ホンダ・ヴェゼルe:HEV PLaY(FF)/マツダMX-30(FF/6AT)
幸せな悩み 2021.08.10 試乗記 群雄割拠のコンパクトSUVのなかから、まったくキャラクターの異なる「ホンダ・ヴェゼル」と「マツダMX-30」に試乗。これほどまでに個性の違うモデルがそろうコンパクトSUV市場は、いま最もクルマ選びが悩ましく、また面白いといえるだろう。街なかではほとんどEV
(前編からの続き)
市街地で走らせるハイブリッドのホンダ・ヴェゼルは、ほとんどEV(電気自動車)と言ってもいいぐらい、モーターの駆動力だけで走行する。最高出力は131PS、最大トルクは253N・mというアウトプットに加え、電流が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターの特性から、発進加速に不満は感じない。むしろ、ふんわりと滑らかに加速するフィーリングが心地よい。
ここで2つのモーターを用いる「e:HEV」の仕組みを簡単に説明しておきたい。2つのモーターは充電用と駆動用。EVモードでは、バッテリーに蓄えた電気で駆動用モーターを使って走る。この状態では、発電用モーターはお休み。
ハイブリッドモードでは、エンジンが発電用モーターを稼働して発電する。この状態でのエンジンは原動機というより発電機であり、ここで得た電気とバッテリーに蓄えた電気を使って、走行用モーターを駆動する。このモードでは、2つのモーターがそろって活躍する。
高速巡航時には、この領域を得意とするエンジンで走るエンジンモードに切り替わる。ここでは2つのモーターはともにお休みだ。
このような具合に、ヴェゼルのハイブリッドは基本的にはモーターで走り、高速域だけエンジンが主役になるというシステムで、だから市街地ではほぼEVだ。市街地でもアクセルを深く踏み込む急加速時にはエンジンも稼働するけれど、その切り替わりはシームレスで、意地悪な目で観察しない限り、ほとんど気づくことはない。
エンジンの存在感が懐かしい
ここでマツダMX-30に乗り換えると、「古っ!」と思う。電気モーター1基を備えるマイルドハイブリッドシステムを採用しているけれど、ヴェゼルのe:HEVのようにEV走行をすることはなく、走行フィールはエンジン車そのものなのだ。
「e-SKYACTIV G」と呼ばれるパワーユニットのマイルドハイブリッドシステムは、減速時に回生ブレーキで発電した電気をバッテリーに蓄え、この電気でモーターを駆動して発進や加速をアシストする仕組み。あくまで主役はエンジンだ。
ただし、「古っ!」とは思うものの、こちとら血管にガソリンが流れている昭和のクルマ好き。エンジンの感触が懐かしいと思うことこそあれ、イヤだと感じることはない。むしろ肌になじむくらいだ。
惜しむらくはエンジンの存在感が薄いことで、どうせエンジンを主役にするのだったら回して楽しめる、もっと刺激的なエンジンにしたほうが昭和のクルマ好きは喜ぶはず。この2リッターの直4は低回転域から中回転域にかけてはもっさりとした回転フィールだし、まったりとした音も心に響かない。
ただし、面白みはないものの、見方によっては上品なパワートレインだといえる。発進加速はモーターのアシストによってスーッと前に出るし、6段ATの変速もスムーズで滑らか。パッとしない音質ではあるものの、ボーボーうるさいわけでも、音が室内にこもるわけでもなく、車内は静かだ。
デザインやハンドリングがクルマ趣味人向けなのにエンジンのフィールがフツーだからバランスが悪いのではないか、とwebCGの担当者に伝えると、「もしかすると、このクルマの本命はEVなのではないでしょうか」と打ち返してきた。なるほど。
走りに見る得意分野の違い
前編の冒頭に記した通り、買い物に行ったり家族の送り迎えに使ったりするなら、断然ゆったりとした乗り心地のホンダ・ヴェゼルe:HEVを選ぶ。でも、ワインディングロードでの切れ味を知ると、マツダMX-30のタウンスピードでのハーシュネス(路面からの突き上げ)も許容できるようになる。
マツダMX-30はまた、ハンドル操作やブレーキングといった入力に対する応答が正確だから、ドライブしているととにかく気持ちがいい。ハードコーナリングの途中で路面に不整があっても、ビシッと安定した姿勢を保ち、動じることはない。
高速道路でフラットな姿勢を保つ、ダンピングの効いた乗り心地も同様だ。クルマをスポーティーに走らせることが大好きな広島のエンジニアたちが、キャッキャ言いながら、あるいはケンケンガクガクしながら、走行性能を煮詰めていく様子が目に浮かんだ。
一方のホンダ・ヴェゼルe:HEVは、市街地での温和な乗り心地は好ましいものの、速度が上がったりワインディングロードに入ったりしたときに、余分な上下動が残ることが気になる。こうした高い負荷をかける乗り方だと、もう少し抑制が利いた乗り心地のほうが楽しいだけでなく、安心してドライブできる。
本音を言えば、低速域でのホンダ・ヴェゼルe:HEVの乗り心地と、高速域や山道でのマツダMX-30のハンドリングが両立していると言うことはない。ただそれは、もうちょい上の価格帯で……ということになるのだろう。
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まさに百花繚乱
