第680回:“切り増し”で感じた確かな手応え 「ミシュラン・パイロットスポーツ5」を試す
2022.03.25 エディターから一言![]() |
ミシュランのスポーツタイヤ「パイロットスポーツ」が第5世代に進化。もともと定評あるドライ&ウエット性能をさらに高めたとされているが、果たしてその真偽は? ウエット路面のクローズドコースで仕上がりを試してみた。
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ベーシックモデルが次世代へ
ドライおよびウエット路面でのグリップ力の高さがもたらす走る楽しさはもとより、時代の要請でもある燃費向上に貢献する転がり抵抗の低減も追求。さらには、新たな金型技術を用いることでサイドウォールに目新しい意匠を実現し、「見た目の満足感」にまで留意して開発されたというのが17インチから21インチまでの全43サイズで2022年の3月8日にローンチされた、ミシュランのパイロットスポーツ5だ。
名称からも明らかなように、これは好評を博してきた「パイロットスポーツ4」の後継モデル。自動車メーカーで新車装着されるぶんに関しては、マッチングの確認や契約上の問題もあって当分は“4”が継続採用されることになるというが、補修用として販売されるものは今後“5”へと替わっていくことになる。
ちなみに“ダイナミックスポーツタイヤ”と銘打たれてはいるが、サーキット走行を含めたより高い運動性能にフォーカスした「パイロットスポーツ4 S」は従来品が継続され、現在のところ世代交代に関する話題は報じられていない。すなわち、このブランドを代表するスポーツタイヤシリーズのなかでも、「最もベーシックなスタンダードモデルが新世代にバトンタッチした」ということになるわけだ。
ウエット&ドライ性能をさらに強化
新しいパイロットスポーツ5でまず、開発の狙いどころとして強調されているのは、これまでの“4”でも定評があったドライ路面での安定したグリップ力と、ドライ性能と背反する関係にあるとされることが多いのに、やはりこちらにも定評のあったウエット路面でのグリップ性能に、さらに磨きをかけようというポイント。
そのために、燃費やウエットグリップ向上に効果のあるシリカがより多く配合された新しいトレッドコンパウンドが開発され、トレッドのデザインもモータースポーツから技術がフィードバックされたという「デュアルスポーツトレッドデザイン」を採用。この新たなトレッドデザインは、内側部分に高い排水性を確保する太いストレートグルーブを刻む一方で、外側部分には大型のブロックを配置。ウエット/ドライのいずれでも高いグリップ力を発揮する効果が見込まれたものだ。
さらに、コーナリング時の接地圧分布がより均等になるように、内部構造を最適化。これは高強度で耐熱安定性に優れた「ハイブリッドアラミドナイロンベルト」などと合わせて接地性を向上させ、さらに意のままのハンドリングを実現するという。
ちなみに日本向けのアイテムには導入されていなかったものの、実はこれまでの“4”には主に悪路走行時の強度確保の目的で、ケーシング(骨格)を強化した一部アジア地域向けのスペックが存在していたという。しかし、技術の向上によって“5”では、すべての仕向け地向けのスペックが一本化されている。
それもあって、日本を含むアジア向けの製品は、主な生産拠点をヨーロッパからアジアに変更することで輸送距離を短縮化。輸送時のCO2抑制を実現したといったニュースも伝えられている。このあたりも、最新世代のグローバルタイヤならではのトピックとして興味深い。
プレミアムタイヤらしいこだわり
「トヨタ・カローラ スポーツ」に装着されてテストに供されたパイロットスポーツ5のサイズは225/40R18。「黒くて丸い」のはタイヤとして当たり前と言われてしまいそうだが、このタイヤの場合、前述のようにさまざまな性能向上に威力を発揮する一方で、そもそもゴムとは親和性の低い=混ざりにくいシリカを最新の配合技術によって大量に含有させられるようになったことで、もともと黒色であることを決定づけるゴムの補強材として採用されてきたカーボンブラックは、「色づけ程度の意味合い」で加えられることになったという。
一方で、そんな黒さにこだわったというのが「フルリングプレミアムタッチ」と名づけられた全周にも及ぼうとするサイドウォール上の帯状の意匠だ。
これは、「ビバンダム(=ミシュランマン)」やブランドロゴの背景に微細な円すい形を並べることで、光の反射を抑えてマットブラックに見えるようにしたという工夫である。実車に装着された状態で目にすると確かに周囲とは明確に「黒さが違う」印象。金型に精密加工を施す必要があるということでコストアップにはなるだろうが、確かに一見してプレミアムタイヤらしいこだわりを感じさせてくれるのも事実だ。
トレッドのデザインそのものは、大きめのブロックが整然と並ぶと同時に細かなサイプは排除されながらも太いグルービングが排水性のよさをイメージさせる、幅広い車種に違和感なく適合しそうなスポーツタイヤらしい面構え。
テスト時の路面は軽いウエット状態で完全なドライ条件でのチェックはできなかったが、このタイヤの強みを分かりやすく感じさせてくれるという点では、こうしたコンディションはむしろ好都合だったかもしれない。
切り増し時に確実な手応え
走り始めてすぐに抱いたのは、いかにもこのブランドのタイヤらしく真円度が高く重量バランスにも優れるという印象。そんなこともまた「当たり前」と思われるかもしれないが、経験上、速度が増すに従ってどこかゴロゴロとした乗り味を感じさせられる場合は、「タイヤが完全には丸くない(=真円度が低い)」ことが原因であることも少なくないものだ。
ステアリング操作に伴う応答性はそれなりにシャープである一方で、それが過敏なほどに目立つわけではないというのは、乗り比べのために用意された“4”と同等という印象。スタンダードなスポーツタイヤというターゲットキャラクターからすれば、装着車種を細かく選ぶことはなさそうという点で、納得できる味つけだ。
“4”との差が明確に感じられたのはウエット路面で横方向のグリップ力が限界に近づき、膨らみかけたトレースラインを外さないようにとさらなる切り増しを試みたシーン。こうした場面で操作に対してより確実な手応えを示してくれたのは明確に“5”のほうだった。
実際、このコースでのウエット状態でのラップタイム計測では、“4”に対して平均で約1.5%、最速で約1.7%の短縮という結果を記録しているという。これは前述のように積み重ねた印象と合わせると、まさに納得がいく。
路面状況の関係もあって厳密な比較とはいえないが、静粛性や乗り心地に関しても、少なくとも“4”と同等と感じられたのが“5”の実力。ミシュランを代表する一品として、リプレイスはもちろん、今後は新車装着での需要も高まっていくと予想される最新タイヤだ。
(文=河村康彦/写真=日本ミシュランタイヤ/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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