BMW M235i xDriveグランクーペ(4WD/8AT)
“らしさ”はあるか? 2020.05.29 試乗記 「2シリーズ グランクーペ」は、前輪駆動プラットフォームをベースに開発されたBMW初のコンパクト4ドアクーペ。最高出力306PSを誇るパワーユニットと4WDを組み合わせた「M235i xDrive」に試乗し、その出来栄えを確かめた。もはや時代が違う
「まだこんな所に隙間があったのか!」……思わずそんなことを言いたくなってしまうポジションへと投入されたBMWの最新モデルが、2シリーズ グランクーペだ。これまで「2シリーズ」を構成してきたのは、2ドアの「クーペ」とそれをベースとした「カブリオレ」、そして、それらとはまったく異なる生い立ちの「アクティブツアラー」「グランツアラー」というゆとりあるキャビン空間をセリングポイントとする2つのラインである。
今回そこに追加設定されたグランクーペは、4枚のドアを備えつつもワンモーションのアーチ型ルーフラインを有するクーペ流儀のプロポーションが特徴となる。同じ2シリーズにカテゴライズはされるが、従来のラインナップにはなかったブランニューモデルだ。
大きなキドニーグリルを筆頭に、一見“典型的”ともいえそうな最新のBMWに共通するアピアランスだ。しかしそのアーキテクチャーは、同ブランドの作品としてはいまだオーセンティックとは言いがたいFFレイアウトをベースとしたもの。すなわちハードウエア的にはひと足先に登場の新型「1シリーズ」を“出典”としたこのモデルは、ひいては「クラブマン」や「クロスオーバー」といった“大きいMINI”とも強い血縁関係の持ち主ということにもなる。
自身のプロデュースによるMINIブランドのモデルが初ローンチされた2001年の時点から、将来的な狙いどころのひとつが「FFレイアウトのBMWブランド車」の導入にあったであろうことは予想できた。昨今次々とラインナップに加えられる比較的コンパクトなBMW車を目にすると、そんなかねての夢がいよいよ本格的な“収穫期”に入ったことを実感させられる。
一方で、FRのレイアウトやそれに由来した前後50:50の重量バランス、そして直列6気筒というエンジンのデザインがまるで“社是”のごとく重要視されてきたことを知るかねてのBMWファンにとっては、こうした「MINI由来」とも受け取れそうなスペックは、なかなか認めがたいという思いも残ってしまいそうだ。
しかし、先述のさまざまなポイントをDNAとして死守するには、もはや時代が変わり過ぎた感が否めない。パワーユニットが何であろうが、どの車輪を駆動しようが、それでも世に受け入れられるモデルをつくり続ける――2シリーズ グランクーペの内容を目にすると、そんなBMWの決心をあらためて突き付けられたように感じるのだ。
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室内空間もクーペライク
BMWが自らうたうのは、「都会的でスポーティーなデザインと高い利便性を組み合わせた、初のプレミアムコンパクト4ドアクーペ」というフレーズ。前傾したフォルムにごく短いテールデッキへと続く滑らかなルーフライン、そしてサッシュレスドアの組み合わせには、前述のようになるほど4ドアながらもクーペらしさが巧みにアピールされている。
2シリーズ グランクーペの全長が約4.5m、全幅が1.8mというサイズを“コンパクト”と表現するか否かは意見が分かれそうだが、このブランドの“小型車基準”とされてきた「3シリーズ」(セダン)の最新型では全長×全幅が4715×1825mmとなることを思えば、コンパクトを自称したくなる気持ちもわからないではない。
ちなみに、1430mmの全高は実は3シリーズのセダンと同等。しかしそれよりも低さが強調されて感じられるのは、前述したワンモーションのルーフラインや前下がりのベルトラインなど、巧みなデザイン技法がもたらす効果が大きそうだ。
もっとも、前述のようにFFレイアウトがベースだからといってもキャビン空間に広々感が漂うわけではない点も、クーペゆえと納得すべきポイント。特に後席は、後ろ下がりのルーフラインによって乗降時の頭部の運びに難アリだし、前席下への足入れ性も限られることからニースペースもそれなり。落ち込んだルーフラインを避けながらヘッドスペースを確保するべく後席頭上部分には“えぐり”が設けられているが、それもまたタイトさを感じさせる一因になっている。
端的に言って、「もはや3シリーズのセダンでは大き過ぎるから」という理由でその代替案として考えるには、やはりこのモデルは後席居住性が十分とはいえない。あくまでも2+2的な空間デザインでまとめられているのが、2シリーズ グランクーペのキャビンというわけだ。
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情緒よりも情報量
日本に導入される2シリーズ グランクーペに採用されているパワーパックは2タイプ。いずれもターボ付きのガソリン直噴システムを用いる1.5リッターの3気筒と2リッターの4気筒ユニットで、前者は7段DCT、後者は8段ステップATとの組み合わせ。今回テストドライブを行ったM235i xDriveグランクーペには後者が搭載されている。
