マツダCX-30 X Lパッケージ(4WD/6MT)/CX-30 XD Lパッケージ(FF/6AT)
二者択一を迫られたなら 2020.09.11 試乗記 マツダのコンパクトクロスオーバー「CX-30」を、横浜から信州・松本まで2日間700kmにわたって試乗。新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」とディーゼルエンジン搭載車を乗り比べて分かったことは?無駄がなくエモーショナル
「世界一美しいクロスオーバーSUVを作りたいと考えた」というマツダのデザイナー陣の言葉がいかしている。本田圭佑選手が小学校の卒業文集に残した「世界一のサッカー選手になりたいというよりなる」という言葉を思い出させる。
実際、マツダCX-30はすっきりさわやかな佇(たたず)まいで、コンパクトカーに求められる機能美と、ただの道具ではないエモーショナルな造形が高いレベルでバランスしている。鋭利なラインや複雑な面の組み合わせを使わずに個性を表現しているあたり、着飾らずともTシャツとジーパンだけでカッコいい人を思わせる。
ルーフラインが美しい弧を描いているわけでもないのにクーペっぽい優雅な印象を与えるポイントは、Dピラーだ。ボディー後端に向けてDピラーを緩やかに下降させることで、実際は水平方向に伸びているルーフが弧を描いているように目が錯覚するのだ。言ってみればだまし絵で、なぜこんな凝ったことをするかといえば、後席の居住空間を確保しつつ、クーペのようにエレガントでスポーティーな造形にすることができるからだ。
今回、信州・松本までの往路で試乗したのは、新世代エンジンと称されるスカイアクティブXと6段MTを組み合わせた四輪駆動モデル。恥ずかしながらスカイアクティブXは初体験で、「ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのいいとこ取り」とも表現されるこのエンジンがどんなものなのか、6段MTでタイマン勝負できるのは楽しみだ。
インテリアはシンプルでありながら機能的で、直感で操作できるインターフェイスのよさは最近のマツダ車の文法通り。軽くもなければ重すぎもしない、ほどよい反力のクラッチペダルを踏み込んでスターターボタンを押すと、新世代エンジンはシュンと目覚めた。ところが……。
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高速道路で軽くなる
市街地でのスカイアクティブXの第一印象は、パッとしなかった。眠たいエンジンという印象で、低回転域からトルクはたっぷりあるしスムーズだから、走るのには困らない、というかよく走る。
でもせいぜい2000rpmちょっとの回転域で走る街中だとレスポンスが鈍いというか、エンジンに薄皮が一枚かぶっている感じがする。それに、走りだしてポン、ポンとシフトアップして3速に入れると、ほとんどオートマのように走れてしまうから、わざわざ6段MTを選ぶかいもない。熱心なMT愛好家の筆者でも、このエンジンならオートマでもいいかな、と感じた。
ただし、この6段MT自体の出来はすばらしい。前後左右どの方向にもシフトレバーの動きは正確で、しかも繊細だ。例えば1速から2速にシフトアップするときに、シフトレバーが「カチャン」と2速に入るのではなく、最後の数ミリが吸い込まれるように、「スルッ」と滑らかに入る。だからエンジンのトルク特性からいって頻繁にシフトする必要はないのだけれど、ついついシフトを繰り返してしまう。
ところが高速道路に入って、エンジンへの印象が一変した。ETCゲートから加速して本線に合流する時に感じる伸びやかで濁りのない回転感覚は、なかなか気持ちがいい。3000rpm以上の領域では、大リーグボール養成ギプスを外したときのように(って、着けたことも外したこともありませんが)エンジンが軽くなる。
スカイアクティブXの原理についてはこれまでに何度も紹介されているので詳細は省くけれど、圧縮比をディーゼルエンジン並みに高くして、自然発火(自己着火)させることで大きな力を得る仕組みだ。ただしガソリンは軽油のように高圧の状態できれいに燃えないから、必要な時にはスパークプラグで着火させる。
この2通りの着火方式をスムーズに切り替えるのがスカイアクティブXで、確かに低回転域ではディーゼルエンジンの力強さ、中高回転域ではガソリンエンジンの爽快さが味わえる。
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ハンドリングはいいけれど
市街地での乗り心地は可もなく不可もなく、というものだったけれど、高速道路ではフラットな姿勢を保ってなかなか好ましい。全長4.4mを切るコンパクトな車体が、速度が上がるほどにひとまわりもふたまわりも大きくなったかのような落ち着きをみせる。車線変更でハンドルを切っても、ゆり戻しはピタリと収まり、何事もなかったかのように涼しい顔で直進する。
ステアリングフィールもいい。いま、タイヤと地面がどんな関係になっているのかが、文字通り手に取るように伝わってくる。ステアリングホイールに使われているレザーが、手のひらにぴたりと吸い付くように上質なこともあって、ステアリング操作がことのほか楽しい。
ところが……。高速道路を降りて、ところどころに舗装の荒れた部分があるワインディングロードを走って、ここまでの高評価を減点したくなった。ひとことで言うと、ハーシュネス、つまり路面からの突き上げがかなりキツい。特に、ザラついた路面が続くような場面で、微振動が連続するタイプの突き上げをダイレクトに伝えてくる。
