第35回:ほった家のお家騒動
2020.05.23 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
webCGほったの実家で、マイカーの買い替え騒動がぼっ発! 大食漢の「ダッジ・バイパー」以上に記者を振り回す父の言動。今日の常識をくつがえすような自動車への要望……。小市民のクルマ探しにみる悲喜こもごもを、赤裸々につづる。
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戦慄のショートメール
このような場末の不定期連載ですら、更新されるたびに読みに来られるしぶとい読者諸兄姉の皆さま、こんにちは。そしてご無沙汰しておりました。webCGほったです。
早速ですが、「またも壊れた」あるいは「ついに貯金残高が尽きた」という報をお待ちの向きには申し訳ない。今回の主役は「ダッジ・バイパー」ではない。今回は、わが実家のクルマ買い替えのお話である。本来ならば当連載で語る内容ではないかもしれないが、高齢化社会を迎えて久しいニッポンの事情を思えば、読者諸兄姉にもきっとご共感いただけるだろう(?)出来事だったので、ここに記すことにした。普段とは毛色の違う記事ではあるが、ご容赦ください。
さて、ことの始まりは2020年1月11日。わがスマホに一通のショートメールが届いた。時はちょうど仕事終わりの頃。誰やねんと思ったら、わが父からの電報である。こないだ正月に顔を合わせたばかりだというのに、何の用事かしらと思って画面をタップし、目をむいた。
「クルマぶつけちゃった。明日スバルに相談に行って決める」
まさかの事故の報告である。しかも言葉が軽すぎ。内容スカスカ。どんな事故だったのかがさっぱりわからん。だいたい、後半の“スバルに行って決める”って何? 何を決めるというの?
せっかく帰りの電車で座れたというのに、仕方なく途中下車。高円寺駅のプラットフォームより父の携帯に電話をくれた。程なくして応答した父の能天気な「もしもし」にひとまず安堵(あんど)。次いでなんだかムッとした。
かいつまんで話を聞いたところ、コトはいわゆる接触事故であったようだ。詳細は割愛させていただくが、幸いなことに負傷者はなし。ただしわが家の「スバル・フォレスター」は相応に損傷した様子で、上述の“スバルに行って決める”というのは、修理の見積もりを出してもらい、直すか、クルマを買い替えるかを決めるという旨だったようだ。言葉足らずもいいところである。
“あの頃のSUV”万能説
さらに続いた父の言葉が、記者をあきれさせた。
「ダメだったら、同じ型のフォレスターをお店に探してもらおうと思うんだけど」
ここで言う“同じ型”とは、現行型ではもちろんないし、先代ですらない。今から8年も前に生産を終了している、3代目SH系のことだ。予防安全装備の“よ”の字もなかった頃のクルマで、さすがにこれには記者も反対。母をはじめ実家の皆もNGを出したようで、後日撤回の旨が伝えられた。これだけ交通安全意識が高まっている昨今に、何を考えているんだか。
とはいえ、保守的というか面倒くさがりな父が、長年慣れ親しんだこのモデルに固執するのもわからなくはなかった。
わが家のフォレスターは2012年、千葉・幕張の総合中古車センターで購入した、4年落ちの中古車だった。付き添いの息子(すなわち私だ)が勧めるがままに選んだことからもわかる通り、父も特段コダワリがあって購入したわけではなさそうだったが、これがどうしてなかなか、ほった家の機動力として立派に勤め上げてくれた。
そもそも、この年代のミドルクラスSUVというのは本当によくできていたと思う。取り回しのしやすい手ごろなサイズ感。視界のよさ。ちゃんと2BOXしたSUV的スタイリングと、それがかなえる(車格の割には)容量のある車内空間。積載性のよいラゲッジスペース。ファミリーカーとしての資質は言わずもがなだが、通勤にはもちろん、縫製業の職人として“兼用車”的にクルマを使う父にとっても、フォレスターは好適だったのだろう。
耐久性もしっかりしていて、ここ最近はエアコンのガス抜けなどで実家の者を悩ませてはいたが、エンジンやドライブトレインで大病を患ったことはなし。正月の帰郷時には自分もハンドルを握ったが、祖母の墓参りにと高速道路を飛ばしてみても、気になったのは運転席側ドアミラーのガタつきだけだった。
総じてSH5型フォレスター2.0XSは、わが家の生活と活計(たっき)にとってすばらしいツールだった。父からもクルマに関する不満を聞いたことはないし、今回の事故がなければ、まだまだ乗り続けるつもりだったのかもしれない。
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どこから出てきたマツダ?
