三菱アウトランダーP(4WD)/デリカD:5 P(4WD/8AT)/トライトンAXCR試作車(4WD/6MT)
飛べよ! ラリーアート 2022.10.18 試乗記 かつて世界のラリーシーンを席巻した三菱のワークスチーム、ラリーアート。彼らの活動再開を記念して、「アウトランダー」や「デリカD:5」、そして「トライトン」の競技用試作車によるオフロード試乗会が開催された。舞い上がる盛大な土煙は、復活の狼煙(のろし)となるか?ラリーアートの“ラリー復帰”をオフロードで祝う
山梨県南都留郡にあるオフロードコース「富士ヶ嶺オフロード」で、三菱自動車が主催する試乗会が開催された。メニューはアウトランダーPHEVとデリカD:5の試乗、そしてアジアクロスカントリーラリー(AXCR)の試験車となるトライトンの助手席同乗走行だ。いや、助手席だけではない。webCG編集部のほった君もトライトンの後部座席に、勇気を振り絞って滑り込んだ。
今回のイベントが開催された理由は、「チーム三菱ラリーアート」のPR活動の一環だ。ちなみにそのラリーアートは、2021年5月に三菱が復活を宣言。国内では、2022年春におよそ12年ぶりに活動を再開し(参照)、三菱ファンを喜ばせたばかりだ。そしてこの2022年11月21日から26日にかけて、タイとカンボジアで開催されるアジアクロスカントリーラリーで「トライトンT1仕様」(改造クロスカントリー車両)を走らせるという。よって当日は、総監督を務める増岡 浩氏にもお話をうかがった(インタビュー記事は後日あらためて)。
さわやかな秋はどこへやら。気温は10℃を切り、土砂降りとまではいかないがそれなりに雨が降る絶好のダート日和にまず試乗したのは、アウトランダーPHEVだ。ちなみに三菱は、このクルマがデビューしたときにもオートランド千葉でその走りを試させてくれたから(参照)、筆者もおおよその実力はすでにイメージできていた。まずはインストラクターの運転でコースを一周。今回は前半でいきなりたくさんのモーグルをくぐり抜け、ダートコースを走って大きなすり鉢状のくぼ地を駆け下り駆け上り、後半セクションでさらに林道を走るという一周10分弱のコースだ。
正直この程度なら、アプローチアングルが19.7°、デパーチャーアングルが23.3°、最低地上高が200mmあるアウトランダーPHEVなら、あとはコンソール上のドライブセレクターを適宜回していれば、だいたいオッケー。心配ごとがあるとすれば、ノーマルの20インチタイヤ「ブリヂストン・エコピアH/L 422プラス」が、このぬかるみでどこまでグリップするか? ということぐらいだった。
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悪路でも感じられる豊かなインフォメーション
とはいえ、普通に走っては面白くなかろうと、筆者(とほった隊員)はまず「ノーマル」モードで“こぶ”に挑んだ。
モーター駆動が中心となるアウトランダーPHEVの出足は、繊細な右足の操作に忠実で、慎重にアプローチしたモーグルの斜面を斜めになりながら着実に登っていく。過信は禁物だが、ノーマルタイヤでもきちんと登る。しかしポイントはここからで、前後のこぶに対角線上のタイヤを乗せた車体は、お手本どおりに“ぶらーん”となった。
そこからあえてアクセルを踏み込むと、宙に浮いた2輪は空転する。あんまりブンブンやってるとスタックしたと思われるので、すぐさまダイヤルを「マッド」モードに。すると空転するタイヤにブレーキがかかり、グゴゴゴゴ……ッと駆動系を少しきしませたあと、アウトランダーPHEVはサクッと脱出してくれた。このクルマのドライブモードセレクターには、「グラベル」「マッド」「スノー」と3種類の悪路用モードがあるわけだが、速度域が低く高いトラクション性能が求められる今回のようなシチュエーションでは、「グラベル」より「マッド」モードがいい。
ダートコースを走るアウトランダーPHEVのサスペンションは、一般公道を走るときよりむしろ頼もしいと感じた。もしかしたらタイヤの溝を開くために内圧を高めていたのかもしれないが、オフロードのように、荷重がゆっくり、大きくかかるシチュエーションだと、ダンパーがしっかりロールを制御している様子がわかる。デュアルピニオンのステアリングは軽めだが、路面とのコンタクト感は良好。リニアに舵が利くから、デコボコ道でもインフォメーションが豊かで運転しやすい。
バンクが大きくついたカーブでは、内輪側がきちんと縮んで外輪側とバランスをとる。駆動のかけ方も穏やかだ。そして今回のハイライトとなるすり鉢を、インストラクター氏の教えどおりに勢いよく下って登る。さらに“へり”を飛び越えると、腹下も擦らずにぺたん、と丘の上に降り立った。
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「いざというときに頼りになる」というすばらしさ
これまで試す機会のなかった「ヒルディセントコントロール」(HDC)も体験できた。林道コースの坂道を下りる際、ドライブモードセレクターの真ん中にあるボタンをひと押しすると、ブレーキペダルから足を離しても自動でブレーキをかけ続けてくれる。いまやオフロード系のモデルでは、常識となっている装置である。
傾斜角は失念したが、“そこそこ以上”に急な坂道を、アウトランダーPHEVはだいたい5~8km/hの速度で下りていく。アクセルを踏み込んでも車速が約20km/hまではHDCが有効だから、ペダルを離せばすぐに減速してくれるのがうれしい。また、このときマルチアラウンドモニターを活用すると、路面やまわりの状況を確認できるだけでなく、「オレって使いこなしているじゃん」感がとても高くなって気分がいい。ただし車速が約10km/h以上になると解除されてしまうから要注意。
