第40回:雨とタイヤと忘れ物
2021.05.07 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして 拡大 |
ついにタイヤを新調した「ダッジ・バイパー」で、春の武蔵野→小金井ツアーを敢行! 排気量8リッターのマッスルカーと「ニットー・インヴォ」の相性は? そもそもなんで行き先が小金井なの? 春の嵐もなんのその、デトロイト産の毒ヘビが関東を縦断する。
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忘れ物は何ですか?
賞味期限切れの発覚から4カ月もの放置ののち、ようやくニットー・インヴォにタイヤを履き替えたのが前回のお話。今回は、その使用感をお届けしたい。ちょうどタイヤを交換した翌日、武蔵野→小金井を往復するという、まことインプレに好適な用事があったのだ。
ここで「いや、小金井って武蔵野の隣じゃねえか。徒歩でも行けるわ!」と思ったアナタ、落ち着きたまへ。ここで言う小金井とは、東京都小金井市のことではない。栃木県下野市小金井のことである。せっかくの初春の週末に、なぜそんなところに行かねばならなかったのか。それを説明するためには、3月11日まで時計の針を戻さねばなるまい。
その日、栃木某所でドゥカティの試乗会(その1、その2)を取材した記者は、小山駅から東京へと電車で戻っていた。普段なら社用車や撮影車、あるいはカメラマン氏のクルマで一緒に往復するところだが、このときは諸般の都合でそれがならなかったのだ。別に“鉄男”でもない記者にとっては、これだけでも十分に罰ゲームだった。
しかも不運は続くもので、大宮での人身事故により電車が1時間立ち往生。かつ行き先が新宿(湘南新宿ライン)から上野(宇都宮線)に変更されてしまったのだ。武蔵野暮らしの記者としては度し難い遠回りであり、加算された時間と+αの乗り換えに、神田に着くころにはすっかりヘロヘロ。そして懐かしの中央線に乗らんとして、ようやく気づいたのである。上野での乗り換えの際、ヘルメットとグローブをズダ袋ごと電車に置き忘れたことを。慌てて駅の窓口に駆け込んだものの、そんな忘れ物は見つかっていないとのこと。一行は誰の目にも留まることなく、ひっそりと上野で折り返し、小金井へと旅立っていったのだった。
かくして記者は、貴重な休日をつぶし、宇都宮線の終点駅までそれらを迎えに行くことになったのである。
ここぞというときに必ず裏切る
時は進んで3月13日(土)、記者はきっかり朝5時に目を覚ました。目覚まし時計をかけ違えたのではない。その目覚めは寸分のスキもないプランにのっとったものだった。すなわち、朝8時の窓口オープンとともに小金井駅でブツを受け取り、返す刀で神奈川・相模原へ直行。コレクションズさんでタイヤを交換してもらうというプランである。
なぜこんな綱渡りなスケジュールを組んだかというと、
(1)すでにこの日にタイヤ交換の予約を入れてしまっており、これ以上先延ばしにしたくなかったから。
(2)小金井駅でズダ袋一行を預かってもらえるのは翌14日の正午までと、時間的余裕がなかったから。悠長に構えていて何かあったら、目も当てられない。
以上である。加えてこの日は、昼以降に豪雨が見舞うという不穏な天気予報も出ていた。雨が弱いうちに小金井往復を済ませ、相模原に駆け込もうと算段したのだ。
このように綿密なプランを組んだ記者だったが、実際に家を出たのは時計の針が9時に迫る時分だった。なんでそんなことになったかというと、バイパーのバッテリーが枯れていたのだ。タイヤのすり減りが発覚して運転がおっくうになったのと、新戦力「ヤマハ・トリッカー」にうつつを抜かしていたことのダブルパンチで、ここ最近はバイパーを動かしていなかったのである。
無論、既述のプランはあえなく破綻。同日の小金井行きは断念である。「いざってときに……」を地で行く相方に(実際には己の過失であるが)、部屋に戻ってしばしふて寝。程よい時間にロードサービスを呼ぶと、バイパーはジャンプスタートで不承不承目を覚ました。弱っているとはいえバッテリーに電気が残っていたためか、以前のようにセキュリティーが邪魔に入ることはなく、とはいえスターター1機ではエンジンは微動だにせず、まさかの2機直列でようやく始動と相成った。さすがは8リッターV10。ダンプカーかアンタは。
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16mmの集中豪雨もなんのその
こうして出ばなをくじかれ、「なんだかなあ」な気分で相模原へと出立した記者とバイパーだが、多摩川を渡るころには考えが変わっていた。予想より早くに、予想以上に雨脚が強くなったのだ。もし今ごろ、ミゾのないSタイヤで高速道路を走っていたらどうなったことか。水をかき、滑りながら坂道発進するバイパーに、「こりゃ小金井に行かなくてよかったな」と嘆息。同時に、そうした相方のふるまいにも驚かなくなった己が胆力に、自分でちょっとビックリした。鍛えられたもんだなあ、私も。
そんなこんなで、普段の倍の時間をかけて相模原に到着。後のことは前回お話しした通りで、記者は4年間世話になった「トーヨー・プロクセスR888R」に別れを告げ、ニットー・インヴォに履き替えたのである。
