第183回:ドイツ車はアタリが付く
2020.07.07 カーマニア人間国宝への道あの素晴らしい走りをもう一度
以前、当連載では、「衝撃のアウディA6」と題して、その乗り心地のよさに心底たまげたという話を書いた。
ただ、あの時乗ったのは、トップグレードの「55 TFSIクワトロ」。3リッターV6ガソリンターボを積み、オプション込みで総額1131万円という超高級車だった。アレを自分の愛車にする状況ってのは、ちょっと想像が難しい。
その後「A6」はラインナップを拡充し、現在は2リッター直4の「45 TFSI」に加えて、2リッター直4ディーゼルターボの「40 TDI」が登場している。ディーゼルを積む後者は、個人的な次期愛車候補として有力だ(将来的な中古車狙いですが)。
現在の我が家の利用状況からすると、A6はサイズがデカすぎるが、あの乗り心地と2リッターディーゼルの超絶低燃費が同時に手に入るなら、そこは無視しても候補に入れておきたい。
実はA6、オプションの後輪操舵を付ければ、最小回転半径はわずか5.2m! 図体(ずうたい)はデカくても驚くほど小回りが利き、比較的道幅が狭いと言われる地元・東京都杉並区の路地も問題ないのである。低速でステアリングを深く切ると、後輪がシュワンと逆位相に切れてクルッと回る感覚がとっても気持ちイイ!
そこで今回は、まだ日本投入後間もない「A6アバント40 TDIクワトロ スポーツ」(車両本体828万円、オプション合計151万円、総額979万円)をお借りして、仮想オーナー体験をさせていただきました。
試乗車には、気持ちイイ後輪操舵と超絶なる乗り心地の両方を実現する、オプションの「ドライビングパッケージ(ダイナミックオールホイールステアリングとダンピングコントロールサスペンションのセット)」40万円ナリも装備されておりました。
期待に反するレスポンスの悪さ
試乗車を受け取ってすぐ第三京浜に突入すると、「あれ、おかしいな」と感じた。
これはあのA6の、感動的な乗り心地じゃない! 道路のジョイント部では結構ドスンという突き上げが来るし、フワフワひたひたと路面を舐(な)めるように走るあの浮遊感もナイ!
エンジンはフォルクスワーゲン・アウディ系の2リッターディーゼルターボで、204PS/400N・mというスペックを持つが、走りだしてすぐ感じるのは、初期レスポンスの悪さだ。一番顕著なのは発進時だが、走行中、Dレンジで1500rpmあたりからアクセルを踏み込んでも、反応がメッチャ悪い。
同じようなことは「パサート」のTDIでも感じたが、原因はおそらく排ガス対策だろう。なにせフォルクスワーゲングループはディーゼルゲート事件で大打撃を受けただけに、ディーゼルに関しては石橋をたたいて渡らざるを得ず、1mmの違反もないようにプログラミングした結果、レスポンスを犠牲にせざるを得なかったと推測する。アクセルの初期レスポンスに関しては、ライバルのBMWやメルセデスに比べ、明らかに劣っている。
つまりこのA6は、私がほれ込んだ乗り心地と、ディーゼルらしい瞬時のトルクさく裂の両方がナイ! ナイナイづくしじゃ愛もナイ! うーん、ガックリ。
ところが!
お借りした時のオドメーターは3900kmあたりだったのが、そこから距離が伸び、間もなく5000kmになろうというあたりで、突如つき物が落ちるように、あの浮遊感が舞い降りてきたのです!
アタリが付く瞬間に感動
正直、そこまでの約1000kmでは、以前乗ったA6とは違う乗り物じゃないかとすら感じていたのに、気づいたらアレになってました!
こ、これが、「ドイツ車は走りこむとアタリが付く」というヤツなのかぁ! 昔は1万kmとか言われてたけど、今は5000kmくらいなのかも。
考えてみれば自分は、ドイツ車を新車で買ったことがほとんどない。最近買った新車といえば、「シエンタ」と「アクア」だけ。トヨタ車には走りこんでアタリが付く感覚なんてまるでない。
いや、日独仏伊関係なく、新車に近いクルマを走らせていて、アタリが付く瞬間に立ち会ったのはこれが生まれて初めてな気がする! うおおおお、なんだか気持ちイイ~!
エンジンレスポンスに関しても、DレンジからSレンジに切り替えて少し回転を高めておけば、ディーゼルらしい太いトルクが瞬時に湧き出し、高回転域まで引っ張った時のスムーズネスは、ガソリンエンジン顔負けだ。1880kgの重量級ながら、400N・mのトルクは十二分で、ロングドライブでの燃費は19km/リッター前後をマーク。
オドメーター5000km時点では、サスペンションはまだ80点の仕上がり(推測)ですが、「アウディドライブセレクト」の「インディビジュアル」モードを、サスは「コンフォート」に、残りを「ダイナミック」に設定したところ、ほぼ理想のA6アバントが誕生しました。
今後こちらの試乗車にお乗りの同業者の皆さま、ぜひインディビジュアルモードをお試しください。ナラシも8割がた済ませておきましたので、私に感謝してくださいウフフ~。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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