第637回:福祉車両もカスタマイズカーもお任せあれ! 日産の“何でも屋”オーテックのお仕事とは?
2020.12.29 エディターから一言![]() |
カスタマイズモデルのAUTECHシリーズや、福祉車両、オーダーメイド車、果ては消防車・救急車まで、さまざまなクルマの製作を手がけるオーテックジャパン。多品種少量生産のプロフェッショナル集団として、日産とユーザーを支える彼らの“お仕事”をのぞいてみた。
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実は「NISMO」も手がけています
かなりのクルマ好きの間でも、日産とニスモとオーテックの関係がいまいちわかりにくい、という声は多い。かく言う筆者も完璧に説明できるかと問われれば、ちょっと自信がない。そんな折、オーテックジャパンから取材会のお誘いをいただいたので、神奈川県茅ヶ崎市に位置するオーテックジャパン本社にうかがった。
取材会の冒頭で語られたのは、筆者の心を見透かしたように3社の関係についてである。ご存じのように、オーテック(株式会社オーテックジャパン)とニスモ(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社)は、いずれも日産自動車の100%子会社である。そして、ここからがややこしいのだが、2017年4 月の組織変更でオーテック内にニスモカーズ事業部が立ち上がる。
この時に、公道を走るロードカーに関してはAUTECHブランドもNISMOブランドも、すべてがオーテックの管轄に入ることになった。私たちが日常的に接するモデルは、すべてオーテックのものなのだ。他方ニスモは、ワークス体制で挑むモータースポーツ活動や、そこで得た知見とノウハウを生かしたスポーツパーツの開発に専念することになった。
また、オーテックとニスモのCEO(代表取締役社長兼最高経営責任者)を、日産の副社長を務めた経歴を持つ片桐隆夫氏が兼務することから、両社間の意思の疎通や技術的な交流がスムーズに行われるとのことだ。
では、AUTECHブランドとNISMOブランドのすみ分けはどのようになっているのか。この点について、片桐隆夫CEOから次のような説明があった。
大きく異なるキャラクターとポジション
片桐CEOによれば、「AUTECHのエンブレムを付けたモデルもNISMO仕様も、いずれもよりエキサイティングでスポーティーな日産車を求める顧客に向けた、こだわりのモデルであることは同じ」とのこと。ただし、AUTECHは「プレミアムスポーティー」、NISMOは「ピュアスポーツ」というコンセプトを掲げている。
数多くのカスタマイズ車を手がけてきたAUTECHは、そこで培ったクラフトマンシップで、よりプレミアムなモデルを開発する。同時に、国内外の特別仕様車や福祉車両などもオーテックの担当となる。
例えば、1980年代にイタリアの名門カロッツェリア、ザガートと「ステルビオ」を共同開発したこと、あるいは1990年代に、いまでは日産ミニバンの“顔”ともいえる「ハイウェイスター」シリーズを初めて世に出した成功体験など、オーテックのカスタマイズには歴史と実績があるのだ。
一方のNISMOはといえば、サーキットでの極限のバトルで磨いたテクノロジーやファイティングスピリットを注ぎ込んだ硬派なモデルという位置づけになるという。また細かいことになるけれど、AUTECHブランドのモデルはオーテックの独自開発であるのに対し、NISMOモデルは「日産からの委託」というかたちになるそうだ。
なるほど、現在の日産とオーテック、そしてニスモの関係が理解できてすっきりしたところで、オーテックの車両と本社内を見学する。
30仕様ものクルマをひとつの工場でつくる
AUTECHモデルの試乗インプレッションは後日紹介するとして、ここでは同社工場の生産ラインを紹介したい。まず見学したのは福祉車両、主に車いすで乗り込むことができる「セレナ」のスロープ仕様の製造現場だ。
まず、日産の九州工場から送られてきたセレナを搬入する。ボディーを切ってスロープを取り付けるために、フロアやトリムなどの内装や、燃料タンク、排気管、タイヤ、足まわりなどはすべて取り外す。ここが一番大がかりな工程になるという。次に、ボディーを切り、スロープを取り付けて溶接を行う。溶接が完了したら次は塗装で、最後に外した内装やタンクなどを取り付ける。これらの工程に要する時間は約100分。最大で、一日に5台が生産できるという。
オーテックの生産工場は、混流生産……つまりセレナでも「エルグランド」でも、スロープ車でもリフター車でも、フレキシブルに対応できる体制となっているのが特徴で、ここが大量生産のラインとの大きな違いだ。また、福祉車両用のパーツ倉庫にも工夫が凝らされている。車両の組み立てに必要となるパーツの情報はすべてバーコードに変換されており、倉庫のセンサーにバーコードをかざすと、該当するパーツの棚にLEDの光がともる。必要な部品を漏らさずピックアップできるよう整備されているのだ。多品種少量生産のノウハウはこうして蓄積されていくのか、と納得する。
メーカー基準の高い品質を保つために
続いて、オーダーメイドで“一点モノ”のクルマを製作する部署を訪ねる。工場というより工房といった雰囲気で、ちょうどエルグランドの2列シート・4名定員モデルである「VIP」が完成間近のタイミングだった。
面白いのがここから旅立っていった車両のリストで、例えば1969年の日本グランプリで活躍したレーシングマシン「R382」のレストア車両や、SUPER GTのペースカー、あるいはモーターショーのコンセプトモデルなどが、この工場で製作されたという。最近では車中泊のできるキャンパーの引き合いが多いとのことで、たしかにメーカーと同じ保証が備わるオーテックでワンオフ車をつくってもらえるのなら、それは安心だろう。
ところで、今さらりと「メーカーと同じ保証」と記したけれど、これは簡単な話ではない。オーテックでは-50℃から100℃までの気温で内外装の耐久試験ができる設備や、衝突時の福祉機器の安全性を確認するテスト機器を備えるなど、品質保証には万全を期しているのだ。
クルマを必要としている人の好みや使い方は千差万別であるから、福祉車両にしろ車中泊をするキャンパーにしろ、できれば細部までカスタマイズしたいと考える人は少なくない。ネックとなるのはコストと信頼性で、オーテックジャパンはそうした問題を解決しつつ、ニーズに応えてくれるというのが、工場見学を終えての印象だった。
クルマは今後、シェアしたりレンタルしたりするものと、愛着を持って接するペットや家族のような存在とに分かれていくはずだ。後者に該当するモデルを扱うオーテックジャパンは、これからさらに存在感を高めていくに違いない。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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