第17回:トヨタが開発競争をリード 全固体電池が秘めた潜在能力とトヨタの巧みな戦略

2021.09.28 カーテク未来招来
全固体電池を搭載したトヨタの試作車。
全固体電池を搭載したトヨタの試作車。拡大

トヨタが“未来のバッテリー”として期待する全固体電池の開発状況を発表。近い将来、まずはハイブリッド車(HEV)から導入していくとアナウンスした。その発表に筆者が驚かされた理由とは? 全固体電池に秘められた可能性とともに解説する。

トヨタのバッテリー戦略について説明する同社執行役員 チーフ・テクニカル・オフィサーの前田昌彦氏。前回に引き続き、今回も2021年9月7日に行われた「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」について解説したい。
トヨタのバッテリー戦略について説明する同社執行役員 チーフ・テクニカル・オフィサーの前田昌彦氏。前回に引き続き、今回も2021年9月7日に行われた「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」について解説したい。拡大
トヨタでは長寿命化、高エネルギー密度化、小型化、低コスト化を図るべくリチウムイオンバッテリーの改良を推進。同時に全固体電池の開発を進めている。
トヨタでは長寿命化、高エネルギー密度化、小型化、低コスト化を図るべくリチウムイオンバッテリーの改良を推進。同時に全固体電池の開発を進めている。拡大
バッテリーは、電解質の中をイオンが移動することで充電・放電が行われる仕組みとなっている。通常、電解質には液体のものが使用されるが全固体電池ではそれが固体となる。
バッテリーは、電解質の中をイオンが移動することで充電・放電が行われる仕組みとなっている。通常、電解質には液体のものが使用されるが全固体電池ではそれが固体となる。拡大

全固体電池の高出力化にめど

前回はトヨタのバッテリー戦略について、筆者が感じた3つの驚きのうち、2つ目までを説明したところで終わった。今回はそこから始めよう。

結論から言えば、筆者が驚いたのはトヨタが「全固体電池をEVより先にHEVから採用していく」と発表したことだ。掘り下げると驚きのポイントは2つあって、そのひとつは全固体電池をHEVから展開する理由として、彼らが「イオンがバッテリーの中を高速に動くため、高出力化が期待できるから」と説明したことだった。発表ではさらりと語られていたのだが、これは実はすごいことなのだ。

なぜすごいのか? そもそも、これまで全固体電池が実用化されていなかった理由は、「イオン伝導率の高い固体電解質がこれまで見つかっていなかった」からだ。イオン伝導率とは、電解質の中でイオンが移動しやすいかどうかを示す指標である。リチウムイオンバッテリーは正極と負極の間でリチウムイオンが電解質を伝わって移動することで、充電・放電する。リチウムイオンが移動しにくければ、充電には時間がかかり、放電時には出力が高まらないということになってしまう。トヨタが全固体電池の実用化に見通しをつけたのは、既存の液体電解質を上回るイオン伝導率を示す新しい固体電解質を、東京工業大学などと共同で開発することに成功したからだ。

ただし、電解質自体のイオン伝導率が高いだけでは、バッテリーとしての性能は高まらない。従来のリチウムイオンバッテリーのような液体の電解質では、正極・負極の表面にある細かい凹凸に電解質が入り込み、広い面積で極板と電解質が接触できる。しかし電解質が固体だと、形が定まったもの同士の接触になるので、粒子の角同士が触れ合うような、面積の小さな接触になってしまいがちだ。

トヨタ自動車が実用化を検討する硫黄系の固体電解質は、比較的柔らかい材質なので、圧力を加えることである程度は良好な接触状態を実現できるとみられているが、それでも液体よりは劣る。だから筆者は、「バッテリー全体としてみたときに、既存のリチウムイオンバッテリーと同等の出力が確保できれば上々」だと思っていた。それを、トヨタが「高出力化が期待できる」と豪語したので驚いたというわけだ。

鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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