第646回:思い描いた未来がそこに! トヨタの最新運転支援システムを試す
2021.04.20 エディターから一言![]() |
2021年4月8日にトヨタが発表した、高度運転支援機能「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」。従来の技術とは何がどう違うのか? 同機能を搭載する「レクサスLS」に試乗して確かめた。
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補器類はマシマシ!
レクサスLSにビッグマイナーチェンジが施された2020年秋、その搭載が予告されていたのが、自動車専用道路でのハンズオフドライブを実現するアドバンストドライブだ。それからおおむね半年の時を経て、いよいよ販売が開始された。LSを担当する武藤康史チーフエンジニアによれば、この間、コロナ禍の様子もうかがいながら行われていたのは、主に実装にまつわる確認や調整だという。
「膨大なシミュレーションや同型での開発テストを重ねていても、最後は現物に搭載して実地で確認しなければなりません。マイチェンモデルを世に出し、意匠的なところをさらしても差し支えないという段になってからのテストに時間を費やしていました」
こと走行安全に関わる領域ゆえの入念な策というわけだろうか。ちなみに今回のアドバンストドライブは、LSのなかでも「500h」、つまりハイブリッドの上位車種、そして同じ電子プラットフォームを持つFCV「トヨタ・ミライ」にも搭載されている。
ここで勘のいい読者の方は、この両車の共通点に気づかれるだろう。それは電力を潤沢に供出することができるということだ。アドバンストドライブでは認識用と走行制御用に高演算のECUをおのおの搭載しており、この動作安定化のためにはリッチな電源が必要とされる。さらに万一の電力低下による誤作動を避けるために、アドバンストドライブを搭載した場合、売りである最大1500WのACアウトレットはオプションでも装着できない。ここからも安全担保への入念な姿勢が伝わってくる。
アドバンストドライブが搭載するセンサーは従来のアダプティブクルーズコントロール用ミリ波レーダー、ステレオカメラ、前後クロストラフィックアラートやブラインドスポットモニターのためにバンパー四隅に配される4つのミリ波レーダーに加えて、200m近く先までを見通す望遠カメラ、自社位置をより正確に認識するロケーターカメラ、そしてレーザースキャナー(フロントバンパー中央下部)を搭載。つまり5レーダー/4カメラ/1ライダーの構成となり、そのほかにサイドカメラも補助的に車線認識などを行っているという。
通信で進化するクルマ
ちなみに搭載車の意匠上の特徴となるフロントフェンダーの左右やリアバンパー中央下部の黒いスペースは現状カバーリングされているが、システムの進化に応じてレーザースキャナーを追加するスペースに充てることを想定しているという。アドバンストドライブではOTA(Over The Air)を用いたソフトウエアアップデートによる機能拡張がうたわれているが、このようにハードウエア側もアップデート提供を想定しているというところが今までにない新しさだ。データを送受するDCM(Data Communication Module)についてはauの4G通信網を継続使用し、5Gへのアップデートは未定。ロケーターカメラやレーザースキャナーなど追加されたセンサー類はシステム構築を担当したデンソーが供給している。
アドバンストドライブの核たる先述の2つのECUについては、認識情報を基にAIによるディープラーニングを行う「ADX(Advanced Drive Extension)」と、認識情報を基に走行制御をつかさどる「ADS(Advanced Drive System)」があり、前者にはNVIDIA、後者にはルネサスのシステムオンチップが搭載される。領域が重なる部分もあるが、これもまた安全のための冗長性を確保するための策だ。これほどの高演算になると当然ながら発せられる熱管理も重要で、LSはリアエアコンユニットから冷却チャンネルを分岐、ミライでは空冷ファンを増設することで対処しているという。
高精細地図は国内自動車メーカーや地図メーカーなどが出資するダイナミックマップ基盤のデータを活用、システムは全国の高速道路や自動車専用道路に対応するが、当然ながらわれわれクルマ好きの好物であるワインディングロード的な有料道路は例外となる。ちなみに北海道から沖縄まで、カバーエリアのほとんどは実走確認しているというから、足かけ5~6年になる開発での走り込みの距離は恐らく3桁万kmは軽く到達しているのではないだろうか。
