ホンダNSXタイプS(MR/6MT)
昭和は遠くなりにけり 2021.11.08 試乗記 「ホンダNSX」の最終モデルとして発表された「タイプS」だが、目の前の試乗車は同じNSXタイプSでも先代モデル、17年落ちの2004年式だ。同じ名前でも現行モデルとはまるで違う、電気仕掛けとは無縁のプリミティブな走りを味わってみた。昨日のことのように思い出す
「次の試乗車はホンダNSXタイプSです」と『webCG』のFさん。
「あ、ランボっぽくカッコよくなった最終型ね」
「違うんです。旧型の……」
ホンダのスーパースポーツをランボルギーニに例えるのもいいかげん失礼だが、それで話が通じてしまうのもなんだか寂しい。2代目NSXは、結局大きく羽ばたくことなく、ホンダのF1活動と軌を一にして幕を閉じてしまうのですね。
ところで、どうしてこの時期に初代NSXの記事をつくるのかと尋ねると、「当時のクルマをいま乗るとどうなのか忌憚(きたん)のないところをゴニョゴニョ……」と説明してくれるのだが、要は古いNSXの試乗車が用意されているので、せっかくだから取り上げたいということらしい。
望むところです。ベリーウエルカムです。1989年にプロトタイプが発表され、翌年から販売が開始された初代NSXといえば、言うまでもなく「トヨタ・セルシオ」「日産スカイラインGT-R」と並んで、昭和ニッポンの集大成ともいえるクルマ。個人的にも青春の甘い思い出とともに(ウソ)あらためてステアリングホイールを握ってみたい。
乗るのは最終モデルということで、リトラクタブルヘッドランプでないのがちょっと残念だが、ぜいたくは言いますまい。予習を兼ねて『webCG』の試乗記を検索してみると、アララ……。自分で記事を書いていますね。眠気と疲労のはざまでメモを切り貼りしただけの赤面リポートだが、日本のスーパーカーをドライブするうれしさと興奮だけは伝わってくる。晴れわたった空に向かって、VTECを響かせながらハイウェイを駆け上がっていくときの、あの高揚! 昨日のことのように思い出す(本当)。
走行わずか3万6517km
集合場所には、シルバーの初代ホンダNSXが止まっていた。昨今の、マッチョとエアロダイナミクスがせめぎあうような肉食系スーパースポーツを見慣れた目には、ずいぶんとスリークな、昭和な表現を引っ張り出すなら、いかにもしょうゆ系のあっさりスタイルだ。長すぎると批判されたテールセクションについて、深夜のファミリーレストランで「フォーカムのヘッドメカニズム」や「延長されたホイールベース」、はたまた「ゴルフバッグ」をキーワードに熱く語り合ったクルマ好きも多かったことでしょう。
2001年にリトラクタブルから固定式に変更された際には、法規上やむを得ないと理解しつつも「なんだかなァ」と否定的な気持ちを抱いたものだが、20年近い歳月を経て再会してみると、……スイマセン、やっぱり取って付けた感が拭えない。空力面ではむしろ改善されたとうたわれたプロジェクター式ヘッドランプだが、せめて透明カバーを有機的な曲面ではなく、リトラクタブルタイプをなぞって角張ったデザインにしたほうがよかったのではないか、と、そういえば当時も同じことを考えたのでした。
ドアを開けて運転席へ。ホコリくさいような、中古車の匂いがする。グローブボックスを開けて車検証を確認すると、試乗車の登録年は平成16年。西暦で言うと2004年だから、生産中止まで残り1年の、先に知らされた通り最終モデルだ。
所有者の欄には「本田技研工業株式会社」の表記。最近の“ちょっと古いクルマ”の例に漏れず初代NSXの価格高騰も顕著で、MT車ともなるといまや1000万円は下らない。そのうえホンダのお墨付きともなればさぞや……と、下衆な計算をしてしまうワタシを誰が責められましょう。オドメーターが表示する走行距離は、わずか3万6517kmだ。
日本初の本格スーパーカーとして発売されたときの値段は約800万円。バブル景気の真っ最中ということもあり、「意外と安い」と話題になったっけ。下野康史著『カルトカーがぜったい!』(マガジンハウス刊)には、知人の編集者が買い物帰りにふらりと立ち寄った販売店で展示車を衝動買いしてしまった、という話が出てくる。そんなこともあったんでしょうなァ。
年号が令和になったいま、新車時より高いプライスタグが付けられるのは、初代NSXがあらためて評価されたということもありましょうが、やはり世界の国々の経済成長が進んで、東洋の島国が取り残されたという要因が大きいのではないでしょうか。もしもわれわれの所得が3倍になっていたならば、1200万円のクルマだって単純計算で400万円相当のはずだから。ニッポンは今後どうなってしまうのだろう……などと考えさせられる和製スーパーカーである。
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懐かしさあふれるインテリア
NSXのドライバーズシートから車内を見わたすと、左右の乗員それぞれを囲むようなスポーツカーのコックピットをつくりたかった、そんな開発陣の意図がよく伝わる、いかにも気張った造形がいい。
一方、各部を見ていくとさすがに時代を感じさせる。誇らしげに「BOSE」とプリントされたカセットテープ挿入口はご愛嬌(あいきょう)だが、センターコンソール上部に設置されたディスプレイまわりの古くさいこと! カセットはすでに終わってしまった技術だが、液晶画面は今も現役の装備だから、なおさら気になるのだろう。液晶ディスプレイの画面拡大と数の増加に比例してクルマの家電化が進んでいったのだなァ、と逆説的に実感させられるインテリアである。クルマの電動化が盛んに論じられる現在、初代NSXの丸いアナログメーター、速度計と回転計が仲良く並んでいるさまを目にすると、なんだかホッとする。
