第35回:次期型「マーチ」はEVに? ルノー・日産・三菱が電動化戦略をアップデート
2022.02.22 カーテク未来招来![]() |
ルノー・日産・三菱アライアンスが、2030年へ向けた次世代戦略を発表。パワートレインの電動化と車種構成の効率化を推し進める彼らが考える、未来の商品ラインナップとは? 世界第3位の巨大自動車グループが描くロードマップを解説する。
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商品の“共通化”と“差異化”を同時に推進
日産自動車が欧州で販売する「マイクラ」の次期モデルは、EV(電気自動車)になる――。フランスのルノーと日産自動車、三菱自動車の3社アライアンスが、2022年1月末に、2030年に向けた電動化戦略「Aliance2030」を発表した。その骨子は以下のとおりだ。
- 2026年までに、プラットフォームの共用化率を現在の60%から80%まで向上させることを目指す。
- 三菱は、ルノーの最量販車をベースとする新型車2車種を欧州市場に投入。
- アライアンス3社は製品ラインナップの電動化を加速するため、今後5年間で230億ユーロ(1ユーロ130円換算で2兆9900億円)を投資する。
- 2030年までに5つのEVプラットフォームをベースにした35車種の新型EVを投入する。その一環として、日産は「CMF-BEV」プラットフォームをベースとした、マイクラの後継車となる新型EVを発売する。新型EVは、フランス北部のルノーのEV専用工場「エレクトリシティー」での生産を予定する。
- 2030年までにグローバルで220GWhのバッテリー生産能力を確保することを目指し、バッテリーの共通化も推進する。
- 日産は、全固体電池の技術開発をリードし、アライアンスでそのメリットを享受する。
- ルノーは、アライアンス共通のE/E(電気/電子)アーキテクチャーの開発をリードし、2025年までにSDV(Software Defined Vehicle)を投入する。
今回の発表で興味深かった第1のポイントは、プラットフォームを共用化した場合の車種間の差別化の程度を定めた、「Smart Differentiation(スマート差別化)」手法について説明があったことだ。3社アライアンスが2019年6月に「(車種間の)標準化を従来のプラットフォームからアッパーボディーまで拡大する」と発表したとき(参照)、筆者は「ルノーと日産で外観が同じようなクルマが増えてしまうのか」と思ったのだが、その懸念は今回の発表でかなり払拭(ふっしょく)された。
共通化を「高」「中」「低」の3つのレベルで推進
発表によると、Smart Differentiationの差別化レベルは「高」「中」「低」の3段階に分けられる。「高」の一例として紹介されたのは、日産が欧州で販売する小型SUV「ジューク」とルノーの「キャプチャー」である。この両車種はパワートレインやプラットフォームは共用するものの、外観や内装部品はすべて独自のものだ。
差別化レベル「中」の事例として紹介されたのは、ルノーの小型商用バン「カングー」と、「日産NV200」の後継車種となる新型バン「タウンスター」である。両車種は、プラットフォーム、パワートレインはもとより、外観のプレス部品もほとんどが共通だが、ヘッドランプ形状やテールランプ、バンパー形状が異なる。そして差別化レベル「低」の例として紹介されたのが、日産の軽自動車「デイズ」シリーズと三菱の「eK」シリーズである。両車種の違いは、ほとんどグリルやバンパー形状に限られる。
しかし実際のところ、日産デイズシリーズと三菱eKシリーズは、グレードによってヘッドランプ形状も異なり、レベル「低」とレベル「中」との境目はかなりあいまいだと感じた。それでも、プラットフォームの共用後には差別化のレベルを車種の特性に合わせて使い分けることが、今回の発表ではっきりした。
同時に、コンポーネンツの共用化を三菱にも広げていく方針も示された。先に触れたように、三菱はルノー車をベースにした新型「ASX」をはじめとする2つの新型車を投入する。ASXは日本では「RVR」として販売されている車種だが、これが恐らく、同じBセグメントSUVであるルノー・キャプチャーの兄弟車種になると予想される。三菱はルノーとの提携関係を活用して、欧州事業の立て直しを図るものとみられる。
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5つのEVプラットフォームを用意
今回の発表で注目すべき第2のポイントは、EVを展開するためのプラットフォーム戦略が明らかにされたことだ。先述のとおり、3社アライアンスは今後5年間で電動化戦略に総額230億ユーロ以上を投資し、2030年までに35車種の新型EVを投入する。そのうち90%の車種は、5つの共通EVプラットフォームをベースにするという。
その5つのプラットフォームとは、「CMF-AEV」「CMF-BEV」「CMF-EV」「LCV-EV」「軽EV」のことで、このうち最も重要なのが、CMF-EVである。というのも、他の4つがすべてエンジン車と共用のプラットフォームであるのに対して、CMF-EVは唯一のEV専用プラットフォームだからだ。2022年に発売される「日産アリア」や「ルノー・メガーヌE-Techエレクトリック」のベースとなり、2030年までに15車種以上に採用され、最大で年間150万台が生産される。
その次に重要なのが、BセグメントEV用プラットフォームのCMF-BEVで、ルノーでは最も生産量の多いCMF-Bをベースとする。CMF-BEVはコスト削減を重視して開発されており、CMF-Bと部品を6割共通化することで、ルノーの現行コンパクトEVである「ゾエ」よりもコストを33%低減するという。CMF-BEVを採用したEVは2024年に市場投入される予定で、電費を現行EVよりも10%改善することで、最大400kmの航続距離を実現する。CMF-BEVはルノー、日産、それにアルピーヌ、ダチアの4ブランドで使われ、年間25万台分のEVのベースとなる予定だ。
ここで注目すべきは、CMF-BEVがルノーの新型「5(サンク)」に加え、日産マイクラの後継車となる新型コンパクトEVにも使われることが明らかにされたことだ。この新型EVは、デザインは日産が担当し、ルノーの工場で生産される。今回の発表ではこの新型EVの一部の写真が公開されたが、これを見ると過去のマイクラを思わせる楕円(だえん)形のヘッドランプを採用しているのが目を引く。ルノーの工場で生産するということで日本への導入は期待薄かもしれないが、もし導入されたら人気が出そうだ。
エントリーモデルや商用車も積極的にEV化
CMF-AEVは、Aセグメントのエンジン車用プラットフォームであるCMF-Aをベースとしたもので、現状ではダチア(ルノーの傘下にあるルーマニアの自動車ブランド)の小型EV「スプリング」に使われている。スプリングは中国で生産され、現地では「ルノー・シティK-ZE」として販売されているモデルだ。バッテリー容量は26.8kWh、航続距離はWLTPモードで225kmと限られるが、“補助金込み”の費用がフランス国内では日本円で160万円強からという低価格が売り物である。
このほか、LCV-EVはカングーやタウンスターといった商業車の、EV版のベースとなるもの。軽EVは日産と三菱が2022年春の発売を計画する新型軽EVのベースとなるプラットフォームで、それぞれエンジン車の商業車用プラットフォーム、および軽自動車用プラットフォームをベースとしている。
ここまでは3社アライアンスの今後の商品戦略について見てきたが、次回は電池戦略と、今回の発表で感じた課題について考えていきたい。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=ルノー、日産自動車、三菱自動車、webCG/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。