キャデラック・エスカレード スポーツ(4WD/10AT)
アメリカンラグジュアリーの体現者 2021.10.18 試乗記 かの地のセレブリティーの間で圧倒的な人気を誇るキャデラックのフルサイズSUV「エスカレード」。日欧の高級SUVとは一線を画すその魅力は、全面刷新を受けて登場した新型でも健在か? アメリカが生んだ唯一無二のラグジュアリーカーを試す。正真正銘のフラッグシップモデル
かつてアメリカンドリームの象徴だった全長5.5~5.7mのフルサイズセダンは、2011年の「リンカーン・タウンカー」をもって姿を消している。そして、リンカーンの「コンチネンタル」や「キャデラックCT6」といった全長5.2m級の現代的フラッグシップセダンも、2020年モデルをもって示し合わせたように米国内での生産を終了した。今ではリンカーン名義のセダンは北米から完全になくなり、キャデラックも「CT5」や「CT4」といった、こぢんまりとした(?)オーナードライバー用セダンが残るだけとなった。
かの地から配信されるパパラッチ画像からも分かるように、合衆国で運転手付きで乗るショファードリブンカーは、このエスカレードのようなフルサイズSUVがつとめるのがお約束となった。最新のエスカレードにもはや“SUVとしては”とか“事実上の”といった枕ことばは不要。これが正真正銘のトップ・オブ・キャディだ。キャデラックの頂点とは、アメリカ車の頂点であることも意味する。
1500万円前後というエスカレードの本体価格は、絶対的には安くない。しかし、日本で販売されるエスカレードでは、全車速対応型のアダプティブクルーズコントロール(ACC)やナイトビジョンを含む先進運転支援システム(ADAS)、セミアニリン本革シートを筆頭とするフルレザー内装、自動車用初となるオーストリアの音響機器ブランド「AKG」(現在はハーマン傘下、ハーマンはサムスン電子傘下)の36スピーカーシステム、大面積パノラミックガラスサンルーフ……など、めぼしい装備がすべて標準である。後乗せオプションは存在しない。
たとえば、わが国の最高級車のひとつである「レクサスLS」は、ハイブリッドの4WD車だとツルシでも半数以上のグレードが1500万円を超える。レクサスが割高とはいわないが、そびえ立つ存在感とクルマの内容を考えれば、エスカレードは割安というほかない。
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デカい そしてイカつい
極細の横長ヘッドライトがいかにも最新キャデラックらしい新型エスカレードは、ほぼ全身が新しい。大物コンポーネントで先代からのキャリーオーバーといえるのは、細部がアップデートされた気筒休止機構付きの6.2リッターV8 OHVくらいのものだ。
独立ラダーフレーム構造は健在だが、従来リジッドアクスルだったリアサスペンションはマルチリンク式をうたうようになり、ついに四輪独立懸架となった。フレームの上にボルトオンされる車体は、高張力鋼板、先進高張力鋼板、超高張力鋼板、そしてアルミ合金の使用比率を飛躍的に高めた軽量設計である。このアーキテクチャーは同じGMグループの「シボレー・タホ」(とロング版の「サバーバン」)や「GMCユーコン」(と高級版の「ユーコン デナリ」)と共用する。
車体サイズは全長で205mm、全高で20mm、ホイールベースで80mm拡大(全幅は不変)された。日本では明らかにバカでかいが、本国にはさらに40cmほど長い「ESV」もある(笑)。2740kgという車重も超ヘビー級というほかない。しかし、サイズアップ分や機能の充実度を考えれば、先代(2670kg)比で70kg増という数値は“抑制されている”と評するべきだろう。軽量設計のおかげだ。
今回の試乗車は2種類ある日本仕様のうち、より高価な「スポーツ」だった。高価といっても、もうひとつの「プラチナム」との価格差は30万円(本体価格の約2%)しかなく、エンジンやタイヤを含めた乗り味、セカンドがキャプテン式となるシート配列、安全装備や快適装備までがすべて両車共通である。ちがいはいわばコスメ部分だけで、取材したスポーツの特徴は、車体色、インテリア、そして各部の加飾にいたるまで“全身真っ黒”であることだ。ただでさえイカつい新型エスカレードなのに、さらにイカつい。
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上質なインテリアに充実の先進装備
