第199回:タイカン ターボで電費アタック
2021.02.01 カーマニア人間国宝への道ウルトラマンではなく怪獣のほう
前回は担当サクライ君より、「今度『GRヤリス』にお乗りになりますか」と提案され、登場したのが120PSのCVTモデル「RS」でずっこけたが、今回は何か。
サクライ:清水さん「タイカン ターボ」にお乗りになりますか。
オレ:乗る乗る~!
タイカンといえばポルシェ初の市販電気自動車(EV)。狂ったように速いと評判だ。今回も夜の首都高で一瞬フル加速をかまし、「こわいよ~、こわいよ~」と、オッサン2人でピィピィ泣こうって寸法だ。
前回はサクライ君がGRヤリスにまったく無知だったが、今回は私がタイカンにまったく無知である。なぜなら、実にバカバカしいクルマだと思っているからだ。
そもそもEVの本分は地球環境を守ること。つまりウルトラマンである。が、バカデカいバッテリーを積んで狂ったように加速するEVなど怪獣。ウルトラマンが怪獣になってどうする。ポルシェはバカか! どうせバカなら「カウンタック」くらい羽目外して見ろや! と思っている。だからまったく詳しくないのだが、「お乗りになりますか」と言われればぜひ乗ってみたいのである。
夜8時。わが家にタイカンが到着した。ボディーが黒っぽくてまるで形がわからないが、怪獣だけにたぶんすごくデカイのだろう。
オレ:これ、全幅どんぐらいあるの?
サクライ:デカいです。
オレ:どんぐらいデカいの?
サクライ:えーと、全幅1966mmです。
オレ:えっ! カウンタックより狭いじゃん!
サクライ:でも全長は4963mmあります。
オレ:それも5m以下なんだ。じゃ、杉並区の路地でも大丈夫だね!
われわれは杉並区の路地を抜け、首都高4号線の永福ランプへ向かった。
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気分はまさに宇宙船!
今回の試乗の目的は2つ。ひとつは、フル加速をかまして小鳥さんのようにピィピィ泣くこと。もうひとつは電費アタックである。先日「ホンダe」で9.8km/kWhをたたき出して以来、私は電費アタックに燃えているのだ。
ますはフル加速だ。首都高の合流加速で、タイカンのアクセルを床まで踏み込んでみた。
「ひゅおおおおおおおお~~~~ん」
オレ:うひい! すごい加速だけど怖くな~い! クルマが地面に張り付いてる~!
サクライ:んでも、ちょこっとケツ振りましたよ。
オレ:ほんの一瞬でしょ。さすがポルシェのEVは重心の低さがすごいね! フル加速すると地面にめり込みそう!
サクライ:さすがはポルシェですね。
続いてポルシェ得意の「スポーツ+」モードにブチ込み全開を試したところ、スタートレックのような人工音が室内に響いて、気分はまさに宇宙船! 昭和なオッサン2人は、ついに宇宙へ旅立ったのだった。
タイカン ターボはあっという間に代々木PAに到着した(近いので)。せっかくなので充電体験をしようと思ったが、サクライ君が充電会員の暗証番号を忘れたので断念。おいおいッ。しょうがないので早々にPAを出発した。
ここから電費アタックである。エアコンをオフにしてシートヒーターを最小限使い、首都高の走行車線をゆっくり流す。
680PSを誇るタイカン ターボは、ゆっくり走ってもまるで宇宙船だった。具体的には旧ソ連のSF映画『惑星ソラリス』そのものである。この宇宙怪獣、果たしてどんぐらいの電費をたたき出すのか。
走行モードは「レンジ」、つまり節約モード。アクセルを離した時の回生ブレーキはゼロだ。ゴー・ストップの少ないドイツでは、このほうが節約になるのだろうか。たぶんきっとそうだろう。
タイカン ターボは、糸の切れたタコのように、首都高を滑走した。
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実電費はどうか?
が、電費はあまり伸びない。6km/kWhになかなか届かない。空気抵抗は小さそうなので、ブッといタイヤやバカデカいモーターやクソ重いバッテリーによる抵抗か。まあこんな怪獣がホンダeに迫った日にゃ、ホンダさんの立つ瀬がないが。
オレ:サクライ君、6いかないね!
サクライ:それ、悪いんですか?
オレ:オレもよくわかんないけど、あんまり良くはないよ!
最後に2kmほど工事渋滞にはまった。「プリウス」で渋滞にはまると、EVモードが多用されて燃費がむしろアップするが、タイカン ターボはアップしなかった。考えてみりゃプリウスの燃費は電費を無視しているが、EVのタイカンは渋滞でも何でも電気で走るので、電費はアップしないのだった。
わずか30kmほどのテストながら、タイカン ターボでケチケチ走っての電費は、5.7km/kWhと出た! WLTCモードによる満充電からの航続可能距離は450kmなので、カタログ電費は4.8km/kWh。5.7/kWh出れば上出来だろうか? このペースで東北道を北上すれば、仙台まで充電なしで楽勝である。ちなみに、フル加速を含む自宅から代々木PAまでの電費は、3.3km/kWhだった。
サクライ:タイカン ターボ、宇宙旅行みたいで面白かったですね。
オレ:うん、とっても楽しかった! ありがとう! じゃまたね。バハハ~イ。
こうして私はタイカン ターボから降りたが、サクライ君にはそれからタイヘンな作業が待っていた。充電である。
充電にはやっぱり時間がかかる
タイカン ターボのバッテリー容量は93.4kWhと、ホンダeの約3倍。試乗終了時点でのバッテリー残量は2割ほど。ポルシェジャパン様への返却時には、原則8割まで戻さねばならないという。以下はサクライ君の充電報告である。
<担当サクライのタイカン ターボ充電・車両返却時リポート>
突如、暗証番号を思い出したので(笑)、帰りに首都高速道路4号新宿線・代々木PAで充電してみました。この給電スタンドでは一回20分の充電が行えます。今回は充電時間19分で、利用電力量8.44kWh、料金は760円でした。どうやら“中速”と呼ばれる30kW規格のようです。しかも一回につき20分しか充電できないので、タイカン ターボではバッテリー容量に対して15%ぐらいしか残量が増えませんでした。この充電が完了した時点で、バッテリー残量は34%(ノーマルモードでの航続可能距離131km)と表示されました。
そのあと、急速充電設備のある自宅近くのガソリンスタンドで追加充電。こちらは50kW規格で、一回につき30分の充電が行えます。
1回目は充電時間30分で利用電力量22.97kWh、料金は1650円。2回目も充電時間30分で利用電力量は24.22kWh、料金は同じく1650円でした。
上記のように20分×1回と30分×2回の尺取り充電を行い、バッテリー容量の81%(同319km)まで回復。翌朝、返却時に首都高と一般道をあわせて11kmほど走行し、最終的に返却時のバッテリー残量は75%(同280km)でした。移動に使った6%は勘弁してもらいました。
ちなみにポルシェジャパンの駐車場には、今のところ200Vの普通充電設備しかなく(ただし同施設の一般時間貸しエリアには別途、有料急速充電器もアリ)、3時間つないで7%ぐらいしか充電できないとのことで、広報車担当スタッフの苦労がしのばれます。自動車メディア関係者におかれましては、ポルシェの広報車両にご試乗の際は感謝一礼をぜひ。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。