ホンダ・アコード タイプS(FF/5AT)【試乗記】
“外向き”のクルマ 2011.04.21 試乗記 ホンダ・アコード タイプS(FF/5AT)……393万9250円
縮小する日本のセダン市場において、「ホンダ・アコード」はどんな意味を持つのか? マイナーチェンジを機に加わった「タイプS」に試乗しながら考えた。
駅弁食っててトヨタに勝てるか!
2011年2月下旬に「ホンダ・アコード」がマイナーチェンジを受け、「タイプS」というグレードが新たに設定された。このクルマを紹介する前に、ちょっと回り道させてください。
3月30日付けでホンダから送られてきたプレスリリースを読みながら、遠くを見る目になってしまった。以下、リリースの一部を抜粋。
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Hondaの米国における航空機事業の子会社である「ホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Company, Inc. 以下、HACI)」は、小型ビジネスジェット機「ホンダジェット(HondaJet)」の米国連邦航空局(以下、FAA)の型式認定取得に向けた飛行試験で、目標性能値である最高速度420ノット(時速約778km)を上回る425ノット(時速約787km)を量産型初号機で記録しました。
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遠い目になったそのワケは、本田宗一郎さんが社長だった時代に“お抱えヘリコプター操縦士”を務めた方にうかがった話を思い出したからだ。デジタルはまことに便利で、5年前のインタビューを文字化したファイルが5秒で見つかる。
お話の中で特に面白かったのは、経済誌の記者に「なぜヘリコプターを導入するのか?」と問われた時の本田さんの返答だ。「ウチの会社には、役員がのんびり駅弁を食いながら出張する余裕はないんですよ」。記者が帰った後で、「新幹線で駅弁食っててトヨタに勝てるか!」とタンカを切ったという。だから天国の本田さんは、ホンダジェットのニュースに目を細めているのではないか。「F1の2倍も速いゾ!」てな具合に、アイルトン・セナに自慢しているかもしれない。
といった回り道にお付き合いいただき、ありがとうございます。で、本題の「ホンダ・アコード タイプS」に戻ります。
日本人離れした体格と彫りの深さ
2008年12月に登場した8代目となる現行アコードは、基本的には欧州向けと同じ仕様。北米向けアコードは日本における「インスパイア」なので、別のクルマだ。
「アコード」のサイズは「アウディA4」より半まわり、「メルセデス・ベンツCクラス」よりひとまわりほど大きい立派なもの。実際、慣れるまでは都内のごちゃごちゃした道だと1850mmという全幅をもて余す。
大柄なサイズと「タイプS」仕様専用の好戦的な顔立ちがあいまって、パッと見た瞬間の存在感は際立っている。ノーマル仕様ではハイビームのランプがある位置にウィンカーランプがあり、コーナリングランプがサイドに回り込むように装着されるので、低くてワイドで彫りの深い造形になっている。街中で外国人モデルを見かけるとハッとするけれど、似た雰囲気がある。
「タイプS」は、インテリアにもドラマチックな演出が施されている。ベースとなる色は、ルーフまで統一したブラック。そこにシートのステッチやシート地のドット、メーターパネルの文字盤などに赤を用いて、“赤と黒”を対比させた。
「タイプS」とは、206psを生む2.4リッターエンジンに専用の足まわりを組み合わせたスポーティなモデルだ。エンジンのスペックに変更はないけれど、発進時の振る舞いが随分と上品になった。ちょこっと流れてすぐ止まる、都心の交通環境でもスピードコントロールがスムーズだ。エンジンのスペックを見る限り、低速域のトルクが増強されているわけではなさそうで、ドライブ・バイ・ワイヤ(コンピュータによるスロットル制御)のセッティングを煮詰めたのが勝因だろう。
足とエンジンは大人の味
試乗前は、「タイプS」専用の足まわり(ダンパーとバネ)と、235/45R18というスポーティなタイヤ(銘柄はミシュランPRIMACY HP)の組み合わせが気になった。ドッタン、ばったんの乗り心地だったらツラいなあ、とビビっていたけれど、それは杞憂(きゆう)に終わった。
ツラいどころかしっとりした大人の味わいだ。洗濯板状(といっても洗濯板なんて最近は見かけませんが)に荒れた路面を強行突破しても、さらりと受け流す。ダンパーとバネを変えただけでなく、ゴムやブッシュ類まで丁寧にセッティングされていることが伝わってくる。ボディががっちりしているのも、乗り心地にいい影響を与えていると見た。
高速道路に入ると、市街地で感じた乗り心地のよさに安定感、安心感が加わる。ただどっしりと真っすぐ走るというだけでなく、車線変更の時などに意図した通りに動いてくれるのが安心感につながる。
コンパクトカーのように切れ味鋭くスパスパ曲がるのとは違うけれど、大型サルーンでありながら鈍重さのかけらも感じさせないあたりは、ホンダっぽい。高速巡航でも退屈しないし、エンジン音、風切り音ともに低いから、本当の意味で快適だ。
パドルシフトは最初だけ使って、そのうち存在を忘れた。エンジンと5ATのトランスミッションの連携が巧みだから、アクセルペダルの踏み加減でギアとスピードを調節できるのだ。高回転域までスカッと回るには回るけれど、それよりフツーの回転域でのレスポンスと滑らかさが印象に残る。上質さと面白さを併せ持つ、いいエンジンだと思います。
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外に出て行く“外車”
いまさら言うまでもないことだけど、日本ではセダンが売れない。「ホンダ・アコード」にしても、月間販売台数が百数十台なんて月もある。でも、だからといってその存在を忘れることが惜しい力作だった。ETCゲート手前でブレーキを踏むと地面にへばりつき、17インチに大型化した前輪のブレーキディスクがスムーズに速度を殺す。この瞬間、「このクルマはヨーロッパのライバルと真っ向勝負できる」と確信する。
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思い出すのが、サッカー日本代表の本田圭佑選手だ。自分は大のJリーグファンであるけれど、名古屋グランパスにいたころの本田選手は図抜けた存在だという印象はなかった。むしろ、ちょこまか動きの速いJリーグの試合のなかで、やりにくそうにしていた。それがヨーロッパに渡った途端、ご存じのような大活躍。
正直、「ホンダ・アコード タイプS」が日本で爆発的に売れることはないだろう。だけど、クルマの良し悪しと売れるかどうかは、また別の問題。もうちょっと別の角度から光を当てないと、このクルマの真価がわからない。
自分としては、「ドリーム号やカブで出発」→「二輪のGPで世界制覇」→「駅弁食っててトヨタに勝てるか!」→「ホンダジェットで記録更新」という流れの中に置いてみると、「アコード」の存在や意味がしっくり腑(ふ)に落ちる。日本を飛び出し、場合によっては空にまで飛び出す、ホンダっぽい“外向き”のクルマなのだ。「外から入ってくる」のではなく、「外に出て行く」という意味での“外車”だ。日本の国内市場だけでは立ち行かない自動車産業の今後を考えるうえで、「アコード」の存在は面白い。そういえば1980年代の2代目アコードは、日本車としてはじめて海外生産したモデルだった。
(文=サトータケシ/写真=菊池貴之)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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