ドアの開閉とともに展開される電動ステップも先代からキャリーオーバーされたディテールのひとつであり、インテリア調度の雰囲気も、いつものキャデラックらしく、キラキラと明るく豪華だ。サードシートが床下収納、セカンドがタンブルアップできる電動シートのメカニズムもおなじみである。ただ、ウッドパネルの使用面積は大幅に広がり、装飾類のクロームメッキ使いも繊細そのもの、そして薄型液晶パネルのエッジにまであしらわれたレザーなど、質感とつくりこみの向上は著しい。
ホイールベースの延長に加えて、セカンドシートにスライド機構が追加されたこともあって、背後のサードシートはレッグルームの拡大が最大限にアピールされているが、多くの日本人にとっては先代でも空間そのものに不足はなかった。それよりも、先代では“体育座り”が強いられた着座姿勢が、今回は長時間も苦にならない健康的なものに改善されたのが最大の朗報というべきだろう。
新型エスカレードのキャビン内で、ハイライトとなるのは前記のAKGのサウンドシステムと、自動車用では世界初という「湾曲型OLED(有機EL)ディスプレイ」だろう。よくよく観察すれば、その有機ELは中央の16.9インチ、運転席眼前の14.2インチ、左端の7.2インチの3枚構成だが、ダッシュボードに2枚重ねで突き刺したようなデザインが秀逸。高精細な画質もさすがだ。
この有機ELでは日本語表示も選べるのだが、走行モードの“OFFROAD”が“ルート外”と訳されていたのはご愛嬌である。そういえば、BMWが設計をおこなった「トヨタGRスープラ」の開発担当氏に話をうかがったときも、最大級の苦労話のひとつとして「膨大な行数のあるメーター機能の翻訳」をあげていたことを思い出す。それはトヨタでも、ほぼ人力による地道な作業だったそうだ。
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乗れば実感できる新サスペンションの恩恵
日本の交通環境ではデカいというほかないエスカレードだが、新設計シャシーの恩恵か、胴長短足体形の筆者でもドラポジがピタリと決まる。見晴らしは最高によく、車両感覚もつかみやすい。せまい道はほぼ一方通行になっている東京都心なら、市街地をはいずっていて困るシーンは意外なほど少ない。左ハンドルの用意しかない点をお嘆きの向きもおありだろうが、すれ違いなどで路肩ギリギリまで幅寄せするときなど、左ハンドルであることが逆に重宝するシーンもなくはない。
シャシーが完全刷新された新型エスカレードだが、どこぞの欧州クロスオーバーSUVのように地球の重力を無視したかのように機敏に走る……わけではない。重量物を転がしている感触は常にあり、よくも悪くも穏当な“どっこいしょ感”は健在である。しかし、操舵や凹凸を乗り越えるときに横ズレするようなリジッド特有のクセは当然のごとく解消されているし、ワダチがほられた道での安定感や高速直進性も明らかに向上しているのは、新しいサスペンションの効能も大きいだろう。
もっとも、現代アメリカ最高のショファードリブンカーとしては、低速でちょっとドシバタする乗り心地は、少し物足りない。これは50偏平の22インチタイヤによるところも大きいが、逆にいうと、これだけ巨大なタイヤを“ちょっとだけ”のドシバタで済ませているのは新しいシャシーの効果かもしれない。もう少しハイトの高いタイヤを履かせれば乗り心地はさらに改善するだろうが、この種のクルマではビジュアルが乗り心地以上(?)に重要な場合もある。そこは悩ましい。
運転席ではさほど顕著ではない乗り心地の改善も、主賓席のセカンドシートでははっきりと体感できる。よりリアタイヤに近いためか、独立サスペンションの効果は如実だ。
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進化を遂げた快適性と操縦安定性
もうひとつ、新型エスカレードの走行性能において明らかな進化がみられるとすれば、それは静粛性だ。エスカレードはもともと静かなクルマだったが、新型は輪をかけて静かになった。10段ATのトップギアにおけるエンジン回転数は、先代8段ATのそれより明らかに200rpmほど下がっているが、日本の制限速度内では10速に入ることはまれなので、この静粛性は車体やシャシーの防音効果によるところが大きいのだろう。
筆者はオーディオ素人だが、大音量でもきらびやかな音色を保つAKGのシステムにはちょっと感銘を受けた。そんなオーディオに耳を傾けながら、ACCをセットして安楽に流す高速クルージングは至福というほかない。スムーズな路面なら乗り心地のアラも出にくく、ロードノイズや風切り音もまるで気にならない。日本仕様には、米国で話題の部分的ハンズフリー運転システム「スーパークルーズ」は未装備で、左右方向のレーンキープ機能も逸脱防止アシストにとどまる。いっぽうで、前後方向をつかさどるACCはGMらしく、乗り手の心を読み取ったかような絶妙な制御である。車間距離の取り方や前が空いたときの加速制御が、日本の交通環境でもじつに心地よいのだ。
