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第247回:20年後のフレディ

2022.12.12 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

EVはどれもこれも同じようにイイ

担当サクライ君からメールが来た。

「トヨタの『bZ4X』にお乗りになりますか」

電気自動車(EV)はどれに乗ってもあまり変わらないので、正直、それほど興味はなかったが、「乗る乗る~」と返事をしといたら、いつの間にか当日になった。

サクライ君の乗るbZ4Xは、当然ながら無音で走ってきたらしく、知らぬ間に到着していた。

暗闇の住宅街にたたずむbZ4Xは、いかにも典型的な電気SUVのシルエットで、「日産アリア」や「ボルボXC40リチャージ」「アウディQ4 e-tron」でも、ほとんど見分けがつかない自信がある。目をつぶって運転しても、絶対に見分けがつかない自信もある。自信満々だ。

オレ:どう、bZ4X。
サクライ:いいですよ。今回のコレはFWDモデルですが、よく走ります。
オレ:そうだろうね。EVはどれもいいもんね。
サクライ:どれもいいですね。

どれもいいのはわかっているが、今の日本の充電環境や自分の自家用車利用状況を考えると、どれも魅力はない。それもわかっているが、とにかく走りだして首都高にINし、合流車線でフル加速した。

ヒュウウウウウウウ~~~~~ン。

オレ:速いね。
サクライ:速いです。
オレ:EVはどれも速いね。
サクライ:多少の差はありますが、遅いのはないです。

EVはどれもこれも本当に同じようにイイ。そのことに私は強い不安を抱いている。クルマ趣味が成立しなくなるのではないかと。

トヨタがスバルと共同開発したSUVタイプの新型電気自動車「bZ4X」は、2022年4月に登場。スバル版の「ソルテラ」とは異なり、トヨタ版のbZ4Xはリース販売のみとなる。個人ユーザーにはサブスクリプションサービス「KINTO」を通じて提供される。
トヨタがスバルと共同開発したSUVタイプの新型電気自動車「bZ4X」は、2022年4月に登場。スバル版の「ソルテラ」とは異なり、トヨタ版のbZ4Xはリース販売のみとなる。個人ユーザーにはサブスクリプションサービス「KINTO」を通じて提供される。拡大
“ハンマーヘッド”と呼ばれるフロントデザインや、ホイール周辺のモールなどが特徴的な「bZ4X」のエクステリア。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4690×1860×1650mmで、トヨタのSUV「RAV4」と「ハリアー」のちょうど中間のサイズとなる。
“ハンマーヘッド”と呼ばれるフロントデザインや、ホイール周辺のモールなどが特徴的な「bZ4X」のエクステリア。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4690×1860×1650mmで、トヨタのSUV「RAV4」と「ハリアー」のちょうど中間のサイズとなる。拡大
今回試乗した「bZ4X」はFWDモデル。最高出力204PSのモーターがフロントに1基搭載される。一充電あたりの航続距離(WLTCモード)は559kmで、普通充電および急速充電に対応する。
今回試乗した「bZ4X」はFWDモデル。最高出力204PSのモーターがフロントに1基搭載される。一充電あたりの航続距離(WLTCモード)は559kmで、普通充電および急速充電に対応する。拡大
ステアリングホイールの上部リム越しに見るメーターの配置や、大型のセンターモニターが目を引く「bZ4X」のインストゥルメントパネル。メーターには7インチ、センターのインフォテインメントシステム用には12.3インチサイズの液晶パネルが採用される。
ステアリングホイールの上部リム越しに見るメーターの配置や、大型のセンターモニターが目を引く「bZ4X」のインストゥルメントパネル。メーターには7インチ、センターのインフォテインメントシステム用には12.3インチサイズの液晶パネルが採用される。拡大
トヨタ の中古車

EVはクルマ趣味の対象外

もちろん、どれもこれも完全に同じではない。bZ4Xのコーナリングは、低重心のEVらしく典型的なオンザレールだが、微妙にオーバーステア気味にグイグイ曲がる。

スバリストのマリオ高野は、bZ4Xとスバルブランドの「ソルテラ」とでは、そのあたりが違う(ソルテラのほうが安定志向)と言っていた。ソルテラには乗ったことないが、きっとそうなんだろう。しかし、その違いがどれくらい意味を持つかは微妙だ。

オレ:トヨタのEVには、日本人として大いに期待してるんだけど、現状、よそとほとんど同じだね。
サクライ:ですね。
オレ:トヨタは真っ先に全固体電池を実用化して、EV界をちゃぶ台返しする! って勝手に信じてたけど、まだまだぜんぜん無理そうだし。
サクライ:そのようですね。
オレ:こういう横並びのEVをちょこっと売ってお茶を濁してて、大丈夫なのかなぁ。トヨタがコケたら日本がコケるんだから。
サクライ:コケないことを祈ります。

