ポルシェ911 GT3 RS(RR/7AT)
豪快で爽快 2022.10.07 試乗記 ポルシェのハードコアモデル、新型「911 GT3」にモータースポーツの知見を最大限注ぎ、さらなるパフォーマンスアップを果たしたという「911 GT3 RS」。そのステアリングを握りペダルを踏み込んだなら、どんな世界が見えてくる?進化のキモは空力性能
イギリスのシルバーストーンサーキットで行われた新型ポルシェ911 GT3 RSのプレス向け試乗会は、まず夕方のプレゼンテーション、そしてディナーからスタートした。ポルシェエクスペリエンスセンター内のレストランで催されたこのウエルカムディナーで筆者の隣の席に座ったのは、991.2(タイプ991の後期型)から使われている911 GT3用4リッターフラットシックスの開発を手がけたトーマス・マダー氏。先代GT3 RSの試乗会以来の再会となった彼はおどけてこう言った。「今回はエアロダイナミクスとシャシーにほとんどの予算が振り分けられたから、オレの仕事はそんなに多くなかったよ」。
実際、新型GT3 RSの空力、そしてシャシーの進化ぶりは、史上最高レベルといっていい。いまだかつて、GT3とGT3 RSに、これだけの差がつけられたことはなかったはずだ。
空力性能向上のキーがセンターラジエーターの採用である。これまでフロントバンパー下に、中央そして左右の3つのセクションに分けて配置されていたラジエーターが、大型のセンターラジエーターに集約され、両サイドの空いたスペースには可動式のフラップが配置された。
さらにスワンネックで支持された2分割式のリアウイングも、立った状態とフラットな状態の2段階に切り替わる。これらアクティブエアロダイナミクスと、他のさまざまな空力対策、例えばフロントスポイラーの代わりに装備されて空気の流れを上下に分割するフロントスプリッター、サイドブレード、フロントフェンダーに開けられたルーバー等々の組み合わせによって得られたのは、200km/h時に計409kg、285km/hでは実に計860kgという強大なダウンフォース。この数字は先代991.2のGT3 RSの2倍、現行型GT3の3倍という途方もない数字である。
最新の武器は変化も自在
それにしても、このエクステリアの空力処理の数々は物々しいと表現したくなるほどだ。前後タイヤの後ろ側のボディーはドアパネルまで大きくえぐり取られ、そこに整流用のブレードが据え付けられている。これらのドア、フロントフェンダー、さらにはルーフ、フロントリッドなどはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の専用品だから、こうした造形にもちゅうちょがなかったのだろう。
アクティブエアロダイナミクスは、3つのドライビングモードのうちノーマルを除くスポーツとトラックで走行中に動作し、自動的に最適な設定が導かれる。さらに、直線スピードを稼ぐためにスイッチを押して手動でウイングをフラットにすることも可能。そう、F1でおなじみのDRS(ドラッグ・リダクション・システム)である。一方、高速域からのハードブレーキでは前後の空力パーツが最大の効果をもたらすように設定されて、減速をサポートするといった機能も備わる。
最新の911 GT3でフロントに初めてダブルウイッシュボーンサスペンションを得たシャシーも、大幅にリファインされている。例えば、そのダブルウイッシュボーンのアーム類はすべて翼形に。なんと、これだけでフロントアクスルのダウンフォースを約40kg増加させているという。
フロントのロアアームは取り付け位置が下げられるなどジオメトリーも適正化。スプリングレート、リアアクスルステアリングの設定も変更された。そしてなんと、前後のダンパーはそれぞれ伸びと縮みについてプラスマイナス4段階ずつ個別の調整が可能に。リアのPTV(電子制御LSD)も加速時と減速時のそれぞれに効きを変更することができる。ステアリングホイール上のボタンを押すとインストゥルメントパネルのグラフィックが切り替わり、走行中でも直感的に操作できるという触れ込みである。
恐ろしく速いが怖くない
ブレーキはGT3よりピストン径、ディスクの厚みが増やされている。公道仕様スポーツタイヤの採用ということで、試乗車には「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」が装着されていたが、オプションでよりハイグリップな「カップ2 R」も選択可能だ。