切り替え可能なドライブモードには、標準の「ツーリング」のほか「スポーツ」「オフロード」「トーイング」があり、スポーツを選ぶと連続可変ダンパーも少し引き締まる。それでもターンインがやや素早くなるだけで、基本所作は重量級らしいマイルドなものである。どのモードにしても、山坂道ではブレーキングとターンインに注意が必要なのは変わりない。ただ曲がりはじめればロールは印象的なほど小さく、少しばかり振り回したところで、この巨体を不安定な姿勢におちいらせないのは感心する。
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コワモテだけどフレンドリー
ここぞとキメたいときに走りの安定感を高めるアイテムとして、可変ダンパーより効果的なのは4WDシステムだ。エスカレードの駆動モードには「2WD」「4WDオート」「4WDハイ」の3種類があるが、そのうちの4WDハイはセンターデフがロックされる悪路専用。通常は2WDで走るユーザーが大半だろう。しかし、4WDオートは走行状況によって緻密にトルクを配分してくれて、滑りやすい山道などでは、回頭性がほとんど悪化しないまま、安定感・安心感だけが増す。個人的には“ツーリングモード+4WDオート”の乗り味が、新型エスカレードでもっとも頼りがいのあるように思えた。
豪華絢爛なインテリアや印象的な静粛性、そして適度に改善された乗り心地に加えて、バイワイヤ化されてセンターコンソールに移設されたシフトセレクター(先代まではコラムシフト)が、新型エスカレードに乗っていて、とくに新しく感じさせるところである。
それ以外の部分は、もともとはワークホース由来の独立フレーム特有の味わいを残すのが、よくも悪くもエスカレードの魅力だ。前記の高速クルージングの心地よさにしても、独立フレームゆえの路面との隔絶感が奏功している面も多分にある。欧州スポーツカーブランドのSUVにみられる、ありえないような機動性をお好みの向きはお気に召さないかもしれないが、そっち方面に安易に引っ張られないのは、エスカレードにはエスカレードの確固たる世界観があり、それが名だたるアメリカンセレブに強く支持されているからだろう。
取材途中に立ち寄ったガソリンスタンドで、若い男性店員に「新しいエスカレードっすか!? 顔がほぼ絶壁っすね! カッケーすね!!」と声をかけられた。こういう仕事をしてすでに30年がたつ筆者だが、新車に乗っていて声をかけられたのは久しぶりで、なんともうれしくなった。とびきりイカついけれどフレンドリー。エスカレードは、そんなアメリカン高級車の伝統を正当に受け継ぐ。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
キャデラック・エスカレード スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5400×2065×1930mm
ホイールベース:3060mm
車重:2740kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:416PS(306kW)/5800rpm
最大トルク:624N・m(63.6kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)275/50R22 111H M+S/(後)275/50R22 111H M+S(ブリヂストン・アレンザA/S 02)
燃費:--km/リッター
価格:1520万円/テスト車=1531万7700円
オプション装備:※以下、販売店オプション フロアマット<ブラック>(8万6900円)/ETC2.0車載器(3万0800円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3573km
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:785.5km
使用燃料:120.1リッター(ハイオクガソリン推奨、レギュラーガソリン使用可)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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