第18回:本命はリチウムイオンバッテリーへの応用? トヨタが開発したバイポーラ電池のすごさ
2021.10.05 カーテク未来招来 拡大 |
新型「アクア」への採用により、いま大いに注目を集めているトヨタのバイポーラ型ニッケル水素電池。このバッテリーは既存のものとどこが違い、一体なにがすごいのか? 新しい構造のバッテリーに秘められた可能性を探る。
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従来比で2倍の出力密度を実現
バッテリーの話題が続いて恐縮だが、今回は2021年7月に発売された2代目「トヨタ・アクア」に搭載される新型バッテリー、バイポーラ型ニッケル水素電池を取り上げる。
この電池について、トヨタは当連載でも第16回・第17回と取り上げてきた電池関連技術の説明会において、「豊田自動織機と共同開発を行い、バイポーラ構造にチャレンジし、駆動用車載電池として実用化した。旧型アクアに搭載した電池と比較しても出力密度は2倍に向上し、パワフルな加速を感じられるようになった」と説明している。
筆者はこのバイポーラ電池の実用化を、非常に画期的な出来事だと考えている。バッテリーの性能を飛躍的に高められる可能性を秘めているからだ。バイポーラ型のバッテリーとは、簡単に言えば、複数のセルを背中合わせに貼り合わせたような構造をしている。これのどこが画期的なのか? それを理解するには、まず通常のバッテリーの構造や製造法について理解する必要がある。
通常のバッテリーは、1枚には負極、もう1枚には正極の材料(活物質と呼ぶ)を塗った2枚の金属箔(はく)を集電体とし、セパレーターと呼ぶ絶縁体の膜を挟んで電解液に浸した構造をしている。セパレーターには電解液は自由に通すものの、正極と負極を物理的に接触させないという役割があり、微細な穴が多数空いた樹脂膜を使う。
この正極と負極を一組にしたもので、ひとつのセルが構成される。おのおののセルは別々の容器に収められ、集電体の端に取り付けられた「タブ」と呼ばれる端子に配線をつないで接続される。
内部抵抗の低減がカギ
これに対してバイポーラ電池は、先述の通り複数のセルを背中合わせに多数積層して、ひとつの容器に収めたものだ。これだけではなにが画期的なのか分からないという読者も多いだろう。バイポーラ電池の最大の特徴は、バッテリーの内部抵抗を大幅に下げられることだ。
バッテリーにも実は抵抗があり、これを内部抵抗という。充電時や放電時、バッテリー内部に電流が流れると温度が上昇するのはこのためだ。最近のEV(電気自動車)は走行時にバッテリーを冷却するシステムを備えるものも多いが、それは内部抵抗による温度上昇を抑えるためである。
温度上昇の原因のひとつとなっているのが、集電体での電気抵抗である。なぜ集電体で大きな電気抵抗が生じるかというと、1カ所のタブに向かって集電体全体から電流が集まってくるため、電子がタブまで長い距離を通らなければならないからだ。しかも集電体は薄い金属箔なので、断面積が薄く小さい。電気抵抗は電子の移動する距離に比例して大きくなり、また電子の通り道の断面積に反比例して大きくなる(つまり断面積が小さいほど抵抗は大きくなる)。
一方、バイポーラ電池ではどうかというと、こちらの構造ではセル同士を背中合わせに接続するので、ひとつのセルから隣のセルへ、電流は集電体の“面方向”ではなく“厚み方向”に流れる。すると、電子の移動距離は集電体の厚み分だけということになるから、非常に短くなる。また通り道の断面積は集電体の面積ということになり、こちらは非常に大きくなる。
集電体の面積と厚みが同じなら、計算上バイポーラ電池はセル間の電気抵抗を6桁も小さくできる。これがバイポーラ電池の最大のメリットだ。新型アクアに搭載された電池で出力が高められたのは、セルとセルの間の電気抵抗を大幅に引き下げられたからである。
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今までなぜできなかったのか?
これだけメリットのあるバイポーラ電池が、なぜこれまで実用化されなかったのか? 課題のひとつだったのが、製造時に求められる精度の高さだ。電極活物質を塗った集電体とセパレーターを積層していく際、両者の位置関係がずれて隣り合った集電体同士が直接接触してしまったら、そこで短絡が生じて異常な発熱の原因になる。このためバイポーラ電池では、製造プロセスでも高い精度が要求されるのだ。
もうひとつ壁となっていたのが、セルの間で電解液を封止する技術の開発である。背中合わせに複数積層したセルを、電解液を満たしたひとつの容器に収めると、向かい合った正極と負極だけでなく、離れた位置にある正極と負極の間でも電解液を通ってイオンが移動する。すると、両極の間に通常よりも高い電位が加わって、電極が損傷を受ける可能性がある。このためバイポーラ電池では、ひとつの容器の中でセルごとに電解液を密閉する必要があった。その密閉性を確保するのが難しかったのだ。
いかにして隣り合ったセルの間で電解液をシールするかがバイポーラ電池開発の課題だったはずなのだが、肝心のシール技術について、トヨタはwebCGの取材に対し「封止には特殊な技術を開発・使用していますが、詳細に関しては公表を差し控えさせていただきます」として明言を避けている。残念ながらこの部分についてトヨタは技術の詳細を明らかにしていないのだが、逆に秘密にしていることからも、こここそが開発の要であったことがうかがえる。
用意周到なトヨタの戦略
ところで筆者は、バイポーラ電池の本命はリチウムイオンバッテリーへの応用だと考えている。内部抵抗を大幅に低減できるために高出力化が可能となるほか、セルごとに封止して配線で接続するよりもバッテリーを小型化できるはずで、また構造が簡単なので将来的な低コスト化のポテンシャルもあるはずだからだ。この点についてもトヨタはwebCGの取材に対し、「現状では開発予定はありません。ただ、開発者の個人的見解としては、さまざまな可能性があると考えています」と回答。リチウムイオンバッテリーへの応用を否定していない。
前回、この連載で「全固体電池の最初の応用分野としてHEV(ハイブリッド車)を選択したのは巧みな戦略だ」と書いたのだが、それと同様に、バイポーラ型リチウムイオンバッテリーを実用化する前に、まずニッケル水素バッテリーでバイポーラ電池を実用化したのは、実に巧みな戦略だと感じられる。
というのも、枯れた技術であるものの、既存の設備を活用できるニッケル水素電池をバイポーラ化によって延命できるうえに、リチウムイオンバッテリーへの本格応用の前に、工程での課題や市場に出した後の問題点なども洗い出せるからだ。次世代へ、そしてその次の世代へ。確実に布石を打ちながら進化を進めるその戦略に、トヨタのしたたかさを実感した今回の説明会だった。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=トヨタ自動車、テスラ、日産自動車、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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