さらに今回のテスト車では、アダプティブLEDヘッドライトやヘッドアップディスプレイ、ハイビームアシスタントで構成される「ビジョンパッケージ」やガラスサンルーフ、レザーシートなど85万円分ほどのオプションアイテムがチョイスされ、総額はおよそ750万円となかなかのお値段。ちなみに、目の覚めるような「メルボルンレッド」と名付けられたボディーカラーもオプションで、こちらは7万9000円のエクストラコストが必要となる。
ドライバーズシートに腰を下ろすと、目前のバーチャルメーターと、それと同じレベルでダッシュボード中央部にレイアウトされたワイドディスプレイが、まずはいかにも最新モデルらしさを演出している。真円ではなく、タコメーター指針が左回りするメーターの基本グラフィックにはやはり違和感を覚えるが、それも左右両メーターの中間に多彩な割り込み表示を行うためには仕方がない……ということか。
いずれにしても、「多彩な情報よりもドライビングに集中したい」という人にとってはなかなか難儀(?)な時代になった。こうなってくると、いずれ「メカニカルなメーターのほうが高級」という時代がやって来ることになるのではと思ってしまう。そう、まさに腕時計の世界がそうであったように……。
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3シリーズより上質な場面も
4WDシステムの搭載もあって1.6t級と、実は軽快な見た目から想像するよりも重いボディーを、しかしスタートの瞬間からグイグイと強力に加速させてくれるのは、前出パワーパックの実力があってこそだ。オーバー300PSの最高出力もさることながら、日常的により大きな恩恵を感じられるのが、450N・mと自然吸気のガソリンエンジンであれば4リッター級ユニットにも匹敵する最大トルクの数値だ。
しかもそれが2000rpmに達する以前の段階から発せられるのだから、強力無比と実感できるのも当然である。加えればそんな好印象には、変速レンジがワイドで微低速マナーにも優れたトランスミッションの働きぶりも加担していることは間違いない。
一方で、ことさら強い加速力を欲してアクセルペダルを深く踏み込んだシーンでの、滑らかな回転フィールとパワフルさに感心させられたのもこの心臓の持ち味だ。1800rpm付近でこもり音がやや耳につくものの、基本的には低音が強調され、かつ乾いたサウンドもスポーツ派ドライバー好みといえそう。高い回転まで引っ張った後のアップシフト時に一瞬の破裂音が混じる演出も、「なかなかわかっているナ」と言いたくなる。
4WDシステムとトルセンLSDの併用で、トラクション能力には不満なし。タイトコーナーを追い込んでいくと、前輪からのスキール音が意外に早いポイントから耳に届き始めることにフロントヘビーの片りんをのぞかせる一方で、アンダーステアが気にならないのは、「スタビリティーコントロールを経由せず約3倍の速さで信号をエンジンコントロールユニットに伝達する」とうたわれる電子制御システム「ARB(アクチュエーター・コンティギュアス・ホイールスリップ・リミテーション)」の働きによるものと理解できる。
ランフラットタイヤの装着もあり、特に低速域を中心に硬質さが目立つ乗り味は速度が高まるにつれてフラット感が強まり、少なくとも高速クルージングのシーンでは「常に揺すられ感にさいなまれる3シリーズよりも上質」というのが個人的な感想。
BMWラインナップの間口をさらに広げるという狙いどころからすれば、「なるほどこんな手もアリだよね」と思える新作ではありそうだ。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
BMW M235i xDriveグランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1800×1430mm
ホイールベース:2670mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306PS(225kW)/5000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92V/(後)225/40R18 92V(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)/14.4km/リッター(JC08モード)
価格:665万円/テスト車=749万9000円
オプション装備:メタリックペイント<メルボルンレッド>(7万9000円)/パーフォレーテッドダコタレザー<ブラック/ブラック>(19万円)/ビジョンパッケージ<アダプティブLEDヘッドライト、ハイビームアシスタント、BMWヘディングアップディスプレイ>(27万円)/デビューパッケージ<Mスポーツシート、Mシートベルト、アダプティブサスペンション>(11万円)/電動パノラマガラスサンルーフ(15万円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1207km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:348.5km
使用燃料:28.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.4km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。