。
徳:リッターあたり110ps以上か。昔ならレーシングユニットの数字なのに、これだけ低中域からトルクが厚くて使いやすいんだから、たいしたもんだ。
松:ボルボのターボ技術って、なかなかのものですからね。遡れば80年代、インターTECにやってきた「240ターボ」の速さには度肝を抜かれましたよ。
徳:「空飛ぶレンガ」と呼ばれたヤツだな。
松:ええ。ただのSOHCターボを積んだ、ちょっと古くさい四角いセダンが、どういうわけかメチャクチャ速かった。
徳:速そうじゃないのに速いというのも、ボルボの伝統みたいなものだから。「アマゾン」やその前の「PV544」とか。考えてみれば、ボルボはスポーツセダンを出したのも早かったんだな。
松:「V60」に話を戻すと、デュアルクラッチギアボックスもいい具合ですね。けっしてスポーティな味付けではありませんが、エンジンとのマッチングが良好です。
徳:それでいいんだよ。スポーツワゴンだからといって、スポーツカー然とした走りっぷりは必要ない。性能は大事ではあるが、走り屋向けじゃないんだから。
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ボルボなのに(?)デリケート
松:いま気付いたんですが、このクルマ、窓を開けてもうるさくないですね。風の巻き込みも少ないし。
徳:言われてみれば、たしかに。
松:ちょっと驚きましたね。空力が優れているんでしょうけど、こういうクルマはめったにないですよ。
徳:ワゴンボディにありがちな、テールゲート周辺からのきしみ音もまったくないな。
松:開口部が多いと剛性が低くなるから、ボディ後半から音が出やすいんですよね。さすがにボルボはワゴンづくりの経験が長いから、そのあたりは心得ているんでしょう。
徳:昔はさ、自動車屋の間ではワゴンは雨の日に納車するといいって言われてたんだよ。なぜだかわかるかい?
松:水が潤滑剤代わりになって、きしみ音が消えるからでしょう?
徳:そのとおり。とはいえ雨もそうそうタイミングよく降ってはくれないから、洗車して隙間に入った水が乾かないうちに、とか。
松:昔の人は、あれこれ考えたんですねえ。
徳:とりあえず、このクルマにはそうした小細工は必要ないな。(笑)
松:ですね。静粛性に不満はないし、乗り心地も上々。これみよがしな部分がなく、上品でいいクルマですね。
徳:ああ。なんていうか、全体のバランスがとってもいいんだな。加えて細部まで気配りが行き届いているのには、ちょっとびっくりした。どうもボルボというと、良く言えば大らか、悪く言えば大ざっぱでがさつなクルマというイメージがあったんだが、これはむしろデリケートなタッチなんだよ。
松:ボルボもそのへんはライバルを見て、このままじゃいけないと反省したらしいですよ。
徳:なるほど。これまでのボルボは、試乗会なんかでちょっと乗っただけじゃ、そのよさがわかりにくいクルマだった。1週間くらい日常生活で使ってみると、たしかにこれはいい道具だとわかるんだけど。
松:乗っているうちに、よさがじわじわとにじみ出てくるような感じですよね。
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徳:ところがこの「V60」は、乗った瞬間になじむというか、いいクルマだとわかる。ボルボのクルマづくりが変わったんだな。
松:そこがどう評価されるのか。日本のマーケットでは、ちょっとぶっきらぼうだけど、じつは忠実な中型犬のような昔のボルボ、早い話が四角いボルボというイメージがいまだに根強いようですから。
徳:ボルボとしてもツライところだな。角を落としてから10年以上たつというのに。
松:その間、丸くなったボルボなんて、と一部からは言われ続けているんですからね。
徳:丸くなって、多少しゃれっ気が出たとはいうものの、本来の実直さはけっして失われてはいないのだが。
松:そうですね。ご覧のとおりカッコイイし、性能も文句ないし、つくりもいい。よき伝統を受け継いで安全対策はトップクラス。しかも戦略的に買い得感のある値付けがされているんですから、売れる要素は備わっているんじゃないですか。
徳:うん。あとはいかにそれをアピールしていくかだな。スタイリッシュで上質、それでいて地に足の着いた、チャラくないクルマを探している人にとって、これはいい選択だと思うよ。
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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