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ポルシェ911カレラ4カブリオレ(4WD/8AT)

コール&レスポンス 2020.09.21 試乗記 渡辺 敏史 最新のポルシェは最良のポルシェ……。このような言い回しが流布して久しいが、果たして現在でもこの図式は成り立つのだろうか。まさに最新の992型「911カレラ4カブリオレ」と半日向き合って考えてみた。

間違いのない選択

「いやぁ、最近この辺り、駐車場の空きが全然ないんですよ。そもそも少ないのにこの春でバタバタと借り手がついちゃって……」

先日、自分のクルマを買い替えるにあたって月決め駐車場の契約証明印をもらいになじみの不動産屋に行った時のこと。担当者とのよもやま話の中での、こんなひと言ふた言が耳に残った。

それってつまり、コロナ禍でクルマ買う人が増えたってこと?

問いただすまでもなく、僕の頭の中では状況証拠がいくつもあった。友人や知人からの購入相談がやたらと増えたというだけではない。日々巡回する中古車情報サイトの総掲載台数も今春に比べると1~2割は減っただろうか。移動にまつわる感染リスクを少しでも減らしたいということで、今までマイカー所有の必要がなかった都市部の人も、即納が確約される中古車を積極的に買っている……と、そこまで端的ではないにせよ、時流としてはそういうことになっているのはどうやら間違いなさそうだ。

とはいえ、今まで必要に迫られてはいなかったクルマをわざわざ買おうというわけだ。その場しのぎのビニール傘のようなタマで収めるつもりはない。どうせなら気の利いた選択はないもんかね。と、僕くらいのオッサンになってくると、まわりにはそのくらい豪気なことをおっしゃる方も現れる。よくよく聞けば、もうクルマを買うのも何度もあることではないからと、人生の〆どころを案じるような60前後の方もいらっしゃるわけだ。こういう、一年の計を元旦にやれちゃうような設計力がこの人を成功に導いたのだろうなぁと思うと、こちらも選定に背筋が伸びる。ここでつまずかせるわけにはいかない。と、そこで進言できる銘柄の筆頭といえば、やっぱりポルシェの911ということになる。

ひと目で「ポルシェ911」と分かる丸目のヘッドランプを踏襲する一方で、横幅いっぱいに開いたフロントグリルが992型を特徴づけている。
ひと目で「ポルシェ911」と分かる丸目のヘッドランプを踏襲する一方で、横幅いっぱいに開いたフロントグリルが992型を特徴づけている。拡大
試乗車は「アベンチュリングリーン」のボディーカラーに「ブラウン」のソフトトップという渋い組み合わせ。
試乗車は「アベンチュリングリーン」のボディーカラーに「ブラウン」のソフトトップという渋い組み合わせ。拡大
ソフトトップはZ字型に畳まれてリアのパネル下に収納される。開閉に要する時間はそれぞれわずか12秒ほど。
ソフトトップはZ字型に畳まれてリアのパネル下に収納される。開閉に要する時間はそれぞれわずか12秒ほど。拡大
キャビンへの風の巻き込みを抑える電動エアディフレクターを装備する。
キャビンへの風の巻き込みを抑える電動エアディフレクターを装備する。拡大
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911を買うということ

911にまつわる美辞麗句は耳にタコができるほど聞いてきた、目にイボができるほど見飽きたという方もいらっしゃることだろう。そこに追い打ちをかけるようでなんだが、もう911というプロダクトについては、およそ文句のつけようがない。体軀(たいく)的に積めない乗れないという物理的理由はどうにもならないが、大人2人の移動体としてみれば、これほど安楽で転がりの質感もハンパなく、扱いやすくて柔軟さも高いクルマはそうはないと断言できる。

そして大事なのは、俺ポルシェ買うたったというひとコマが、この先に続く人生登山においても大きなひと踏みになり得ることだ。そういうアイテムには縁のない僕が言うのもなんだが、ブランドもんが世に果たすべき重要な役割とは、世代をまたいで普遍的に、こういう達成感をカスタマーにもたらし続けることだと思う。

