マツダ3セダンX Lパッケージ(FF/6AT)/マツダ3ファストバックXD Lパッケージ(4WD/6AT)
着実に 確実に 2021.02.10 試乗記 マツダのCセグメントハッチバック/セダン「マツダ3」が、発売から1年半を経て初の商品改良を受けた。外見は(ほぼ)そのままに中身を磨き上げたという今回の改良は、クルマにどのような進化をもたらしたのか? 開発者から聞いた“狙い”とともに報告する。複数の主力パワートレインを手直し
マツダ3は2019年5月の国内発売以来、約半年遅れでのガソリン自着火エンジン「スカイアクティブX」の導入や、2リッターガソリン4WD車の追加、そしてセダンへの1.5リッターガソリンエンジン車の設定と、増殖を続けてきた。が、はっきり「商品改良」と銘打たれた変更は、今回が初めて。改良モデルの正式発売は2020年11月だったので、発売1年半での初改良ということになる。
今回はさすがに内外装デザインには手をつけていないが、4種のうち3種のパワートレインに、なにかしらの変更が加えられている。
まずは2リッターガソリン車にも、筋金入りのマニア待望のMT仕様が追加された。この設定は5ドアの「ファストバック」のみで、4ドアセダンが全車ATであることは変わらずだが、これによって、ディーゼル以外のすべてのFF車で(スカイアクティブXでは4WD車でも)MTを選べるようになった。
そして、1.8リッターディーゼルと最上級となる2リッタースカイアクティブX(以下、X)の両エンジンでは、ピーク性能の向上と味わいの熟成が図られている。どちらもハードウエアはそのままでの“制御のみでの改良”となるが、ディーゼルは「ディーゼルらしいトルクの太い走りを幅広いシーンで強化」、Xは「ドライバーの意図に応える瞬発力を高めた自在感を洗練」と資料にうたわれている。
さらには全車でシャシーチューンに手が入れられた。乗り心地がちょい硬め……が、これまでのマツダ3に対する一般評価と思われるが、開発陣は「ピッチング方向の動きが出やすいクセがある」との着目から、主にフロントサスペンションを見直すことで改善を目指したのだという。
さらにはアダプティブクルーズコントロールの使用時に、操舵支援によって車線中央付近の走行や前走車の軌跡にそった走行をアシストする「クルージング&トラフィックサポート」の作動範囲を拡大した。これは「CX-30」に続く改良で、上限速度を従来の55km/hから高速域(速度は未公表)まで広げた。
高回転域で感じられる確かなちがい
今回の取材は、マツダ主催のメディア試乗会におけるもので、具体的には横浜みなとみらい周辺の市街地と首都高速を走ることとなった。試乗車はディーゼルとXの2種類で、どちらにも改良前と改良後の試乗車が用意された。
まずは1.8リッターディーゼルに乗る。試乗車はファストバックの4WDだ。まず改良前モデルに乗って、そのまま改良後モデルに乗り換えたのだが、市街地での走りだしの印象は「1000-2000rpmでのエンジン反応がリニアになった気がしないでもないが、気のせいかもしれない」といった程度である。アクセルペダルの踏みはじめの応答性を高めた=ツキをよくした……というのが開発陣の主張だから、気のせいではないだろうし、この部分に敏感なドライバーには有益な改良と思われる。とはいえ、良くも悪くも、激変というほどではない。
ただ、交通量多めだが順調な速度で流れている首都高速での合流などで、アクセルを大きく踏み込んでATのキックダウンを誘発した場合には、今回の改良はちがいが歴然である。こうした場合はエンジンの回転数が3000rpm台に乗るわけで、最高出力アップ(116PS/4000rpm→130PS/4000rpm)の効果が如実に表れるのだろう。
改良前は全域でフラットに去勢された感が強く、3000-4000rpmの高回転域で期待するほどパワーが出なかった。そのせいもあってか、「マツダの1.8リッターディーゼルはちょっとネムい」との印象を抱かざるをえなかったが、改良後はその領域で、スカッと抜けたようにパンチが出るのが心地よい。2リッターガソリンより上級……という1.8リッターディーゼルの立ち位置は、改良後のほうが分かりやすい。
最新技術に合わなくなりつつある型式認証制度
次に乗ったのはセダンのXだったが、これは走りだした瞬間から、改良前後のちがいがあからさまである。これはXが発展途上の新技術ゆえなのか、あるいは初出し時のセッティングが相当に慎重だったからか。なんのハードウエアの変更もなく、発売から1年でこの激変ぶりというのはちょっと驚く。
数値上も、最高出力で10PS、最大トルクで16N・m上乗せとなっているが、よりツキがよくなったアクセルレスポンスやパンチ力は、体感的にはそれ以上のものがある。
また、エンジン音もこれまでよりツブがそろった心地よい音に変わっていたが、この点は「エンジン音については特別に調律したわけではありません」とことわりをいれつつ、開発担当氏が「今回はディーゼルもスカイアクティブXもEGRの制御精度を上げましたが、Xでは各サイクルの自着火燃焼の強さがそろったことで、音の変動が少なくなっています。排気音の変化も燃焼がそろってきたことによる副次的なものです」と説明してくれた。
繰り返しになるが、両エンジンの改良はすべて制御プログラムの変更によるものだ。技術的には既納車のアフターアップデートが可能であり、マツダとしてもそうしたサービスを考えているというのは、すでに報じられているとおりだ。その内容は現在のところ検討中とのことだが、アーリーアダプター的な役割を担った改良前Xユーザーのアップデートは無償、ディーゼルは有償……といった条件になる可能性もあるらしい。
ただ、いずれにしても国内の現行法規では、パワートレインの制御だけであっても、出力・トルクや燃費の性能値が変わると型式認証は再審査となる。同サービスは、国によるそのあたりの規制緩和とも無関係ではない。われわれとしてはこれを機に、こうした時代に合わない規制は撤廃して、新しいサービスの可能性をぜひ前に進めてほしいところだ。
よりフラットかつしなやかな乗り味に