ちなみにこのHDC、バックギアでも使えるそうである。果たしてどんなシチュエーション? と想像したが、例えば凍りついた狭い登坂路などに入ってしまい、バックしなければならないときなどに便利なのだという。この装備、困ったときにかなり役に立つ。だからセレクターのど真ん中、結構目立つところに備え付けているそうである。
というわけで、コース2周のオフロード体験はアッという間に終わってしまった。今回は、会場の山岳セクションをトライトンが爆走(デモラン)していたこともあり、アウトランダーPHEVにとっては朝飯前の難易度といえる、林道や平たん路のコースしか走ることができなかった。正直もっとドキドキしてみたかったが、翻るに、もし自分と家族だけでこうした場面に遭遇したらと想像すると、この何事もなかったようにオフロードをクリアする走りは、やはりすばらしいものなのだ。
泥や雪、低μ路における、モーター式AWDの扱いやすさ。普段はソフトな乗り心地を提供する足まわりが、いざとなれば着実に大地をつかむたくましさ。それでいてガソリン満タン時で、一般家庭における約12日分の電力を供給できるのだ。ここ数年の天災を考えると、冗談抜きにアウトランダーPHEVのロバスト性は魅力的だ。
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スペックには表れないオフロードでの実力
アウトランダーの走りにすっかり満足した筆者。ということで、デリカD:5のステアリングは編集部のほった君に託してみた。一番の特徴はなんといっても、アイポイントの高さだ。助手席からでも視界は良好すぎるほど良好で、鼻息荒くモーグルへチャレンジするほった選手に思わず「あっ、そっちはダメ! コッチだコッチ!」と余計な口出しをしてしまうほどだった。だから間違った道順まで教えるはめになった。(会場の皆さん、その節はゴメンナサイ)
サスペンションはアウトランダーPHEVとはやや異なり、「オンロードでのしなやかさが悪路でも生かされている」と感じられた。全面的なテコ入れがあったとはいえ、数えればそれも4年近く前の話。さすがにオフロードではミシミシ・ギシギシくるだろうと思っていたのだが、われわれシロウトのペースだと、そんな様子はまったくない。ホイールベースはアウトランダーより145mmも長く、おまけに最低地上高は15mmも低い。そんなデリカD:5はしかし、伸びやかなサスペンションで長いボディーをコントロールしながら、ゴリゴリと荒れ地を突き進んでいく。2.3リッターの直噴ディーゼルターボも、うなり声など上げることなく適宜必要なトルクをモリッと出してくれる。ちなみに走行モードは、最初から「4WDロック」が指定されていた。
標準装着タイヤの「ヨコハマ・ジオランダーSUV G055E」が、オンロード寄りなキャラクターの割に優れたグリップ力を発揮してくれたのもよかったのだろう。このぬかるんだコースでデリカD:5は、アウトランダーPHEVと同じかそれ以上に、イージーに走った。それを伝えるとエンジニア氏は「むしろデリカのほうが、こういう条件には強いんですよ」と教えてくれて驚いた。
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“ほぼ市販車”とは思えない圧巻の走り
最後はお待ちかね、トライトンの同乗試乗だ。ドライバーである小出一登氏は「ランサーエボリューション」や「コルト ラリーアート バージョンR」の開発を行っていたシステム実験部の主任であり、増岡監督も「岡崎でも一番の腕利き」と太鼓判を押す人物だ。一方トライトンといえば、三菱のグローバル戦略を担うタイ生産の中型ピックアップトラック。今回デモランを行ったのはAXCR仕様そのものではなく、これに向けた先行試作車とのことだった。
「それじゃあ、行ってみますね」
柔らかなあいさつで始まった同乗走行はしかし、スタートから全開。路面の石や穴ぼこなんて気にする様子もまったくなしに(もちろん確認済みなのだろうが)、小出さんは2.4リッター直列4気筒MIVECターボディーゼルのパワーとトルクを地面にたたきつけていく。エンジンのキャラクターや質感なんて、味わう暇もない。ただただトルキーで、よく走るなぁ! って感じだ。
とはいえ目が慣れてくると、トライトンの素性も感じ取れてくる。感心したのは、バンピーを通り超して「これ岩だよね!?」的なサーフェスを走り抜けても、その足まわりに底づき感があまりなかったこと。またタブルキャブとラダーフレームの接合に一体感があり、まるでモノコックのように思えたことだ。小出さんいわく「ボディーの補強も最小限で、ほぼほぼ市販車なんです」という。これが現役トライトンの実力か。
しかし、それでも小出さんは「ホントはもうちょっと、サスペンションがストロークしてほしいんですよねぇ」と息を切らしながら説明してくれる。「はぁ、これで?」なんて筆者もノンキに答えたわけで、決して舌をかむような硬さではないにもかかわらずだ。つまり競技車両として考えると、この試作車のバネ&ダンパーは固すぎて、AXCR用のアシはもっとしなやかなのだ。ちなみにトライトンの足まわりは、フロントがダブルウイッシュボーン、そしてリアは当然、リーフリジッドである!
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会場とクルマに感じたラリーアートの勢い
ガンガン登り、グイグイ曲がり、ゴリゴリ下る。最後は平地で8の字旋回だ。といっても4WDのドリフトは、カウンターをあてるような走りじゃない。うねりを越えてサスペンションが縮んだときにステアリングをこれでもかと回して、ヨーモーメントが消えないうちに素早くアクセルを入れ車体を回していく。4輪は滑っているのに、旋回しながら前へ前へとクルマは進む。トラクションがガッツリかかって、乗っていても気持ちがいい。