と、ある知人とそんな話をしている最中に、この911に乗る機会が訪れた。カレラ4カブリオレ。いい意味でのRRらしさをそぐことなく安定性を高める四駆。クーペとほとんど同等の快適性を担保する幌(ほろ)屋根。普通に乗るにはうらやましいくらい完璧なパッケージだろう。しかも試乗車は色合いがまたオッサン泣かせだった。この992型から久々にカラーパレットに加わった「アベンチュリングリーン」は、メタルグレー感をぐっと高めて、光線の加減でテクスチャーをなまめかしくみせる。茶色の幌屋根の風合いともよくマッチしている。

リアエンドに積まれる3リッター水平対向6気筒ターボエンジンは最高出力385PSと最大トルク450N・mを発生する。
リアエンドに積まれる3リッター水平対向6気筒ターボエンジンは最高出力385PSと最大トルク450N・mを発生する。拡大
センタースクリーンの下が一直線になったダッシュボードのデザインは往年の930型へのオマージュだ。
センタースクリーンの下が一直線になったダッシュボードのデザインは往年の930型へのオマージュだ。拡大
ステアリングポストの右側にレイアウトされるエンジンスターター。最新型でも「ひねって始動する」という流儀を守り続けている。
ステアリングポストの右側にレイアウトされるエンジンスターター。最新型でも「ひねって始動する」という流儀を守り続けている。拡大

守り続けてきたRRレイアウト

たとえカブリオレであっても、リアエンジンならではのファストバックフォルムに何ら変わりはない。911の普遍性を語るに最も重要なそれは、幌屋根に立体的な張りをもたせて車体とのなだらかな面一性を生み出している。991世代からは、走りについてもサーキットでゴリゴリにしごかない限りはその差はほぼほぼ感じられない。高品質な幌屋根づくりはドイツのお家芸とはいえ、この執念こそがポルシェらしさと言い換えることもできそうだ。

そう、ポルシェは911の普遍性を世に示すために、そしてドイツの自動車技術のプレゼンスを守るために、不利を補完するあらゆる策を講じてスポーツカーの第一線を走り続けてきた。1970年代はマルチシリンダーをミドシップマウントするイタリア勢との攻防にターボで立ち向かい、1980年代はスタビリティーとアジリティーを両立する四駆の開発に注力。1990年代は会社そのものの収益性改善に明け暮れながら、メカニズムの完膚なきまでの刷新という一大転機を迎えるも、それでもフラット6のリアマウントに執着。それが奏功と判断されたのは、「ボクスター」の援護射撃と「カイエン」のヒット確定でビジネスが劇的な回復を遂げた2000年代前半の話だ。

同じのれんで半世紀以上の時を紡げば、それはもう名前で信用買いするに値する銘柄といえる。スポーツカーでそんなモデルを探せば「コルベット」と「フェアレディZ」くらいなものだ。さらに言えば「356」との連続性も無視はできないわけで、ポルシェ自身、幾度も方針転換を検討する中で、よくもリアエンジンで踏ん張り続けたものだと思う。お付き合いしたタイヤ屋さんにもねぎらいの言葉をささげたい。

トランスミッションは8段のデュアルクラッチ式AT。セレクターの後方にはルーフのオープンスイッチとクローズスイッチが独立して用意される。
トランスミッションは8段のデュアルクラッチ式AT。セレクターの後方にはルーフのオープンスイッチとクローズスイッチが独立して用意される。拡大
先代となる991型から一脚あたり3kgの軽量化を実現したというフロントシート。ヒーターとベンチレーターが付いている。
先代となる991型から一脚あたり3kgの軽量化を実現したというフロントシート。ヒーターとベンチレーターが付いている。拡大
大人が座るには窮屈なリアシートだが、荷物置き場としての使い勝手を高める棚板が備わっている。
大人が座るには窮屈なリアシートだが、荷物置き場としての使い勝手を高める棚板が備わっている。拡大