とはいえ、どんなものにも終わりの時は訪れるもの。いかほどの修理費を吹っ掛けられたかは知らないが、父は結局フォレスターの修理を断念。これを機にクルマを買い替えることにした。問題は、次なるほった家のマイカーである。
以前にも話した通り、たまに知人のクルマ選びで意見を請われる私だが、こと身内の、それも一等親族のクルマ選びともなると、やはり勝手が違った。動力性能とか内外装の質感とか燃費とか、全部どーでもいい。頭に浮かぶのは“安全”ただこれだけである。自身の職責を半分ほっぽりだすようなハナシだが、実際に既述の状況におかれてみると、これが偽らざる当事者(?)の心理であった。
一方、かように頭を悩ます愚息をしり目に、ホントの当事者である父は相変わらずノホホンとしたものだった。ある日には「CMとかでやってる、自動でブレーキが利くようなやつ。ああいうのが付いてないクルマがいいなぁ」などとのたまい、再び記者(と恐らく実家の母姉)をあきれさせた。自分で事故っといてどの口が言うか。そもそも今日日、自動緊急ブレーキすら付いてないクルマなんて、一部の商用車ぐらいしかないわい。
かと思えば、今度は突然「マツダにフォレスターみたいなクルマないの?」と電話してきて、職務中の記者を当惑させた。なんせ父のマイカー遍歴は、トヨタ・タウンエース→日産ブルーバード→日産ローレル→日産ウイングロード→スバル・フォレスターである。どっから出てきた、マツダ?
まぁ、なんとなく察しはつきますよ。カッコイイもんね、今のマツダ車。道を走る姿に見ほれて、あるいはショールームに並べられたピカピカの展示車を見て、「マツダいいかも」と思ったのだろう。予防安全装備もシッカリ完備しているし、実際、記者のまわりにもSKYACTIV世代の「デミオ」や「アクセラ」「マツダ2」のオーナーがおり、皆シアワセなカーライフを送っている様子である。
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“普通のクルマ選び”に芸もひねりも必要なし
しかしである。ほった家の場合はどうであろうか? 千葉の西端から東京の東端へ。毎日、狭い裏路地をぬるぬると行く父の通勤路を思えば、“マツダのフォレスターみたいなクルマ”(=「CX-5」)の全幅は煩わしいだろうし、そもそも20年前のCセグSUVですらいっぱいいっぱいの実家の駐車場に、そのずうたいは収まるまい。となると今はやりのダウンサイジングとなるわけだが、“デザインしろ”が大きく乗車空間のタイトな「CX-3」や「CX-30」では、ざっかけない家族のアシや貨物車という用途には難がある。
「名前に“CX”って付いてるのはみんなSUVだけど……」と伝えつつ、上述の意見を添える。他社よりちょいとお高めな価格設定も含め、後は父の判断するところであろう。
さて、ここまでフリーダムかつのんきな父に受け身で対応してきた記者であるが、ではお前が善しとする選択肢は何なのさというと、芸のない話だが以下の通りであった。
スバルXV
・グレードは何でもよし
・ただし「アイサイトセイフティプラス」付き
別に「インプレッサ」でもよかったのだが、父がSUV志向なのでこれを推しとさせていただいた。同門でのダウンサイジングという陳腐なオチであるが、陳腐というのはそれが本道であることの裏返し。クルマ好きでもない実家の父への提案に、芸もひねりも必要あるまい。理由は、ほった家の予算内で最も痛痒(つうよう)なく使え、そして恐らく、最も安全に配慮がなされたクルマだろうからだ。これ以上の子細を記すのは、なんだかスバルのPR記事っぽくなるので辞めておく。
しかし、このクルマについては気がかりが一つあった。以前、何の気なしに「次のクルマどうしよう?」という話題になった際、記者がXVの名を挙げると「コンパクトカーをかさ上げしたような格好のクルマはなぁ」と父に敬遠されたのだ。うーむ……。
まぁ、考えても仕方あるまい。これはあくまで身銭を切らないイチ縁者の意見。先ほども述べたが、最後に判断し、銭を払うのは父&実家だ。電話では「来週末はディーラーに行くから(←どこのよ?)、ついてきてよ」と言っていたし、その時に提案だけでもしておくべ。
……などと考えていた記者であったが、ことの進展は思いのほかに速かった。ほった家のクルマ買い替え騒動は、当方を置き去りに突然終幕を迎えたのである。
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「インプレッサ」も「XV」も同じクルマ?
