第240回:全天候型ふわとろ戦闘機
2022.09.05 カーマニア人間国宝への道ウエット路面でキモを冷やす
ちょいワル特急こと299万円で買った「プジョー508 GT BlueHDi」(ボディーカラー:シルバー)は、雨が降っても汚れが目立たない全天候型戦闘機。つまりステルス戦闘機だ! 永福町のトム・クルーズの愛機にふさわしいぜ!
が、本音では、乗り味の第一印象はあまりよろしくなかった。
ノーズには激重な2リッター直4ディーゼルエンジンがオーバーハングされ、サスはふんわりソフト、そしてハンドリングの初期ゲインは超ビンカン、タイヤ銘柄はミシュランの旗艦「パイロットスポーツ4」。ステアリングを切るとコンマ2秒遅れてピュッと向きが変わる。路面のジョイントではガツンと突き上げがくる。これじゃドッグファイトはできないぜ!
実はタイヤのスリップサインが出た状態で、それが悪影響を及ぼしていたのです。溝がないのは買う前に確認済みで、むしろ「わーい、買ってすぐ好きなタイヤに履き替えられる~」と喜んだのだが、納車日、走りだすとすぐに雨が降り出し、ドッグファイトどころか帰還すら危ぶまれてキモを冷やした。
思えば、スリップサインが出たタイヤでウエット路面を走ったのは、カーマニア人生初だったかもしれない。営業車じゃあるまいし、そこまでタイヤ使い切りませんから! 前オーナーは大胆不敵というかツウすぎるというか、FFだから断然フロントの減りが早いはずだが、4輪とも均等にスリップサインが出ていやがる! ローテーションで4輪とも骨の髄までしゃぶりつくして売り飛ばしたのか! やるじゃねぇか!
とにかく一刻も早くタイヤを交換せねば。トム・クルーズに残された時間はわずかなのだ。高齢なので。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
雪もOKの全天候型
私には夢があった。それは、愛車にオールシーズンタイヤを装着することである。
近年、オールシーズンタイヤの進化は目覚ましく、アイスバーンを除けば万能らしい。ちょいワル特急にオールシーズンタイヤを履かせれば、雨だけじゃなく雪もOKの、本物の全天候型戦闘機になれる。トム・クルーズは、どんな天候でも無敵でなくてはならないのだ。
銘柄は、最高級の「ミシュラン・クロスクライメート2」に決定。次の「3」が間もなく出るのか、意外とお安くてラッキーだぜ! さすがトム・クルーズ。地球は俺のために回っている!
お盆が明けるのももどかしく、近所のタイヤ屋さんで交換だ。うーん、すごいトレッドパターンだな。ほとんど溝だらけ。前のタイヤが残り溝0mmだったからなおさら溝だらけ。
走りだしてすぐに涙が出た。スバラシイ……。これだよこれ! これが本来のプジョー508 GT BlueHDiだ!
3年前、プレス試乗会で乗った508に比べると、4万km走行だけにサスはこなれまくり、まるでお姫様ベッドのよう。そこに、ふんわりと当たりのやさしいオールシーズンタイヤを巻きつけたのだから、そりゃもうフワッフワよ! これがお姫様気分なのね~。
純粋に評価すると、パイロットスポーツ4に比べたらグリップもレスポンスも2ランク下という感じですが、このクルマには、これくらいのタイヤのほうが合ってるんじゃないか? 508のガソリンモデルならパイロットスポーツ4でいいけれど、ディーゼルは前がメチャ重い。どうしたって操舵レスポンスの遅れは出る。ならタイヤのレスポンスも穏やかなほうがバランスがいい気がするぜ! 音も静かだしウエットにも強い。ライフも長く、スリップサインが出るまで8万kmくらいイケるらしい。これで老後も安心だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
腰痛持ちにもウレシイ中高年仕様
そのようにして、お姫様戦闘機となったちょいワル特急は、各所に出撃して大戦果を挙げた。
武器は、お姫様ベッドな乗り心地だけではない。エリート特急に比べて大幅に進化したADASの装備により、ACCのコントロール精度は断然向上。もはや安心してペダル操作を丸投げ(緊急時には足が出動します)できる。レーンキープアシストによって操舵も丸投げ……はできませんが、一部を委託可能! はぁ~ラクチン、ラクチン。
仕事柄、多くのクルマに試乗しております故、世のADASの進歩は知っておりましたが、試乗車と愛車じゃインパクトが違う。やっぱクルマは買ってナンボ。試乗車がラクチンでもうらやましいだけだが、愛車がラクチンなら人生がラクチンになる!
そこに追い打ちをかけたのが、「マルチポイントランバーサポート」だった。
まさか508にそんな装備が付いているとはトンと知りませんでしたが、購入数日後、運転席の端っこに妙なボタンがあるのをハッケンし、押してみるとあら不思議! マッサージが始まったじゃないですか! マジで!? こんなのが付いてたのぉ!? うれしい悲鳴よ~~~~~~~っ!!
今では設定により、エンジンをかけた瞬間にマッサージ始動! 腰をやさしくもんでくれる。戦闘機なのに、乗り込んだ瞬間にふわとろ温泉気分。しかも自動的に間隔を開けて、「そろそろお腰をもみましょうか」と、繰り返してくれるのだ。あ~癒やされる~。このクルマ、買ってよかった……。心底そう思います。でも、今から故障が心配だ。そんなのイヤッ。耐えられない!
ちなみに助手席にも同じ機能が付いているので、同乗者にも大好評。「シートにマッサージが付いてるなんてスゴ~イ!」と、ウルトラ高く評価されておりまする。さすが永福町のトム・クルーズ。無敵だぜ!
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。









