飛ばさなくても満たされる

主に911のことを指して言われ続ける常套(じょうとう)句のひとつに、最新のポルシェは最良のポルシェ……というのがある。今回、考えていたのは果たしてそれが今も当てはまることなのだろうかということだった。

豊富な情報量のインフォテインメントシステムや十分使いでのあるADASしかり、洗練された乗り心地や高速域での操縦安定性もまたしかり。当然ながら992型は新しいだけの最良さはある。今回の取材車はその辺りのオプションも抜け目なく拾ったことで、上代は2000万円級に達していたが、こういうご時世ゆえ、財力のある方にはバンバン使っていただくに越したことはない。

一方で、911に乗っているという気持ちの満たされ感については、モデルの世代は関係ない。いや、至らないところをドライバーが補う機会が多いぶん、むしろ古いほうがクルマとの対話の密度はかえって高いことになるだろう。

古いものから新しいものへと進めば、その成長に驚かされることになる。と同時に、新しいものから古いものに戻れば、その濃度に心引かれる。つまるところ、最良の911は何かという問いに対する答えは、おのおのの心の中にありさえすればいいということだ。

撮影と試乗の始終、僕はドライブモードをいじるでもアクセルを底踏みするでもなく、淡々とこの911を走らせ続けた。雨が降ろうが風が吹こうが、もはや普通に走るぶんにはまるで取り乱すこともない。それでも気をつけて一挙手一投足を見ていれば、加速や制動の姿勢や操舵の触感に、普通のクルマとは異なるものが伝わってくるし、それを感じているだけでも十分満たされる。つまりは勘どころを探してひっちゃきに飛ばす必要もない。元も子もない話をしているようだが、それほど広いスイートスポットを持つスポーツカーもなかなかないということだ。911の長寿の理由は、圧倒的なスピード感というよりは、誰のどんな求めにも合わせられるこのリズム感にあるのだと思う。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

動力性能は最高速が291km/h、0-100km/h加速のタイムが4.2秒(スポーツクロノパッケージ非装着車は4.4秒)と公表されている。
動力性能は最高速が291km/h、0-100km/h加速のタイムが4.2秒(スポーツクロノパッケージ非装着車は4.4秒)と公表されている。拡大
試乗車にはオプションのアダプティブクルーズコントロールが装着されていた。インターフェイスはステアリングポストから生えるレバー式。
試乗車にはオプションのアダプティブクルーズコントロールが装着されていた。インターフェイスはステアリングポストから生えるレバー式。拡大
メーターパネルはセンターの機械式タコメーターの左右に液晶ディスプレイが並ぶ形。伝統の5連メーターのように表示される。
メーターパネルはセンターの機械式タコメーターの左右に液晶ディスプレイが並ぶ形。伝統の5連メーターのように表示される。拡大
フロント20インチ、リア21インチのホイールはオプション。タイヤは「ピレリPゼロ」が組み合わされていた。
フロント20インチ、リア21インチのホイールはオプション。タイヤは「ピレリPゼロ」が組み合わされていた。拡大

テスト車のデータ

ポルシェ911カレラ4カブリオレ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1850×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:385PS(283kW)/6500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1950-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.2リッター/100km(約10.8km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1696万8519円/テスト車=2031万4357円
オプション装備:ボディーカラー<アベンチュリングリーンメタリック>(20万6759円)/レザーインテリア<スレートグレー>(66万2037円)/パワーステアリングプラス(4万3797円)/カラークレストホイールセンターキャップ(2万7500円)/インテリアパッケージ<ディアマールライトシルバー>(12万9352円)/20/21インチカレラクラシックホイール(36万8704円)/シートベンチレーション<フロント>(17万7223円)/ポルシェエントリー&ドライブシステム(9万1667円)/LEDヘッドライト<PDLS PLUS含む>(16万5000円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(38万8056円)/アダプティブクルーズコントロール(28万3149円)/レーンキープアシスト(9万7778円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(23万6297円)/自動防眩(ぼうげん)ミラー(9万1667円)/14Way電動スポーツシート(37万6852円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:4923km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:205.7km
使用燃料:28.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

ポルシェ911カレラ4カブリオレ
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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