トヨタEVの大躍進を祈りつつ、bZ4Xで首都高を流していると、レインボーブリッジ手前で軽EV「日産サクラ」を発見した。うおおおおサクラだ! 夜の首都高をサクラが走ってる! スゲー! カワイイ! しかもドライバーは女性! ステキだ! うれしいネ! 車内は称賛の声に包まれた。

が、辰巳PAに到着すると、そこはピュアICE車オンリーの世界。ギトギトの「ランボルギーニ・アヴェンタドール」やリアウイングで武装した「トヨタ・スープラ」軍団など、選ばれしガソリンエンジンのエリートたちしかいない。もちろん、誰ひとりbZ4Xに注目する者はいない。EVはまだ、クルマ趣味の対象外なのだ。

「bZ4X」のコーナリングは、低重心のEVらしく典型的なオンザレール感覚にあふれているが、ステアリングフィールはとてもクイックで、オーバーステア気味にグイグイ曲がる。
「bZ4X」のコーナリングは、低重心のEVらしく典型的なオンザレール感覚にあふれているが、ステアリングフィールはとてもクイックで、オーバーステア気味にグイグイ曲がる。拡大
左側フロントフェンダーに急速充電用の給電口が設置されている。90kWの充電器を利用した場合、40分間で約80%まで充電できるという。
左側フロントフェンダーに急速充電用の給電口が設置されている。90kWの充電器を利用した場合、40分間で約80%まで充電できるという。拡大
「bZ4X」で首都高を流していると、レインボーブリッジ手前で軽EV「日産サクラ」を発見! 首都高で見るサクラはかわいい。ドライバーは女性だった。
「bZ4X」で首都高を流していると、レインボーブリッジ手前で軽EV「日産サクラ」を発見! 首都高で見るサクラはかわいい。ドライバーは女性だった。拡大
試乗当日の辰巳PAには「ランボルギーニ・アヴェンタドール」やリアウイングで武装した「トヨタ・スープラ」、「マツダRX-7」など選ばれしガソリンエンジンのエリートたちが集結していた。
試乗当日の辰巳PAには「ランボルギーニ・アヴェンタドール」やリアウイングで武装した「トヨタ・スープラ」、「マツダRX-7」など選ばれしガソリンエンジンのエリートたちが集結していた。拡大

日本の未来はトヨタにまかせた!

帰路、 bZ4Xの助手席で、ふとある思いが湧いた。
オレ:いまはまだ、まわりはエンジン車ばっかりだけど、これが近い将来、EVばっかりになるんだろうね。
サクライ:それ、いつでしょう。
オレ:2040年くらいかな?
サクライ:ですかね。
オレ:そういう状況で、アヴェンタドールとかチューンドスープラを見かけたら、きっとものすごく興奮するだろうね。「うおおおお、すげぇのがいるよ!」って。
サクライ:大スターでしょうね。

20年後(くらい)の首都高では、ガソリンエンジン車というだけでスター。ガソリンエンジンのスポーツカーはスーパースターになっているはずだ。EVだらけの首都高で、わがスッポン丸のキダスペシャルをさく裂させれば、周囲のEVたちは、フレディ・マーキュリーを見るような目で見つめてくれるに違いない。だといいな。

オレ:でも、その頃オレ、80歳だわ! 
サクライ:僕も78歳です。

われわれ中高年は、20年後のことは忘れて、取りあえず今を生きよう! んで未来はトヨタにまかせよう! がんばれトヨタ! 全固体電池でちゃぶ台返ししてください!

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)

最新のEVはどれもいい。速いし重心が低く走行も安定している。しかし、どのクルマに乗っても印象はほとんど同じで、見分けがつかない自信がある。
最新のEVはどれもいい。速いし重心が低く走行も安定している。しかし、どのクルマに乗っても印象はほとんど同じで、見分けがつかない自信がある。拡大
大きなリアウイングや大径ホイールなどでカスタマイズされた「RX-7」や「スープラ」が並んだ辰巳PA。これらのチューンドカーは、アジア系とおぼしき若い外国人がドライブしていた。
大きなリアウイングや大径ホイールなどでカスタマイズされた「RX-7」や「スープラ」が並んだ辰巳PA。これらのチューンドカーは、アジア系とおぼしき若い外国人がドライブしていた。拡大
「bZ4X」のプラットフォームは、トヨタがスバルと共同開発したEV専用の「e-TNGA」と呼ばれるもの。駆動方式はFWDまたは4WDが選べ、車重は前者が1920kgで後者が2010kg。
「bZ4X」のプラットフォームは、トヨタがスバルと共同開発したEV専用の「e-TNGA」と呼ばれるもの。駆動方式はFWDまたは4WDが選べ、車重は前者が1920kgで後者が2010kg。拡大
試乗後の自宅前。われわれ中高年は20年後のことは忘れて、取りあえず今を生きよう! という刹那的な結論に達した。
試乗後の自宅前。われわれ中高年は20年後のことは忘れて、取りあえず今を生きよう! という刹那的な結論に達した。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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