「走行中の前後方向の揺れ=ピッチングを抑制したフラット感」を目指したシャシー改良は、フロントスプリングのレートアップとそれに組み合わせられるダンパー減衰の最適化、そしてフロントバンプストッパーのアタリをより柔らかくして、コイルスプリング領域とのつながりを滑らかにしたのだという。
ピッチングの原因を、相対的に突っ張り気味のリアサスペンションにありと解析した開発チームは、サスペンションの前後バランスを“フロント高め”にして、リアをより滑らかに動かすようにした。フロントのバネレート引き上げと、伸び側を弱く、縮み側を強くしたダンパーにより、リアにより明確にカツが入るようにしたということか。
新旧を比較すると、なるほど、全体に姿勢はフラットに保たれるようになっている。この点は多くの人が乗り心地の改善ととらえるだろう。フロントがわずかに硬くなったことと、初期部分でよりしなやかに当たるバンプストッパーのおかげか、ステアリングの反応も少し俊敏になったきらいがある。ただ、ブレーキングで適度にノーズダイブしてくれた改良前モデルも、そのぶんステアリングの接地感は濃厚だったりして、個人的にはドライバーズカーとして捨てがたかった気もする。贅沢をいえば、改良後の乗り心地と改良前の接地感の両立を目指してほしいところだ。
また、マツダ3のフロントサスペンションストロークは、バンプストッパーに当たるまで約10mmだそうで、こう聞くとやけに短く思える。しかし、実際には「フォルクスワーゲン・ゴルフ」も含めた最新の欧州車では、これが常識的な設計思想だという。具体的には橋のジョイントなどの大きな目地段差を乗り越えたとき、あるいは0.2~0.3Gの制動(≒コーナリングのための強めのブレーキング)でフロントがストッパーに当たりはじめるそうだが、その付近をいかに優しく、同時にしっかりと受け止めるかが、最新の操安技術の世界的なキモになっているのだとか。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
フェンダーバッジにみるマツダの“変化”
Xを含むガソリンモデルのマツダ車には、「スポーツモード」スイッチが備わる。従来のスポーツモードはあくまでパワートレイン限定の機能で、またマツダのガソリンエンジンは大半が自然吸気だったこともあり、正直それほど効果的と思えなかったのも事実だ。ただ今回のXからは、スポーツモードの制御に、パワートレインに加えて「G-ベクタリングコントロール(GVC)」も介入するようになった。つまり、スポーツモードに合わせてGVCもより積極的な制御となるようになったのだが、GVC制御が可変式になるのは今回が初。マツダ3のそれは、厳密にはブレーキ制御も加えた「GVCプラス」だが、通常領域での「ステアリングを切るとエンジントルクオフ(=前荷重)、ステアリングを戻すにつれてトルクオフ解除(=後ろ荷重)」という基本ロジックは変わりない。
そんなGVCの相乗効果もあるXのスポーツモードは、なるほどパワートレインだけでなく、ハンドリングも明確に活気を増す。ターボ車や可変ダンパー車ほどに激変はしないが、好事家なら自分の運転のテンションをいつもより1段階上げるためのスイッチとして活用できそうだ。それくらいには変わる。
初代「CX-5」以降のマツダの商品群では、この種の可変アイテムや、グレードを示すバッジなどを否定することで、「理想はひとつ、うわべの差別化は無意味」との独自の美学を打ち出してきた。ただ、いっぽうでは「もうちょっと体感しやすく」とか「せっかく高価な上級モデルを買っても自慢できない」といった市場の声もあったという。今回のスポーツモードの改良も、そんな市井の声にこたえたもののひとつで、XのGVCはベルト駆動マイルドハイブリッドのモーターをコントロールに使っていることもあり、より緻密で明確な制御が可能だからこそ実現したものだという。
今回の改良もマツダらしく「念」みたいな領域のものも多いが、まあ着実に前に進んでいることも事実。高価なXには目立ちやすいフロントフェンダーに「SKYACTIV X」バッジもつくようになったので、今度は黙っていても上級マツダエンスーとして一目置いてもらえることだろう。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
テスト車のデータ
マツダ3セダンX Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1795×1445mm
ホイールベース:2725mm
車重:1450kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:190PS(140kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:6.5PS(4.8kW)/1000rpm
モーター最大トルク:61N・m(6.2kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:17.2km/リッター(WLTCモード)
価格:338万0463円/テスト車=379万0742円
オプション装備:ボディーカラー<マシーングレープレミアムメタリック>(5万5000円)/スーパーUVカットガラス<フロントドア>+IRカットガラス<フロントガラス/フロントドア>+CD&DVDプレーヤー+地上デジタルテレビチューナー<フルセグ>(4万9500円)/360°セーフティーパッケージ<360°ビューモニター+ドライバーモニタリング>(8万6880円)/ボーズサウンドシステム<AUDIOPILOT2+Centerpoint2>+12スピーカー(7万7000円)/電動スライドガラスサンルーフ<チルトアップ機構付き>(8万8000円) ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万3899円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1770km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 拡大 | 
		