対するエンジンは、ほとんど手が入れられていない……ということは、やはりなかった。主にプロファイルが変更された新しいカムシャフトの採用で、最高出力はGT3の510PSから525PSに増大。そして実は、高G下でのオイルの偏りを防ぐためにブロックが別物とされ、シングルスロットルのインテークシステムも吸気抵抗を防ぐよう加工されているなど、細かくチューニングされている。7段PDKもギア比がショートに。なんと最高速は“たったの”296km/hとされる。
本当は、すぐにでも刺激に満ちた走りの話をしたかったのに、説明にこれだけの文章量を要してしまった。今までのGT3 RSを知る人ならば、そのGT3からの跳躍ぶりには、きっと驚くだろう。
実際、先導車つきの試乗で味わったその走りっぷりは、やはり圧倒的と表現したくなるものだった。ただし、それはパフォーマンスレベルが高過ぎて手に負えないという話ではなく、市販車ではこれまで到達したことのないような領域まで、ある意味で容易に踏み込むことができるという意味である。
もちろん、イージーだと言っているわけではない。限界は高いが挙動に唐突なところはなく、クルマからの豊富なインフォメーションに耳をそばだてておけば、怖さを感じることはない。けれど、気づけば前のクルマに続いて、すさまじい速度でコーナーにアプローチしている自分に気づく。そんな感覚だ。
究極のスポーツエンジン
特にインパクトが大きかったのがブレーキ。我慢して我慢して思い切り踏み込んだつもりでも、最初は全然コースを余らせてしまった。インストラクションしてくれたポルシェワークスドライバーにして、このクルマの開発にも携わったヨルグ・ベルクマイスター選手によれば、ダウンフォースがあるので初期から思い切りペダルを蹴飛ばしていいのだという。実際、WECを走る「911 RSR」とブレーキングポイントは変わらないというからたまげてしまう。
そこからのターンインも安定感は抜群。もっと時間があれば、ここでPTVの効きを調整してみても面白かったに違いない。減速側をもう少し緩めて初期の旋回性を強めつつ、加速側は強めて直線的に立ち上がるように……など、セッティングとドライビングをあれこれ工夫してみるのは、マニアックだが面白いはず。ダンパー減衰力も同様である。
あらためて言うまでもなく、エンジンも実に刺激的だ。9000rpmまでよどみなく、突き抜けるように回り、豪快にパワーを絞り出す4リッターフラットシックスは、スポーツエンジンのある種の究極といっていい。しかもギア比がショートになっているのだから、まさに息つく暇もないという感じだ。
とはいえ、パワーに手こずり、持て余したという感じではない。むしろこれだけのエンジンをためらわず全開にできた今回の試乗は、本当に爽快なものだった。
思えば過去のRSモデルもそうだった。GT3 RSとしての最初のモデルであるタイプ996以降を見ても、軽量化やトレッド拡大、空力の改善などによって、高回転型自然吸気エンジンのパワーをフルに引き出して楽しめるモデルであり続けてきたのがGT3 RSなのだ。
過激に進化したように見える新型も、その芯は実は変わっていない。あえてひとつ付け足すならば、こういう珠玉のエンジンをいつまで楽しめるのかわからなくなってきている今の時代を鑑みて、やれることはすべて盛り込もうという思いが今まで以上に強く感じられる、とはいえそうである。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3 RS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4572×1900×1322mm
ホイールベース:2457mm
車重:1450kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:525PS(386kW)/8500rpm
最大トルク:465N・m(47.4kgf・m)/6300rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20 97Y XL/(後)335/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.4リッター/100km(約7.4km/リッター、WLTPモード)
価格:3134万円/テスト車=--円(※日本国内での販売価格)
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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