……と、ここまでに1800文字もの回り道をして、ようやく今回の本題である。お忘れの方は当記事冒頭を読み返してほしい。今回のテーマは、新しいタイヤの使用感。決してロクでもなかった週末をグチる回ではないのである。
皮むきも済んでいない新品だからと慎重に公道に出て、記者がまず感じたのは、インヴォの排水性とウエットグリップ性能の高さだった。なにせこの日は、最大雨量16mm、東名高速に50km/hの速度制限が出るほどの豪雨だったのだ。そんななか、インヴォはアスファルト上の水面をかき分け、われらを無事に都内まで運んでくれたのである。“慣らし”前の状態、しかも排水性ではとことん不利な極太サイズであることを思えば、その接地感は花丸をあげてもいいものだった。
正直言うと、ウエット性能に関しては名の知れたメーカーの現役銘柄にも、「なんやねん、これ」というものがチラホラあったりする。ましてやインヴォは2006年デビューの古参で、しかもあの意味不明なトレッドパターン(笑)。ぶっちゃけ、全天候性はろくに期待していなかった。それがキレイに裏切られたわけで、記者の気分は大いに盛り上がった。なんだよ、お前。結構やるじゃないか。
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インヴォのいいところ R888Rのよかったところ
日付は変わって3月14日(日)。記者は今度こそ小金井駅に忘れ物を取りに行こうと、朝6時に武蔵野を出た。いつぞやのように「放射第7号線はいつになったらつながるんだよ」と愚痴りつつ、ドジョウのごとく裏道を抜け、大泉ICから外環道に乗る。
さて、いよいよドライ路面での初走行となったわけだが、乗り心地だステアフィールだなんだの前に、記者は普通のタイヤで普通に走れる幸せに咽(むせ)んでいた。クルマが路面に寛容なのだ。「いつハンドルを取られるか」とピリピリしていたのは過去の話。鼻歌交じりに、普通にハンドルを握っていられるようになったのだ。
今までも、車検やアライメント調整のたびに改善はみられたのだが、やはりタイヤ交換の効果は絶大。なんだかんだいっても、前任者のR888Rはサーキット用銘柄であり、それを常用することには弊害があったんだなあ……。
このほかにも、やわらかいサイドウォールの恩恵で、凹凸に対するアタリが優しくなった。前みたいにドシンバタンしなくなった。トレッドパターンに起因する(と思われる)「みょーん/ぶーん」といったノイズともオサラバである。……まあ静粛性については、その他の箇所がにぎやかなのでさほど恩恵は感じられないが(笑)。とにかく、快適性、操縦安定性が格段に増したのは間違いない。
一方で失ったものももちろんあり、前任者には感じられた“みちっ”と路面をつかんで蹴る感覚は希薄に。また荒れた路面でのザラゴロ感は、ビミョーに、しかし確かに増した。もっとも、後者については特段インヴォがひどいというわけではない。R888Rを含め、ゴムのやわいSタイヤにはSタイヤなりのコンフォート感があったのだろうと思う(それをコンフォート感というか否かは別にしてね)。それを普通のタイヤに求めるのは、酷というものでしょう。
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普段使いでは申し分なし
……なんだか、インヴォのインプレのはずがR888Rの回顧みたいな話になってしまった。モシワケナイ。
前回も触れた通り、インヴォは快適性とスポーツ性の両立をうたった製品だが、現状では快適性のほうを強く感じる次第である。まあ、ドライグリップ性能を試すようなまねはまだしていないので、当たり前といえば当たり前なんですがね。加えて、先述の通り全天候性は意外と優秀。路面からのフィードバックも程よくダルく、日常使いでの使用感は「申し分なし」といった感じである。
もっとも、これはミゾが十分にあって、ゴムもまったく硬化していない現状での評価。タイヤってヤツは慣らしなどで短期的によくなる時期を除けば、性能は下がる一方。あとはどれだけ初期の状態を保てるかだろう。
気になるのはUTQG(※)のトレッドウエア(耐摩耗性を示す数値。高ければ高いほどいい)で、インヴォのそれはフロントが260、リアが220。これがどれくらいの数値かというと、ミシュランで言えば「パイロットスポーツ カップ2」(180)よりはいいが、「パイロットスポーツ4 S」「パイロット スーパースポーツ」(300)と比べると、少しばかり、いささか、いやリアに関してはかなり劣る感じだ。うーむ……。
もっとも、指標はあくまで指標。それに220といえばR888R(100)の2倍以上もあるではないか。さすがに今度は「1年でつんつるてん」なんてことにはなるまい。インヴォよ、末永くよろしくお願いしますよ。半年でハゲたりしたら、紙面でつるし上げてやるからな(笑)。
(webCGほった)
※:UTQG(Uniform Tire Quality Grading)とは、アメリカ運輸省が策定したタイヤの性能基準。アメリカで販売されるタイヤは、この基準にもとづいた試験を受け、その結果をサイドウォールに表示することが義務づけられている。表示される性能は、耐摩耗性と放熱性、ウエット性能の3種類。

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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