そして最後は――飛んだ!
時間にしてわずか3分ほどの大冒険は、最高のアトラクションだった。新型トライトンはアウトランダーと同じ“X顔”で存在感を高めているし、こういうエキサイティングな体験試乗会をしたら、日本でも売れるんじゃなかろうか? ちなみにトライトンは、実に12年ぶりに国内向けに輸入販売を再開することになっている。
朝も早くから(なんと集合は午前8時15分だった!)駆けつけて、ほんの数周(アウトランダーが2周、デリカD:5が1周、トライトンが2周)の試乗だったけれど、その内容は実に濃かった。活気に満ちあふれた会場の雰囲気からも、今後のラリーアートには期待がもてる。そんな風に実感できた試乗イベントであった。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
三菱アウトランダーP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:133PS(98kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/4300rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
リアモーター最高出力:136PS(100kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 101W M+S/(後)255/45R20 101W M+S(ブリヂストン・エコピアH/L422プラス)
ハイブリッド燃料消費率:16.2km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:83km
充電電力使用時走行距離:85km
交流電力量消費率:239Wh/km(WLTCモード)
価格:548万5700円/テスト車=571万8834円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックダイヤモンド/ディープブロンズメタリック>(13万2000円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器(4万6882円)/フロアマット<7人乗り用>(5万4252円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3255km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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三菱デリカD:5 P 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1795×1875mm
ホイールベース:2850mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.3リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:145PS(107kW)/3500rpm
最大トルク:380N・m(38.7kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98H M+S/(後)225/55R18 98H M+S(ヨコハマ・ジオランダーSUV G055E)
燃費:12.6km/リッター(WLTCモード)
価格:447万5900円/テスト車=518万5026円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトダイヤモンド>(7万7000円) ※以下、販売店オプション DELICA D:5オリジナル10.1型ナビゲーション(30万7912円)/ETC2.0車載器(4万9302円)/フロアマット<吸・遮音機能付き>(9万8978円)/シートカバー(10万0760円)/ドアバイザー(3万3682円)/ドライブレコーダー(4万1492円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:9691km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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三菱トライトンAXCR試験車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5300×1815×--mm
ホイールベース:3000mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:181PS(133kW)(競技用車両参考値)
最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)(競技用車両参考値)
タイヤ:(前)265/70R17(後)265/70R17(ヨコハマ・ジオランダーM/T G003)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
モータージャーナリスト。ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。