新しい提案はどこに!? 新型「日産フェアレディZ」に次世代スポーツカーの資質を問う
2021.08.27 デイリーコラム発表の舞台は米ニューヨーク
昨年、突如として現れた「フェアレディZ プロトタイプ」。それから1年弱がたって、いよいよ生産モデルが正式発表となった。お披露目の舞台は米ニューヨーク。日本を代表するスポーツカーなのになぜ? と思われた方も多いことだろう。筆者も一瞬そう感じたものの、発表された市販モデルを見て、その姿形がプロトとほぼ変わっていないことを確認し、留飲を下げた。われわれは1年も前に、世界で最初にしっかりとそれを見ることができた、とも言えるのだから。
そもそも「日産フェアレディZ」(北米名:日産Z/ダットサンZ)は、アメリカ市場の要望をすくい上げて現実となったプロジェクトだった。初代「S30」の「ダットサン240Z」も、日本でのフェアレディZ発表とほぼ同じタイミングで国際プレビューをニューヨークで行っている。1969年10月のことだ。さらに言うと、2019年に発売された50周年記念モデルも、ニューヨークショーで初披露された。
歴代Z(ズィー)カーは確かに日本製だった。けれども、こと販売に関して言うと、そのほとんど……多い年には9割以上を、北米マーケットでさばいてきたという事実がある。おそらく、この歴史的な事実こそが、新型Zのデザインがこのようなスタイルに決まったひとつの大きな要因だったと思われる。いずれにしてもこのクルマは、フェアレディZであるよりも前に、“DATSUN Z(ダッツン ズィー)”であったのだ。
スポーツカーとしての純度は過去最高に
フェアレディZには残念ながら、歴史的断絶が「Z32」と「Z33」の間に短期間だけ存在する。1999年には4気筒の「240Zコンセプト」を出しているが、それは「240SX」の出来損ないのようなものだった。それはともかく、Zが6気筒エンジンを搭載して復活すると、世界のZマニアは狂喜乱舞し、カルロス・ゴーンをほとんど神としてあがめ奉った。けれども忘れてはならないのは、この断絶の間にZカーそのものが根本的に変質したという事実である。
初代の「S30」は、L型の直6、もしくは2リッター直6 DOHCの“名機”S20を積んで登場している。そのキャラクターは、どちらかというとピュアなスポーツカーではなくGTカーだった(今あらためて乗るとよくわかる)。2代目の「S130」も「S30」のイメージを保ったままより豪華なツアラーへと進化し、「Z31」「Z32」ではV6エンジンを積んだラグジュアリーGTへと発展した。初代から引き継がれてきた2+2ボディーが人気を博したのも、実用スポーティーカーとしての存在意義が認められていたからにほかならない。
しかし、「Z33」はそれまでとは打って変わってスポーツカー寄りのパッケージを伴って登場している。座席数は2シーターのみ。オープンタイプも伝統のTバールーフからフル開閉のロードスター仕様へと大変身を遂げた。リアルスポーツカーというには物足りない側面もあったが、フェアレディZが一般大衆のイメージ通りにスポーツカーへと近づいたのが「Z33」であった。
その正当な進化版である「Z34」は、さらに一層スポーツ色を強めたモデルとなった。そして、その型式名を継ぎつつも、車両を構成する要素のほとんどを刷新したといわれる新型Zは、その仕様や開発陣のコメントから想像するに、「Z34」以上のスポーツカーになっているであろうことは想像に難くない。プロトとほとんど変わらぬ姿の新型Zを見て、筆者は直感したのだ。このクルマはフェアレディZ史上、最もスポーツカーに近しい存在になるだろうと。
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変革を恐れてはいないか?
同時に、昨年プロトを初めて見たときの思いもまたよみがえってきた(参照)。新型Zには、未来への期待を抱かせる要素が何ひとつとしてない。ということは、ひょっとしてこれにて“伝統的なZカー”はお開きになるのではないだろうか。人気を博した初代、最も評価の高かったZ32のデザインモチーフを採り入れたあたりに、半世紀にわたり愛し続けてくれた全米延べ100万人以上の“Zカーファン”への、恩返しの気持ちが表れているような気がしてならなかった。
3リッターへとダウンサイジングされたV6ツインターボエンジンを積むとはいえ、純然たる内燃機関のスポーツカーであり、マニアには喜ばしいことに3ペダルのマニュアルトランスミッションまで用意されている。この時代にこんな仕様のスポーツカーを大々的にリリースしてくれたという事実に、いちスポーツカーファン(しかもかなり20世紀的な人間だ)としては喜ぶほかないわけだけれども、昨今の自動車を取り巻く環境を思えば、能天気に喜んでばかりはいられない。果たして日産はZを諦めてはいないのだろうか?
個人的にはいっそのこと、「シボレー・コルベット」を見習って劇的なモデルチェンジを遂げてほしいとさえ思っている。アルピーヌあたりのミドシップパッケージを活用したプラグインハイブリッドのスポーツカーとして新たなZを登場させてもいい。何なら電気自動車でもいい。
狂信的なファンには、「そんなことをしてZの名前を汚すな!」とののしられることだろう。けれどもZの存在は、超ドメスティックな「スカイライン」のそれとはわけが違う。グローバルなスポーツカーとしてさらなる発展を期する未来があっていい。「GT-R」とZには、われわれの想像を超えた進化を期待したい。
(文=西川 淳/写真=日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)

西川 淳
自動車ライター。永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。