第225回:カーマニア人造人間への道
2022.02.07 カーマニア人間国宝への道つまりハロゲンをLED化!?
カーマニアも人間だから年を取る。カーマニアの多くが中高年なので、肉体の老化はことのほか激しい。避けられない運命である。
私は3年前から、目のかすみに直面していた。草野球の練習でフライを取り損ねてボールを目に命中させて以来なので、それが原因かと思っていたが、60歳の無料眼科検診を受けたところ、「白内障です」と診断された。
そ、そうだったのかっ!
先生:どっちも軽度の白内障です。
オレ:自分としては、左目だけがよく見えないんですが。
先生:診断としては同程度ですけど、ご本人は微妙な差を感じますから。
白内障ということは、治療すれば治るということだ。水晶体を人工レンズに交換すればオッケー! ヘッドランプのバルブを交換するようなものである。超こわいけど……。
聞けば昨年から、遠くから手元まですべて見える「2焦点+焦点深度拡張型レンズ」が認可されたとのこと。それを入れれば、ハロゲンランプをLED化できる!
お値段は片方で約40万円と高価だが、目はカーマニアの命。どんないいクルマを買ったって、目が見えなきゃ手も足も出ない。私は迷わずその最高級レンズをブチ込むことにした(単焦点レンズなら自己負担ゼロ円)。
ただ、100万人にひとりの確率で、体質的に失明すると聞いたので、今回は一応左目だけにしました。2つしかない目ですから、石橋をたたいて渡ります。
手術については、「とっても簡単だけど、猛烈に怖かった」とだけ記しておこう。怖すぎて詳細は書けません。あんな手術を次々とこなす目医者さんってホントにスゴイ。
視力点検を兼ねて新型「アルト」で出撃
数日後には違和感も薄れ、はっきり見えるようになってきた。検査の結果も良好。視力も1.0! 期待した「目のターミネーター化」まではいってないが、曇りがなくなってちゃんと見える!
実際の見え具合を確認するため、広報車の新型「アルト」で、首都高に出撃することにした。
新型アルトのハイブリッドモデルは速い。車両重量710kgは、現代の軽自動車として非常に軽量ゆえ、ノンターボ660ccでも軽々と加速する。ちなみにわがセクシージャンボこと「ハイゼット トラック ジャンボ」は640kgの36PS。アルト ハイブリッドは49PS+2.6PS(モーター)。速いはずだ。
ただ、見た目はかなり弱そうである。ボディーカラーがピンクっぽい赤と白のツートンだったので、なおさらだ。なにをされても文句を言わない弱者感ビンビン!
アルトで幹線道路を走ると、周囲のクルマが全部猛獣に見えた。猛獣たちは、まったく遠慮なしにアルトに襲いかかってくる。軽トラでも食らわない割り込みがバンバンくる。車線変更するにも勇気がいる。これはキツイ……。女性ドライバーがオラオラ顔の軽を好む理由がよくわかる。
見た目の小動物感では「ラパン」のほうが上だが、ラパンはあまりにも弱者すぎて、触っただけで死んでしまいそう。ラパンをいじめるのは人道にもとる雰囲気ビンビンゆえ、多少手加減してくれるのではないか。その点赤白ツートンの新型アルトは、声なき弱者そのもの。誰からも優しくしてもらえない。
これでボディーカラーが白やシルバーなら、暴走営業車の気配が漂うので周囲も一目置くだろうが、赤白ツートンのアルトは最弱! アルトをご検討中の皆さま、この組み合わせだけは避けたほうが無難ですヨ!
コーナーがちゃんと見える
が、首都高に乗り入れると、日曜日+オミクロン効果でガラガラ。前が詰まっていなければ、ドイツ製の猛獣たちにアオり倒されることもない。かわいい小鹿ちゃんのアルトはサンデードライバーたちをブチ抜きつつ、軽やかにコーナーを駆け抜けた。
ううむ、見える! コーナーのアペックスがよく見える! 正確に言うと、アペックスまでの距離がちゃんと見えるっ!
思えばこの3年間、それがよく見えなかった。コーナーまでの距離がわからずして、コーナーを攻めることなどできようか。カーマニアも老化には勝てぬとあきらめていたが、原因は白内障による左目の曇りだったのか!
が、なんとなく左右の画像が一致しない違和感は残っている。具体的には、道路案内標識の文字が、数秒間凝視しないと判読できない。なぜだ……。
試しに左右の目を交互に手で覆ってみて驚愕(きょうがく)した。手術した左目ははっきり見えるが、今度は右目が曇っていたのだ! 先生は「左右同程度の白内障」と言ってたけど、やっぱ右も白内障なのね!
しかしまぁ、コーナーまでの距離はちゃんとわかるので、長足の進化である。しばらく右側だけハロゲンのまま走ってみます。あんなこわい手術、もう一回すぐ受ける気になれないし!
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。