フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIスタイル(FF/7AT)
スタンダードの誇り 2021.08.06 試乗記 いよいよ日本の公道を走りだした8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。長年にわたりCセグメントハッチバックのベンチマークとされてきたゴルフだが、そのアドバンテージは新型でも健在か? 1.5リッターエンジンを搭載した上級モデルで実力を確かめた。ウリはデジタル化と電動化
「ぼくは人生であんなにすごいクルマを経験したことはそれまでなかったし、おそらく、もう将来もないんじゃないかと思う」
徳大寺有恒氏が名著『ぼくの日本自動車史』のなかで、フォルクスワーゲン・ゴルフとの出会いについて述べた一節である。1974年に発売された初代ゴルフは、そのぐらい衝撃的なクルマだったのだ。以来、ゴルフはFFハッチバックの代表と目され、乗用車のベンチマークという地位を守り続けてきた。
その8代目にあたる新型モデルが、クルマ好きから注目を集めるのは当然だろう。ヨーロッパより1年半以上遅れての日本発売となれば、飢餓感もひとしおである。フォルクスワーゲン グループ ジャパンのティル・シェア社長は、発売発表会見で「初代からずっと人々の生活に寄り添うピープルズカーであり、デジタル化や電動化に対応した新型でもそのあたりは変わっていない。シンプルで心地よい史上最高のゴルフだ」と胸を張った。
シェア社長の言葉のなかにあったデジタル化と電動化が、新型ゴルフのセリングポイントである。デジタル化とは、ディスプレイと操作系を一新したことを指している。液晶メータークラスターの「Digital Cockpit Pro(デジタルコックピットプロ)」を全車標準装備とし、電動類の操作はタッチパネルでコントロールする方式を採用した。
また電動化とは、フォルクスワーゲン初となる48Vマイルドハイブリッドシステムを取り入れたことだ。モデル名のなかの「eTSI」は、電動化された直噴ガソリンエンジン(TSI)という意味。新型ゴルフには1リッター3気筒エンジンと1.5リッター4気筒エンジンがあり、どちらにもマイルドハイブリッドシステムが組み込まれている。
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かすかな違和感
試乗車のグレードは「スタイル」。1.5リッターエンジン搭載モデルには上級の「Rライン」があるが、価格は5万円しか違わない。パワーユニットは同一で機能にも大きな差はないものの、Rラインにはクイックなレシオを持つプログレッシブステアリングが装備されている。さらに、スポーツサスペンションはRライン専用。デザイン面ではシートやホイールなどで差別化しているが、なんとも微妙な価格差である。
外観は伝統を守っている。初代からのアイデンティティーとなっている極太のCピラーを変えるわけにはいかず、見慣れたゴルフのフォルムが保たれた。ただ、まったく代わり映えしないというわけではない。実車は想像していたよりも低く構えており、スッキリしていてスポーティーな印象だ。見た目だけのことではなく、実際にCd値は先代の0.3から0.275に改善している。ドアミラーやルーフセクションなどに空力を考慮したデザインが施されているという。
全長は先代より30mm伸びたが、全幅が10mm、全高が5mm小さくなっているのは朗報である。コンパクトハッチの大型化には、どこかで歯止めをかける必要があった。ボディーは小さくても十分な広さの室内とラゲッジスペースを持ち、実用性に優れる。それが初代から続くゴルフのコンセプトである。過剰な装飾を排してシンプルな線と面で構成される実直さが魅力なのだ。
新型となっても慣れ親しんだ感触は変わっておらず、安心感がある。かすかな違和感を覚えたのは、ドアを閉めたときだ。あれ、こんなに軽い音だったっけ? ドイツ車はドア閉め音に重厚感があるというのがかつての通り相場だった。大衆車のゴルフでも日本車とは違う高級感があると感心していたのだ。気のせいかもしれないが、以前とは異なる乾いた音になったように感じた。
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ミニマリズムのインテリア
インテリアは明確に方向性を変えた。以前からシンプル志向ではあったが、新型の飾り気のなさはレベルが違う。合理性を突き詰めると、ミニマリズムに行き着くのだろう。センターコンソールは驚くほど簡潔な構成だ。小さなシフトセレクターが中心にあり、上下にスタートボタンやパーキングブレーキのスイッチが配されている。なんとも素っ気ないが、わかりやすいから使い勝手はいい。エアコンの操作パネルをなくした恩恵である。温度設定やオーディオのボリューム調整はモニターのすぐ下にある極薄のタッチスライダーで行う。