と、ここでようやく実効的な話となるのだが、アドバンストドライブの主な機能は自動車専用道路上での“レベル2相当”のハンズオフドライブで、分岐、追い越しを伴う車線変更は車両側からの提案によって安全確認のための視線移動を行ったという判断のもとにクルマの側で行う。本線に入ってくる車両を感知すれば適切に車間を開けて合流を促すが、自車が本線へと合流する際には運転はドライバーの側に委ねられるなど、クルマの側とドライバーの側のどちらがイニシアチブを握るかについては、フル液晶化されたメーターや世界最大規模をうたうHUD(ヘッドアップディスプレイ)などを通じて明確に通知される仕組みだ。ちなみにレベル2であるがゆえに運行の最終責任はドライバーにあり、もちろんよそ見や居眠りなどはカメラで認識される。あえて試してみると5秒もたたずに素早く警報が発せられた。
従来のシステムとははっきり違う
試乗コースは首都高上で、長いものではC1内回りを周回して台場線でレインボーブリッジを渡り湾岸線の東行きに合流、そこから千鳥町で湾岸線を折り返して、最終的には9号線をC1に向かうというルートだった。ローカルな話で申し訳ないが、C1の内回りといえば基本制限速度50km/h、首都高では最も曲率の小さいブラインドコーナーが時に高低差を伴いながら連続する難所中の難所だ。トンネルも多くGPS情報が不安定ゆえ、高精細地図が使えない。それゆえにハンズオフには至らず、カメラ情報をもとに操舵することになる。つまり、従来の「アクティブレーンキープアシスト」と同条件だ。
アドバンストドライブはその状況でさえ、安定したレーントレースを実現していた。こちらは緊急時に備えて常に手を添えているが、手慣れたドライバーに乗せられているように車体は落ち着き払ってコーナーを曲がっていく。GPS信号をロストしている状況でも自車位置が曲率情報の入った地図データに乗っているがゆえに追従の柔軟性が高まっているのだろうか、その挙動は明らかに従来の制御とは一線を画している。
結局C1の大半をほぼクルマ任せで走りきり、台場線に入るといよいよアドバンストドライブが作動。メーターやHUDが青いグラフィックで彩られることで、ハンズオフが可能であることが示される。このモードではライントレースのスタビリティーは一段と高まる印象で、車線内におさまっての前車追従クルーズコントロールとして使うぶんには従来のものより安心感が高い、そのおかげで不信感なくハンズオフに誘われる。
設定速度より15km/h以上の速度差がある場合の前車追い越しや分岐や出口に向かう際などの車線変更は、その提案コマンドごとにステアリングの「OKボタン」を押して手を添え、視線を車線変更側に移動することでウインカーを自動発報しながら実行されるが、やるべきことが多くて煩わしさを感じなくもない。そして平日日中の首都高のタイトなトラフィック内では周囲がなかなか遂行の余地を与えてくれないこともあり、クルマの側が操舵の判断に迷っているのではと思う挙動も時折見て取れた。追い越し動作の際にトラックの横を通る場合は自車位置を車線内でもややオフセットするなどきめ細かな制御に感心させられる場面もあったが、やはり現状でこの機能自体が十全に生かされるのは、都市高速ではなく一般的な高速道路くらいのスケールになるだろう。
ユーザーの協力にも期待
それでもアドバンストドライブが限りなくレベル3相当の位置にいると実感させられたのは9号線の木場付近、左右に連続するカーブをすこぶるスムーズにハンズオフドライブで駆け抜けた時だ。制限速度内とはいえ、2t級の車体が至極滑らかに左右に導かれるサマには、描いていた未来が確実に近づきつつあることを思い知らされる。
ちなみにアドバンストドライブはLS、ミライの双方ともオプション扱いではなく追加装備等も含めた搭載グレードとして設定されており、アドバンストドライブ単体の価格は定かでない。が、ベース車との価格差から推するに、そのお代は50万円余といったところだろう。もちろん高精細地図の更新は随時施されるものの、今後の機能的アップデートでどのような機能追加がなされていくかは、武藤チーフエンジニアいわく、市場動向などもみながら検討していくとのことだ。
「この手のシステムで重要なのは社会受容性ですよね。この先、どのような機能が求められ、その時々の社会の中に入った時に周囲に違和感を抱かせないものであるか。そこを慎重にみていくつもりです。もちろんアドバンストドライブは普及によるフィードバックでの進化を想定していますから、選んでいただいたお客さまには積極的に意見を上げていただけるとうれしいんですけどね」
ソフトウエア・ファーストの体系になれば、実効サンプルの多さが開発能力に直結してくる。安全担保にはあきれるくらい慎重な従来のトヨタ的一面と、カスタマーと共に磨き上げていくというトヨタらしからぬ共助的な一面とが、アドバンストドライブの上市の背景から垣間見えるのが興味深い。これもまた、トヨタの変革のひとつの象徴だろう。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。