第217回:真っ青なRに真っ青
2021.10.11 カーマニア人間国宝への道これ、ホントにRなの?
担当サクライ君より、メールが届いた。
「SUVに興味はないと思いますが、『ティグアンR』にお乗りになりますか?」
私は決してSUVに興味がないわけではない。確かにこれまで52台買ったクルマのなかにSUVは1台もないが、先日「アウディRS Q8」に乗って感動したし、「ランボルギーニ・ウルス」でも絶頂を味わった。
それに私は、フォルクスワーゲンのスポーツ系ガソリンエンジンが大好きなのである。特に好きなのはサウンドの演出だ。DCTのシフト時の「バルン!」という中吹かし(死語?)が最高に気持ちイイ。フォルクスワーゲンの「R」系は、基本的にすべてランボルギーニだと思っている。
なので、「ティグアンR、乗る乗る~」と返信して、おふとんに入ったのだった。
当日。いつものように午後8時、サクライ君がやってきた。夜なので暗くてクルマがよく見えない。見えないながらに、ノーマルのティグアンとの違いが全然わからない。
オレ:これ、ホントにRなの?
サクライ:Rだと思います。
オレ:実はノーマルでした、ってことはない?
サクライ:ここまで来る間もエンジンが元気だったので、大丈夫だと思います。
雨上がりで路面はチョイぬれ。しかしフォルクスワーゲンのRはたぶん4WDだろうから(アタリ)、きっと怖くないだろう。首都高へ突入だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
青いRボタン
永福入り口のランプウェイ手前で、ドライビングモードの変更を試みた。
オレ:モードはどこで変えるの。
サクライ:ステアリングホイールの青い「Rボタン」で変えられます。
オレ:R? あ、コレ。これ、Rっていうよりちっちゃい回虫みたいだね。
サクライ:Rに見えませんね。
オレ:だいたいRボタンが青ってのもイメージ狂うなぁ。Rは、普通は赤だもんね。
サクライ:時節柄、赤は自粛したんじゃないでしょうか。エコなイメージを出したかったとか。
まあいい。とにかくRボタンをON! その瞬間、最強の「レースモード」が立ち上がった。サスペンションがバキッとハードになり、ズゴゴゴゴゴンという突き上げに襲われる。エンジンフィールもぐっとレーシーになり、フォルクスワーゲンのRらしいランボルギーニサウンドが轟(とどろ)いた。さすがR! 車内のスピーカー音かもしれませんが。
オレ:やっぱりフォルクスワーゲンのRは気持ちいいね!
サクライ:最高です。
オレ:でも、周囲のクルマからは、これがRだっていうのが全然わかんないよなぁ。
サクライ:わかんないでしょうね。
ちょうどその瞬間、前方に先代「シビック タイプR」を発見セリ! うおおおお! 真っ赤なR対真っ青なRの対決だ! しかし真っ青なRって、顔面蒼白(そうはく)みたいで弱そうだな……。
と思ったのもつかの間、シビックRはこっちがティグアンRだとはもちろん気づかず、待っていてくれるはずもなく、そのままブッちぎられてしまった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
今日はR日和
オレ:サクライ君! 逃げられたよ!
サクライ:逃げられましたね。
オレ:つーかさ、こっちは仲間だと思ってるけど、あっちは全然思ってくれてないんじゃないかな。
サクライ:たぶん、眼中にないでしょう。
オレ:それってなんか寂しいね……。ティグアンRの仲間は、RS Q8とかウルスとか、SUVのR系だけなのかなぁ。
そんなことを話しながら、ティグアンRは夜の首都高のクルージングを続ける。すると次に現れたのは……。
オレ:うおおおお! 「フェラーリ328」じゃん! あ違う、「308」だ!
サクライ:「GTS」ですね。
オレ:うお~~~~~、308ちっちゃ~~~~い! かわい~~~~~い!
サクライ:子供用みたいですね。
ティグアンRの車内はコーフンのるつぼなのだが、もちろん308のドライバーは、そんなことを知る由もないだろう。
金曜の夜ということもあり、辰巳PAにはカーマニアが大集結していた。しかし辰巳らしく皆とても静か。もちろんティグアンRに「スッゲー! ティグアンRじゃないッスか!」と声をかけてくれる人もいない。背の低いクルマたちのなかで、微妙に肩身すら狭い。というか相手にされてない。
帰路、今度はなんと先々代(3代目)シビック タイプRに遭遇セリ! 乗り心地がウルトラハードで有名なあの伝説のマシンだ! 今日はR日和だぜうおおおお! と、またしてもティグアンRの車内はコーフンのるつぼとなったが、相手のドライバーには、カケラも伝わらないのでしょう。真っ青なRの意味がようやく理解できました。涙。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。