新型「BMW 7シリーズ」から見えてくる欧州メーカーの電動化とグローバル戦略
2022.05.09 デイリーコラム見た目はさておき注目なのは……
第7世代となるBMWブランドのフラッグシップ「7シリーズ」(G70)が発表された。BMWの最新デザイントレンドでまとめられ、ボディーサイズも一層大きくなった。その面構えには賛否両論あれども、現時点では全長およそ5.4m、全幅2m、ホイールベース3.2m超のロングホイールベースモデルのみが発表されており、ハイエンドサルーンとしての存在感は史上最高レベルに達したといっていいだろう。
注目すべきはグレード構成だ。トップエンドは「i7」とその“M仕様”である「M70 xDrive」(2023年登場)で、エンジンレスのBEVとなった。また、ストレート6+電気モーターのプラグインハイブリッドグレード「M760e xDrive」も既に発表されている。ちなみに他のエンジングレードは従来と同じくストレート6のガソリンとディーゼル、そしてV8ツインターボで、いずれもマイルドハイブリッド仕様だ。
つまりマニア垂涎(すいぜん)のV12エンジン搭載は以前にアナウンスされたとおり、潔く消えてなくなった。最高出力のスペック順に並べれば、600PS以上となる予定のM70がトップグレードで、次にシステム総合出力571PSのM760e、そしてツインモーター544PSのi7となるだろう。このあたり、使用環境の違いで選ぶハイエンドサルーンというBMWの思惑も透けて見える。事実、ヨーロッパ市場では当初BEVのi7のみを販売する予定で、日本やアメリカ、中国など他のマーケットではエンジン搭載のグレードも併売する。
まだエンジンは捨てられない
そう、BMWはまだエンジンの可能性も捨ててはいないし、なんなら水素の未来だって大いに認めている。投資家や経営・経済メディアからはメルセデス・ベンツやアウディに比べて電動化への取り組みが「手ぬるい」と非難されることもあるが、グループCEOで欧州自動車工業会議長でもあるオリバー・ゼプシ氏は、BEVは中国やヨーロッパなどごく限られた地域でのみ市場が成立しており、エンジンが必要なマーケットは世界にまだまだ多く、自分たちがエンジンをつくらなくなっても誰かがつくって売ることになる、と言ってはばからない。
なるほどおっしゃるとおりで、エネルギー供給やインフラなどの面でEV環境に貧しい国の自動車ユーザーにまでBEVを押し付けるわけにはいかない。また昨今の強力な電動化推進キャンペーンは自動車メーカーが主体となって働きかけた結果ではないこともあらためてアピールしている。
BMWの中期的な電動プランは、2025年までに累計200万台のBEV生産と、2030年までに全台数の半数をBEVにする、というもので、確かにこれだけをみれば完全BEVブランドを目指すと取りあえずは宣言した他のプレミアムブランドに比べ“手ぬるく”思えることだろう。BMWの利益率の低さも投資家目線からすれば、「ほら言わんこっちゃない」なのだ。
しかしながら、新型コロナのパンデミックと続くロシアによるウクライナ侵攻によって資源やエネルギーの供給環境が激変した今となっては、生産台数の少ないブランド(例えばBMWで言えばMINI)が電動化をアピールすることはまだ理解できたとしても、年産200万台を超えるような大メーカーが電気自動車への一本化を目指すなど、全固体電池などバッテリー技術の劇的な進化が確定しない現時点でははっきり言って狂気の沙汰だ。
今後は完全EV宣言の練り直しを迫られるブランドも出てきそうで、そういう意味でもBMWの現時点での戦略は、まだリアリティーがある(いや、それだって厳しいと思うが)。
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市場の混迷は深まっていく
いずれにしても、世界市場を見渡せばパワートレイン・ミックスが今しばらく有効なプランであることは間違いない。少量生産の超高級ブランドやバッテリー負担の少ないマイクロモビリティーなど電動化が一気に進むカテゴリーもある一方で、大メーカーではブランド内でもパワートレインプランを振り分ける、例えばBMWで言えば「最上級の7シリーズは中国やアメリカが最大のマーケットだから電動モデルを積極的に投入する」といった細やかな戦略が必要になるだろう。議論の的となった新型“G70”7シリーズは中国市場を完全に意識したデザインであることをBMWは認めている。
早晩、エンジン関連の資産や開発に余力のある他のメジャーブランドはBMWに近い戦略に揺り戻されるのではないか。逆に生産資産や開発資金の問題でエンジンにはいまさら戻れそうにない中堅ブランドは、それこそ千載一遇のチャンスと捉えてBEVマーケット重視の戦略を一層鋭く推し進めるに違いない。
そこで気になるのは日本市場への対応だ。その是非はともかく、マーケット的にもエネルギー環境的にも、そして政治的にみても今のところBEV後進国であることは間違いない。中堅ブランドが台数的にビジネスにならないと判断すれば日本市場からの一時的な撤退も十分にあり得ると思うし、そうでなくとも販売方法の質的な大転換は避けられないだろう。現状のインポーター組織とCIディーラーネットワークをBEVだけで支えることは今後一時的には難しくなるのではないか。
フォルクスワーゲンとアウディ、ポルシェがグループ内でBEVのインフラ環境を共有し整えていくという発表があったが、インポート&ディーラービジネスにおいてさらなるグループ化が進む可能性もあるし、場合によってはグループの枠組みを超えて、昔のヤナセやコーンズのような輸入・販売形態の進化した輸入車ビジネスが、ブランドによっては生まれるのかもしれない。
(文=西川 淳/写真=BMW、webCG/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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