安全・運転支援装置については、どちらも遜色ない。ハンドルから手を放すことはできないけれど、高速道路でシステムを起動すれば、車線キープをアシストしながら前のクルマについて行く。インターフェイスもどちらも扱いやすいものだ。デザインもハンドリングもパワートレインもキャラクターが異なったけれど、この点においては大きな差はなかった。
ある程度の金額を出せばクルマなんてどれも変わらないという意見も目にするけれど、やはり乗ってみないとわからない。デザインやコンセプトは前衛的なのに、山道で楽しめるハンドリングなど、古典的なクルマの楽しみ方を提供するマツダMX-30。一方、クルマのたたずまいとしては正統的なSUVであるのに、やさしい乗り心地や静かなパワートレインなど、居心地のいいカフェのような新しさがあるホンダ・ヴェゼルe:HEV。
マツダMX-30がある種の実験作、ホンダ・ヴェゼルe:HEVがヒットを義務づけられた売れ筋モデルという違いがあるから、この2台を比較することはあまり意味がないかもしれない。だから、どっちがいい、悪いというより、全然違うものだということがわかったことが収穫だった。
ここに「プジョー2008」「ルノー・キャプチャー」といったヨーロッパ勢まで加えると、まさに百花繚乱(りょうらん)。コンパクトSUVからマイカーを探すのは、いま一番楽しめる、あるいは悩ましいクルマ選びかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・ヴェゼルe:HEV PLaY
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1790×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1400kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:131PS(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:24.8km/リッター(WLTCモード)/30.4km/リッター(JC08モード)
価格:329万8900円/テスト車=341万7744円
オプション装備:ボディーカラー<サンドカーキパール&ブラック>(2万7500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(2万8600円)/ドライブレコーダーフロント用<32GBキット>(4万2900円)/工賃(1万9844円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4021km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:159.2km
使用燃料:7.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.2km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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マツダMX-30
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1550mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:156PS(115kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:199N・m(20.3kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:6.9PS(5.1kW)/1800rpm
モーター最大トルク:49N・m(5.0kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:15.6km/リッター(WLTCモード)/16.9km/リッター(JC08モード)
価格:242万円/テスト車=296万8880円
オプション装備:ボディーカラー<セラミックメタリック・3トーン>(6万6000円)/ベーシックパッケージ(7万7000円)/セーフティーパッケージ(12万1000円)/ユーティリティーパッケージ(8万8000円)/モダンコンフィデンスパッケージ(11万円)/360°セーフティーパッケージ(8万6880円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:7368km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:240.3km
使用燃料:23.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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