ダッシュボードの真ん中と右側にあるスイッチもタッチコントロール式だ。ライト類や各種アシスト機能、エアコンの細かい設定などを行う。物理スイッチを減らすのは世界的なトレンドだし、先進的なイメージにしようという意図はよくわかる。ただ、操作には慣れが必要なようで、うっかり指先が触れて何度も無駄にパーキングアシストを作動させてしまった。
2001年にBMWが「7シリーズ」で初採用した「iDrive」が、使いづらい代物だったことを思い出す。ダイヤルだけに機能を集中させるという意欲的なシステムだったが、操作法がややこしく、しばらくすると“戻るボタン”が追加されたのだった。ゴルフの新システムも、ユーザーからのフィードバックで何らかの改良が施されるかもしれない。
細かいことはさておき、ゴルフの強みはクルマとしてのベーシックな性能である。常にトップの座に君臨してきたのは、走る・曲がる・止まるという基本を押さえたうえで、スムーズな加速とシャープなハンドリング、快適な乗り心地を提供してきたからで、だからこそ多くのライバルから超えるべき目標とされてきた。2018年に発売された「トヨタ・カローラ スポーツ」の開発者も、ゴルフについて「本当にいいクルマで、勉強して参考にしてというのはありますね。追いつけ追い越せ、というのを今もまだやっている状態です」と話していた。
運転してみれば、やはりゴルフはゴルフだった。すべての面でスキがない。1.5リッターエンジンはパワフルというほどではないが、発進からスムーズでドライバーの意思に忠実な加速をみせる。モーターが強力なアシストをしているとは思えないけれど、低回転域での上質な走りを演出していることは確かなようだ。山道で元気が足りないと感じたときは、ドライビングプロファイル機能で「スポーツ」を選べばいい。アクセルレスポンスやステアリングの反応などが変更され、スポーティーな気分を味わえる。
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燃費向上機構がフル稼働
スピードはほどほどでも気持ちよく走れるのは、正確でキレのいいハンドリングのおかげだ。自然なフィールが軽快感を生み出し、コーナリングは爽快そのもの。高速巡航時には、燃費向上に寄与する機構がフル稼働する。アクセルオフですぐにコースティング状態になり、低負荷では気筒休止システムが作動して2気筒モードになることも多かった。メーターに表示されるからわかっただけで、運転していて走行状態の変化に気づくことはない。
後席とラゲッジスペースの広さは、同サイズのライバルのなかでは間違いなくトップクラスだ。実用車として、高いポテンシャルを保っていることは間違いない。しかし、感動するほどではなかったのも事実である。デザインやメカニズムに新機軸を打ち出しているが、驚きはなかった。ゴルフが突出して先を行っているという感じはしなかったのである。ライバルたちもゴルフを研究し尽くしているから、先行者利益が次第に失われていったのは仕方がない。
ゴルフがけん引してきたコンパクトハッチバックというジャンルは、今やメインストリームではなくなっている。フォルクスワーゲンも世界的なトレンドに従ってSUVに軸足を移しているのだ。日本における2020年の販売実績を見ると、ゴルフは1位ではあるものの「Tクロス」に肉薄されている。シェア社長は「これは最後のゴルフではない」と断言しているが、本国ではEVの「ID.」シリーズがすでに販売されている。SUVが主流となり電動化が加速する流れのなかで、ゴルフにどんな未来が待っているのかは不透明だ。
徳大寺氏に感銘を与えたのは、真面目なクルマづくりの哲学だった。だからこそ、先輩「ビートル」の後を立派に引き継ぎ、半世紀近く大衆車のスタンダードであり続けることができたのだ。このジャンルの全体的な底上げをもたらしたことが、ゴルフの最大の功績である。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
モーター最高出力:13PS(9.4kW)
モーター最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:17.3km/リッター(WLTCモード)
価格:370万5000円/テスト車=433万2000円
オプション装備:ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(16万5000円)/ラグジュアリーパッケージ(23万1000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2527km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:479.0km
使用燃料:31.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.4km/リッター(満タン法)/15.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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