ひっそりと起きた大革命 新型「ノア/ヴォクシー」が積むハイブリッドはこれまでとは別物だ!
2022.02.09 デイリーコラムトヨタのハイブリッドが第5世代に
先日発売されたトヨタの新型「ノア」と「ヴォクシー」には、2リッター純ガソリンエンジン車と1.8リッターのハイブリッドという2種類のパワートレインが用意される。先代“ノアヴォク”では純ガソリン車とハイブリッド車の間に約50万円あった本体価格差が、新型では35万円ほどに縮小。ハイブリッド人気が加速する可能性が高い。
そんな新型ノアヴォクのハイブリッドシステムは、今回が初登場となる“第5世代”だという。まあ「新型車に新しい技術が搭載されるのは当たり前では!?」といわれれば、まったくそのとおりだ。しかし、これまでの「トヨタハイブリッドシステム(THS)」の進化の経緯を振り返ると、これはこれでけっこう画期的な“事件”といってもいい。
知っている向きも多いように、ハイブリッド自動車を世界で初めて市販実用化したのは、1997年の初代「トヨタ・プリウス」であり、その初代プリウスに搭載されていたのがTHSである。その初代プリウスの現役時代には、ミニバン用にCVTを組み合わせた「THS C」や、「クラウン」に搭載されたマイルドハイブリッド版「THS M」なども登場した。
進化を続けるTHS II
しかし、2003年の2代目プリウスで電源昇圧回路を組み込んでEVモードも追加した「THS II」が登場すると、トヨタのハイブリッドシステムはすべてTHS IIに統一された。初代プリウスのシステムが“第1世代”とすれば、このTHS IIはFF系プラットフォームに使うエンジン横置きTHSとしては“第2世代”ということになる。
続く2009年の3代目プリウスには、エンジンを1.8リッター化してリダクションギアを組み込んでトランスアクスルを小型軽量化した“第3世代”が搭載された。これも「THS III」と呼んでいい変更だったが、リダクションギア機構を最初に採用したのはエンジン縦置き用のTHS IIだったこともあってか、名称は変わらなかった。
続く“第4世代”はやはり2015年の4代目プリウスで初登場となった。技術的な特徴は遊星ギア式だったリダクション機構を平行ギア化するなどして、トランスアクスルの横幅を約12%小型化、フリクションロスを約20%も低減したことである。これまた名称を変えるには十分な進化だったが、この時点でTHS IIはすでに、トヨタではごく普通の汎用的なパワートレインになっていた。横置きだけでも大・中・小の3系統、さらには縦置きも複数バージョンが混在した状態では、第4世代だけを特別あつかいすることは商品戦略上でもむずかしかったようで、THS IIという名称はここでも継承された。
初出がプリウスではないという“異例”
こうしてTHSとTHS IIの歩みを見ていくと、これまでの主力ハイブリッドは常にプリウスのモデルチェンジを機に世代交代して、その主力技術の多くが他クラスのシステムに波及していく……という構図だったのだ。そう考えると、今回の第5世代は「その世代交代がプリウスではないモデルで実施された」ことじたいが歴史的事件なのだ。クルマを取り巻く環境がプリウスのモデルチェンジを待てないほど風雲急を告げているのか、あるいはトヨタ内におけるプリウスの立ち位置が以前ほど特別なものでなくなったのか……。その背景にはいろいろな見方があるだろう。
注目の第5世代ハイブリッドの進化は出力アップに小型軽量化、ロス低減……と、全方位にわたる。その作動原理やレイアウトそのものは従来のTHS IIを踏襲しつつも、モーター出力を16%引き上げ(72PS→95PS)、モーターの小型化と内部ギアの設計変更によって、サイズは前後方向の軸間距離で16mm、重量は15%の軽量化を実現したという。
同時に今回は内部オイルにもついに手が入った。これまでは通常のATFを使っていたのに対して、電動車専用低粘度オイルを自社で新開発。さらにはパワーコントロールユニットのパワー半導体素子を新しくしたことで29%の損失低減を実現したという。このように機械・電気の両方の根本的なロス低減に手を入れたほか、昇圧回路のスイッチングをさらに高周波(10kHz→15~20kHz)とすることで「キーン」という独特のノイズも大きく低減しているらしい。さらには駆動用のリチウムイオン電池もさらに小型化して、GA-Cプラットフォーム用としては飛躍的に高出力化した4WD用リアモーターユニットも、今回新開発している。
THSからシリーズパラレルへ
この新世代ハイブリッドの実力は今後の評価を待つしかないが、今回のもうひとつの事件は、すっかりおなじみとなっていたTHS、そしてTHS IIという名称が表向きでは使われなくなったことだ。トヨタはノアヴォクの第5世代システムから「シリーズパラレルハイブリッド」という、なんとも一般的な名称で呼ぶことにしたようだ。
トヨタが自社ハイブリッドを一般名称で呼びたがらなかったのは、初代プリウス時代に適切な呼び名が存在しなかったことも大きい。
というのも、初代プリウスが登場する以前から、業界ではハイブリッドの概念そのものは広く知られており“シリーズハイブリッド”と“パラレルハイブリッド”という2つの呼称も存在していた。前者は今でいう「日産e-POWER」に代表されるエンジンが電力供給に専念するシステムであり、後者は現代風にいえばマイルドハイブリッドそのものだ。
ところが、トヨタのハイブリッドは、あるときはシリーズ、あるときはパラレル、またあるときはEV……と変幻自在に走った。つまり、世界初の市販ハイブリッドがいきなり、世界のだれもがなんと呼んでいいかすら分からない、既存のハイブリッドの概念を覆すクルマだったわけだ。そこでトヨタは、自社システムを独自にTHSと名づけた。
しかし、プラグインハイブリッドまでもが一般的となった今では、内部構造はちがっても内燃機関と電気が頻繁に切り替わるシリーズとパラレルの混合型ハイブリッドが主流となりつつある。その元祖たるトヨタも、独自名称にこだわるほうが、もはや一般的に分かりづらくなった……という判断だろう。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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