いざキーをひねって動き始めると、絶対的には大したことないけれど、思っていたよりハンドル、重いね。足まわりは硬めで、路面の凹凸を正直に伝える。何より「アレッ!? こんなもんだったかな?」と思わされたのが背中に置かれた3.2リッターV6エンジンで、なんだかザラついたフィールで、回りが重い。
思い出のなかのそれは良くも悪くも紙のように軽くプーンと吹け上がり、VTECによるカムの切り替えももっとドラマチックに「スパーン!」とサウンドを変えた記憶があるのだが、試乗車の6気筒はどうもゴソゴソしている。編集部の意向に沿って忌憚のない感想を述べると、「少々戸惑っております」。
そんな具合にあまり印象がよくなかった乗り始めだが、ステアリングホイールを握って走っているうちに、少しずつ体がなじんできた。NAエンジンはキチンと回してスイートな回転域付近を使ってやる。ステアリングホイールをしっかり握ってクルマを操り、ダイレクトなフィールを楽しむ。ホンダNSXは「買い物に行けるスーパーカー」、つまり普通の乗用車のように運転しやすいのが最大の特徴だったはずだが、それがいまやシンプルでプリミティブなスポーツカーに感じられるのだから、時の流れとは恐ろしい。
初代NSXが出てからこっち、自動車関係で最も進化したのは各種電子制御技術である。環境問題に対応し、安全を担保し、今ではハンドリングまでつかさどる。スポーツカーもそうした潮流に無関係なわけはなく、むしろ生き残りのため積極的に採り入れてきた。
エンジンをかければ「ウエルカム!」と歓迎の吹け上がりを見せ、足元は2ペダルが当たり前。ステアリングのパワーアシストはよく調教され、ドライブモードに従ってパワーソースは瞬時に表情を変え、ドライブトレインはスムーズ至極。ギアチェンジの際には自動でブリッピングまでして乗り手の気分をアゲてくれる。車外への音の攻撃性を最小限に抑え、そのぶん(!?)室内に人工のエンジン音を響かせてスポーティーさを演出する。恥ずかしながら気がつけば、そんなスポーツカーにすっかり“ならされて”いた。
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アルミボディーはヤレ知らず
撮影を終えて帰路につく。NSXタイプSに乗りながら終始感心したのが、素晴らしいデキのレカロシート。ホールド性が高いのみならず、ソフトな当たりで運転者の背面を優しく支えてくれる。薄い形状、レーシィなスエード調素材とスムースレザーのコンビネーションで、見た目もカッコいい。
着座位置はペタンと低いが、フロントスクリーンからボンネット左右の盛り上がりがよく見えるので、車両感覚がつかみやすい。ミドシップ車で問題になりやすい後方視界も、天地は狭いものの実用の範囲だ。サイドの壁際にCDチェンジャーが鎮座する深さ約30cmのトランクルームは、最大幅約130cm、奥行き約60cmが確保される。なるほど初代NSXは、市街地にも気兼ねなく出かけられる“お買い物グルマ”としての要件をよく押さえている。さすがは総中流社会(当時)が生み出したスーパースポーツである。
試乗車の革巻きステアリングホイールは、走行3万km余のクルマのそれとは思えないほどリムがツルツルになっていた。このクルマをドライブした皆々さまがそれなりに力を入れて握ったのだろう。ステアリングがこうなら「シフトレバーもさぞや」と心配になるが、こちらは金属製なのでノブはキレイなままだ。握るとひんやり冷たいのがクール。
「意外に見逃していたなァ」と反省したのが、ホンダNSXのツーリング性能で、街乗りでは硬く感じられたサスペンションは速度を上げるにつれ滑らかになり、和製スーパーカーは路面に吸い付くように走っていく。速くて快適。アルミモノコックボディーはヤレ知らずで、F1パイロットならぬ自分には十分すぎる剛性感だ。
記事制作のため“ちょい乗り”で接するだけでなく、オーナーとして初代NSXと過ごしていたなら、どんな生活が待っていただろう。ハイウェイクルージングを続けながら夢想していたら、このクルマのキャッチコピーが思い浮かんだ。「ふたりのためのスーパーツアラー」。なんだろう、この昭和な感じ。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダNSXタイプS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1810×1160mm
ホイールベース:2530mm
車重:1350kg
駆動方式:MR
エンジン:3.2リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:280PS(206kW)/7300rpm
最大トルク:304N・m(31.0kgf・m)/5300rpm
タイヤ:(前)215/40R17 83Y/(後)255/40R17 94Y(ヨコハマ・アドバンA046)
燃費:9.0km/リッター(10・15モード)
価格(税抜き):1035万7000円/テスト車=1140万円
オプション装備:両席SRSエアバッグシステム&クルーズコントロール&TCS(10万円)/電動パワーステアリング(40万円)/TVチューナー付きホンダDVDナビゲーションシステム<VICS&インターナビシステム対応>(55万円)
テスト車の年式:2004年型
テスト開始時の走行距離:3万6197km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:402.0km
使用燃料:53.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.4km/リッター(満タン法)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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