第191回:マンゾクマンゾク、マンゾク倶楽部
2020.10.12 カーマニア人間国宝への道出撃当夜はくもりナリ
前回は「ポルシェ911 GT3 RS」で夜の首都高に出撃し、おのれの老人力を嫌というほど思い知らされたが、早速リベンジの機会がやってきた。
今回のマシンは、「メガーヌ ルノースポール(R.S.)トロフィー」!!
なにしろ、R.S.の後に“トロフィー”が付いている。トロフィーは栄光の象徴(普通名詞の場合)。男の東京タワーとでもいおうか。そのトロフィーを駆り、東京タワーを横目にC1(都心環状線)を爆走するのである。これ以上のリベンジがあろうか。
私は2年ほど前、新型「メガーヌR.S.」に試乗させていただいたが、以前の超スパルタンなメガーヌR.S.に比べると、それはあまりにも軟弱なマシンであった。なにせドアが4枚もあるし、オートマしかない。中身がどう進化しようとも、その時点で落第。それがスパルタンな男の価値観である。
思えば先代のメガーヌR.S.では、初試乗の初発進でエンストを3発もかました。正確なグレードは思い出せないが、その扱いにくさ、スパルタンさは、かつての964型「ポルシェ911カレラRS」に匹敵するかと思われた。まさに男のマシン! それが4枚ドアになりオートマちゃんになったと聞けば、男泣きせずにはいられない。
が、今回のトロフィーは6段MTだ。ドアは相変わらず4枚あるが、まあよかろう。男の許容範囲である。
出撃の夜。天気予報は“くもり”。雨の心配はない。今夜こそ首都高に男汁をブチまけるぜ。
カード型のキーを持ち、トロフィーに近づいた。すると自動的にロックが解除され、LEDが自動点灯! しゃれた歓迎だぜ。ドアを開けると、センターディスプレイにメガーヌが現れて「ブワーン」みたいな効果音が鳴り(うろ覚え)、こよいの爆走の前祝いをしてくれた。さすがトロフィーだぜ。
ここはトロフィーのための舞台
慎重にクラッチをつないで発進する。うおお! なんというイージーなクラッチフィーリング。これじゃエンストしたくてもできぬ。若干無念だがこれも男の許容範囲としよう。
1.8リッター直4直噴ターボエンジンは、セラミックボールベアリングタービンを得て300馬力の大台に乗せたが、低速域でのフレキシビリティーにも富んでいる。杉並区の細街路でもまったく問題なし。30km/hでもわかるこのいいもの感。さすがトロフィー。
首都高に乗り入れると、そこはまさにトロフィーのための舞台であった。
なにせメガーヌR.S.の足まわりは、ルノー・スポールのエンジニアが首都高でも試乗を繰り返し、煮詰めに煮詰めたというではないか。サスペンションレートは十分高いが、路面の継ぎ目を乗り越えても不快なショックは抑えられている。だからこそ、より速く走れる! 4輪操舵システムのおかげで、何をやってもニュートラルステア! オッサンでも老眼でも男は黙ってニュートラルステア! 昼寝しててもオンザレールで曲がっていくぜ! さすがトロフィーだ!
そしてなによりも6段MTがイイ! サーキットでタイムアタックすれば、EDC(オートマちゃん)のほうが速かろうが、首都高にはタイムアタックはない! そこで求められるのは男のマンゾクだけ! マンゾクマンゾク、マンゾク倶楽部! おっとコイツは風俗店の固有名詞か。
その時、前方から聖なるサウンドが聴こえてきた。あれは……。
うおおおおおお! 「フェラーリ328」!
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イカす俺の328
夜の首都高に328! まさかの328! 「488GTB」ならいっぱいいるけど328はめったにいない! つーか俺様の328以外、首都高で見たことない! フェラーリ様は歳月を重ねるほどに出撃機会が激減するのである。その328が目の前を走っている!
俺様はトロフィーのアクセルをさらに深く踏み込んで猛追。その背後につきフルブレーキング! うおおおお、328の聖なるサウンドを浴びさせてください~。
328は、背後に迫るトロフィーにはビクともせず、左側車線をゆっくりと流している。まさに大人の余裕ぶっこきまくり。走るだけでマンゾク倶楽部なのだろう。これぞフェラーリの最終解脱。
それにしてもカッコいいぞフェラーリ328。これほどまでにカッコいいのかフェラーリ328。これほどまでに小柄でキュートなのかフェラーリ328。俺のクルマってハタからこう見えるのか。ウットリ……。
もはやトロフィーのことなどそっちのけで、俺様は328につきまとった。それもなるべく相手に気づかれぬよう、距離を取って尾行した。まさにストーカー。まさか328のドライバーも、トロフィーのオッサンがこれほど熱いまなざしを浴びせているとは夢にも思っておらぬであろう。うむうむ。
ああ、俺はシアワセだ。マックス最大限にシアワセだ。こんなカッコいいクルマ持ってるんだから。でもって夜の首都高にも出撃できるんだから。まさにカーマニアの至福。これ以上の幸福はないっ! マンゾクマンゾク、マンゾク倶楽部。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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