マツダ3ファストバックXD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1440mm
ホイールベース:2725mm
車重:1470kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130PS(95kW)/4000rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1600-2600rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(トーヨー・プロクセスR51A)
燃費:18.8km/リッター(WLTCモード)
価格:320万9555円/テスト車=346万5834円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドクリスタルメタリック>(6万6000円)/スーパーUVカットガラス<フロントドア>+IRカットガラス<フロントガラス/フロントドア>+CD&DVDプレーヤー+地上デジタルテレビチューナー<フルセグ>(4万9500円)/360°セーフティーパッケージ<360°ビューモニター+ドライバーモニタリング>(8万6880円) ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万3899円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1662km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
- 
  
  2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
 - 
  
  シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
 - 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
 - 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
 - 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
 
- 
              
                
                        
                          NEW
                    2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(後編:無限/TRD編)【試乗記】
2025.11.4試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! 彼らの持ち込んだマシンのなかから、無限の手が加わった「ホンダ・プレリュード」と「シビック タイプR」、TRDの手になる「トヨタ86」「ハイラックス」等の走りをリポートする。 - 
              
                
                          NEW
                    「新車のにおい」の正体は?
2025.11.4あの多田哲哉のクルマQ&Aかつて新品のクルマからただよっていた「新車のにおい」の正体は? 近年の新車ではにおうことがなくなった理由も含め、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが解説する。 - 
              
                
                        
                    第322回:機関車みたいで最高!
2025.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。 - 
              
                
                    現行型でも中古車価格は半額以下! いま本気で狙いたい特選ユーズドカーはこれだ!
2025.11.3デイリーコラム「クルマが高い。ましてや輸入車なんて……」と諦めるのはまだ早い。中古車に目を向ければ、“現行型”でも半値以下のモデルは存在する。今回は、なかでも狙い目といえる、お買い得な車種をピックアップしてみよう。 - 
              
                
                        
                    スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.3試乗記スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(横浜ゴム)
2025.11.2画像・写真全日本スーパーフォーミュラ選手権に供給しているレーシングタイヤや実際のマシン、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「アドバンスポーツV107」の次世代コンセプトモデルなどが初披露された横浜ゴムのディスプレイを写真で紹介する。 
      




















































    
    
    
    
    




                        
                          
                        
                    
                        
                    
                    
                  
                  
                  
                  
                        
                    
                        
                    
                        
                    