その日、記者はライターの鈴木真人氏と編集長のこんどーとともに、恵比寿でカレーを食っていた。で、またしても記者の携帯が鳴った。お察しの通り、わが父からの電報である。
「XVに決めたよ。もちろん安全装備付きで」
ここで、「はて? ディーラーに行くのはこの週末で、その時は息子に帰郷するよう言っていたのではないか? そもそもXVはデザインがお気に召さなかったのでは?」と思うあなたは常識人だ。そして世には、そういう常識にとらわれない、融通無碍(むげ)・闊達(かったつ)自在な人もいるのである。
ちなみに、その数分後には母(こちらは常識人)からも「インプレッサにきめてきました、ホレスターは一回り大きくなってしまうので」(原文ママ)という電報が飛んできて、記者はいささか混乱した。父と母、そして販売店員との間でどのようなやり取りがあり、夫婦間でマイカーの認識にそごが生じる事態となったかはワカラナイ。取りあえずクルマの特徴をたずねてみると、それは間違いなくスバルXVであった。まぁ、父以上にクルマに知識も関心もない母からしたら、XVもインプレッサも同じようなもんだろうし、その認識でも生活に支障はあるまい。面倒なので、特に説明はしないでおくことにする。
その後、ひと月半ほどで待望の新車がわが家に到着。「ボタンが多すぎて覚えるのが大変」という父のショートメールに、「変なボタンを押してアイサイトを停止させる前に、実家に戻って使い方を説明せにゃ(汗)」と思っていたところで列島をコロナが直撃。つい先日まで、帰る機会を逸していた次第である。
時は飛んでゴールデンウイーク。世間がコロナ自粛を決め込む中、よんどころない事情で実家に帰らざるを得なかった記者は、そこで初めてXVの姿を見るとともに、予想外の事実を知ることとなった。
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納車後にくつがえる大前提
久々に(バイパーではなく)トライアンフで実家に帰った記者は、バイクにまたがったまま「はて?」と首をかしげた。駐車場に見慣れない&ちょっと予想外のクルマが止まっていたのである。そいつはスズキ製の軽バンにそっくりで、少なくとも、どう見ても、スバルのクロスオーバーには見えない。「XVどうしたの?」と聞いたところ、普段は姉がアシに使っていて、父の通勤や仕事には、会社がリースで用意した「スズキ・エブリイ」ならぬ「日産NV100クリッパー」を使用しているとのことだった。
「もう仕事に家のクルマは使わんの?」
「使わないよ」
だったらハナからそう言ってほしいところである。もっとも、どうやら当初からそうするつもりだったわけではなく、XVの購入後に成り行きでそうなった由(よし)。だったらしょうがないね。しかし、もう仕事に使わないのなら、マツダ車でおしゃれしてもよかった気がする。普段お世話になっているマツダの広報さんに、いささか申し訳なくなった。
さて、初めて見(まみ)えたほった家のXVであるが、当然ながらこれまで取材などでお世話になった広報車のそれと、触れた印象は一緒である。父が選んだのはお手ごろ価格の1.6リッターモデルで、このエンジンとの組み合わせだけは初体験だったが、高速道路での加速を除くと、遅いと感じることはなかった。非力っちゃ非力だが、実家の者はみな運転がアヤしいので、飛ばされても困る。これで十分である。
多機能なのも考えもの
そして懸案の“ボタン多い問題”であるが、ドライブも兼ねた市川-酒々井間の往復で一通り説明させてもらった。ちなみに、販売店ではこれらの機能について、「特に触る必要はない」と言われたらしい。新オーナーに向かって大概な説明だと思うが、その新オーナーの技能を思えば、的確な判断と言わざるを得まい。ドライブののち、記者も結局同じ結論に至っていた。まあ、多少操作を誤ったところでブレーキが利かなくなるわけでなし、気になったらどんどん試せばいいとは思うのだが、走行中にボタンを凝視するのだけはNGなんでねえ……。
Uターンポイントとしていた酒々井プレミアムアウトレット(コロナ禍で休業中)の脇でドライバーチェンジ。助手席に移り、なんとはなしにグローブボックスを開けたら、中から新品の“もみじマーク”のマグネットが現れた。聞けば、今は草加に暮らす妹夫婦からのプレゼントらしく、遊びに行く/遊びに来るたびに、孫一同より「まだ(クルマに)付けてない……」と指摘されるのだとか。そういえば、業務・通勤用のクリッパーにも付いてなかったな。
やれやれ。自動緊急ブレーキの次は、高齢者マークについても説得せにゃいかんのか。どれほど先かわからんが、これは“免許返納”の時も、われら家族は苦労しそうである。
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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