ただし、高速道路で感じた身のこなしの軽さ、正確さ、ステアリングフィールのよさといった美点は、一切失われていない。だからスポーツドライビングが好きな方は、ハンドリングのよさに免じてこの突き上げを許すかもしれない。けれどももし、「世界一のクロスオーバーSUV」を目指すのであれば、ここは要改善だろう。惜しい、あと一歩だ。
ご祝儀にしては懐に厳しい
復路では、ディーゼルエンジンと6段ATを組み合わせたFF仕様にも試乗することができて、これがよかった。
1.8リッターのクリーンディーゼルは低回転域からトルキー&滑らかで、ゼロ発進から気持ちよく加速する。6段ATは早め、早めにシフトアップしているけれど、変速自体はスムーズで、シフトショックはほとんど皆無と言っていい。静粛性の高さや回転フィールの滑らかさではスカイアクティブXが一段上とはいえ、その差はごくわずかだ。
ちなみに、試乗した「XD Lパッケージ」(2WD)は306万9000円で、先に試乗したスカイアクティブXの「X Lパッケージ」(4WD)は371万3600円。駆動方式をFFにそろえて「X Lパッケージ」(2WD)だとしても347万7100円と、価格差はかなりのもの。前人未到のスカイアクティブXはすばらしい技術だけれど、そのご祝儀にしては庶民の懐に厳しい。
乗り心地とハンドリングのバランスについては、新世代ガソリンエンジンもディーゼルも大きな差はなかった。つまり、舗装の悪い道で路面からの突き上げをもう少し上手にいなしてほしいというのは、CX-30というモデル全体の課題だろう。
あと、走りには関係ないけれど、標準装備のオーディオからオプションの「BOSEサウンドシステム」搭載車に乗り換えて、その音のよさにびっくりした。素人がびっくりするぐらいだから、かなりの違いがあるのだろう。ちなみに12スピーカーのBOSEサウンドシステムのオプション価格は7万7000円。試乗車にはそのほか「360°セーフティーパッケージ」に加え、「スーパーUVカットガラス+IRカットガラス、CD&DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー」のセットオプションが装備され、その合計金額は21万3380円。
すみません、金額ベースでスカイアクティブXとオプションの二者択一を迫られたら、BOSEを含むオプション装備の充実を選んでしまいそうです。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マツダCX-30 X Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:1530kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ スーパーチャージャー付き
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段MT
エンジン最高出力:180PS(132kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:224N・m(22.8kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:6.5PS(4.8kW)/1000rpm
モーター最大トルク:61N・m(6.2kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(トーヨータイヤ・プロクセスR56)
燃費:16.4km/リッター(WLTCモード)
価格:377万9600円/テスト車=408万0980円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドクリスタルメタリック>(6万6000円)/スーパーUVカットガラス+IRカットガラス+CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(4万9500円)/360°セーフティーパッケージ<360°ビューモニター+ドライバーモニタリング+フロントパーキングセンサー>(8万6880円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5773km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マツダCX-30 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:116PS(85kW)/4000rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1600-2600rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(トーヨー・プロクセスR56)
燃費:19.2km/リッター(WLTCモード)
価格:306万9000円/テスト車=328万2380円
オプション装備:360°セーフティーパッケージ<360°ビューモニター+ドライバーモニタリング>(8万6880円)/スーパーUVカットガラス(フロントドア)+IRカットガラス(フロントガラス/フロントドア)、CD&DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(4万9500円)/BOSEサウンドシステム<オーディオパイロット2+センターポイント2>+12スピーカー(7万7000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:8937km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。