誰におすすめ? ベストグレードは? トヨタのコンパクトHV「アクア」を分析する
2021.11.11 デイリーコラム身近なところにいるライバル
新型「トヨタ・アクア」が2021年7月にデビューしてから、約4カ月が過ぎた。登録車の新車販売ランキング(一般社団法人日本自動車販売協会連合会・乗用車ブランド通称名別順位)で順位を見ると、8月は3位、9月は2位、10月も2位と、販売も健闘しているようだ。そこで当記事では、あらためて「アクアがどんなクルマなのか?」を掘り下げてみたい。「ヤリス」とはどう違うのか、どんな人におすすめなのかを解説しよう。
アクアを考えるとき、避けては通れない存在がある。それが同じトヨタのコンパクトカーであるヤリスだ。アクアとヤリスは同じプラットフォーム、同じパワートレインを使う、同じクラスのコンパクトカーだ。言ってしまえば兄弟のような関係である。しかし、似ているからこそ、その2台の違いに注目するほど、アクアの個性がより鮮明に見えてくる。そんなわけで、まずはアクアとヤリスの比較から始めよう。
プラットフォームは、どちらもコンパクトカー用の「TNGA」プラットフォーム(GA-B)を使用する。ボディー寸法は、アクアが全長×全幅×全高=4050×1695×1485mm、ホイールベース=2600mm。ヤリスが全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm、ホイールベース=2550mmだ。似たようなサイズだが、アクアのほうが全長が110mm長く、ホイールベースも50mm長い。この違いにより、室内空間と荷室の広さはアクアが勝る。またアクアはバックドアの開口部も上下で800mmと大きい。荷室については、使い勝手の面でもアクアが上といえるだろう。
バッテリーの違いがもたらす走りの差
パワートレインはハイブリッド専用車のアクアが1.5リッター3気筒エンジン+モーターで、システム最高出力が116PS(85kW)、燃費はFF車で33.6~35.8km/リッターとなっている。一方、ヤリスは1リッターと1.5リッターの純エンジン車もあるが、ハイブリッド車にはアクアと同じパワートレインが搭載され、その燃費はFF車で35.4~36.0km/リッターである。燃費でヤリスが上回るのは、車両重量がやや軽いのが主な理由だろう。とはいえ、その差は1~2km/リッターほど。お財布への影響は、ほんのわずかなモノだ。
ハイブリッドに使う二次電池は、ヤリスがリチウムイオン電池(容量4.3Ah)だけなのに対して、アクアは同じリチウムイオン電池をエントリーグレードに、新開発のバイポーラ型ニッケル水素電池(同5.0Ah)をその他のグレードにと使い分けている。
この点、ちょっと電池に詳しい人なら「上級グレードに古いニッケル水素電池を使うの?」と思うかもしれないが、新しいバイポーラ型ニッケル水素電池は、既存のニッケル水素電池より高出力化&小型化されており、結果的にモジュール全体で約2倍の出力を実現したという。これにより、アクアはヤリスよりEV走行できる速度領域が拡大。ヤリスがだいたい20km/hまでなのに対し、アクアの上級モデルは、およそ40km/hまでの速度域をモーターだけで走れるようになった。
加えて2台の違いとして挙げたいのが、AC100V・1500Wのアクセサリーコンセントの有無だ。これをアクアは全車標準としたのに対し、ヤリスではメーカーオプションとなっている。万一の災害時はもちろん、アウトドアレジャーでも活用できる装備だけに、この差は大きいのではないだろうか。
ニッポンのコンパクトとして幅広いカスタマーに訴求
まとめると、2台の違いは「若干アクアが大きくて、室内・荷室が広い」「パワーは同じで、燃費はちょっとヤリスがいい」「EV走行領域はアクアのほうが広い」「アクアは給電能力が標準」となる。この差から感じられるのは、アクアのほうが実用性が高いというか、想定される用途が幅広いということだ。
トヨタの開発者も、両車の違いを「アクアは国民車として日本に合ったクルマをつくりたかった」「ヤリスは操る楽しみが主眼であり、運動性能を重視しているが、アクアはダウンサイザーのお客さまも多いので、上質さや洗練された雰囲気を大切にしている」と説明。実際、アクアは静粛性や取り回しのしやすさも磨きこまれている。
加えて挙げると、アクアは先代モデルの販売のうち、約3割がビジネスユース(社用車)であったという。つまり、フリート顧客にクルマ初心者、そしてダウンサイザーと、幅広いユーザーがターゲットとなっているのだ。グローバルカーのヤリスに対し、アクアはこの2代目で日本国内専用車となったが、そのカスタマーの幅広さからして、まさに“日本の国民車”といえる存在なのだ。
かように幅広いカスタマーに訴求するアクアだが、ではアナタなら、どんな仕様を選ぶべきか。アクアにはエントリーグレードから順に「B」「X」「G」「Z」という4つのバリエーションがある。「グレードが多くて迷いそう」と思うかもしれないが、意外や中身はシンプルだ。まずBグレードは、装備が簡素で電池も通常のリチウムイオン電池を搭載する。軽量なので燃費性能は最も優れるが、これはハッキリ言ってビジネス向けだ。普通に使うなら、下から2番目のXがエントリーで、次のGがミドル、そしてZが豪華装備の最上級となる。ここから“松竹梅”の感覚で選べばいいだろう。
3グレードの主な違いは、内外装の仕様やインフォテインメント関連の装備となるが、注目してほしいのはむしろ快適性の差。XよりGやZのほうが遮音が入念で、またスーパーUVカット/IR<赤外線>カット機能付きフロントドアガラスや、空気清浄効果のある「ナノイーX」が標準装備されるのだ。夏の暑さや日焼けが気になる人、小さな子供を乗せる機会が多い人などは、この点にも留意しておくべきだろう。
気になる“あのクルマ”との違い
最後に、ライバルについてもちょっと触れておきたい。アクアの最大の競合車種は、最新モデルでハイブリッド専用車となった「日産ノート」だろう。キャラクターが優等生的でアクアに類似しているうえに、サイズ的にも全長×全幅×全高=4045×1695×1505mm、ホイールベース=2580mmと、これも非常に近いのだ。くしくもパワートレインの最高出力は116PS(85kW)と、これまたアクアと同じだ。
しかし、ノートのハイブリッドシステム「e-POWER」は、タイヤの駆動はモーター、発電はエンジンと、役割を完全に分けていることが特徴だ。走行はすべてモーター駆動となるので、ドライブフィールは非常に電気自動車に近い。アクアとの最大の違いは、このフィーリングではないだろうか。未来的な走りを求めるならノートがおすすめ。ただし燃費はアクアが勝るので、そこにこだわらないならアクアがおすすめ、となるだろう。
ちなみに、2021年11月10日時点におけるアクアの納車待ちは、約3カ月とのこと。最近は半導体不足などで納車待ちが延びる車種が増えており、このクルマも、今後納期がどうなるかは不透明である。欲しい人は、早めにディーラーに相談してみよう。
(文=鈴木ケンイチ/写真=トヨタ自動車、日産自動車/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。