ホンダZR-V e:HEV Z(4WD)
頼れるホンダイズム 2023.02.08 試乗記 「ホンダZR-V」の4WD性能を試すべく冬の山形へ。取材陣を出迎えたのは列島直撃の大寒波がもたらした一面の銀世界である。前方視界の確保すら怪しい絶好のテスト環境で、ホンダが機械式4WDにこだわる理由を考えてみた。四駆なしでは商売にならない
世界の成熟市場で主流となりつつある選択肢といえばSUV。流行(はや)り物というだけでなく、乗り降りや積み下ろしもしやすく、視点も高めで見通しが利き扱いやすい。そういう日常的な利便を理由に選ばれる機会も多いのではないだろうか。
と、そういう理由であればなにも四駆でなくてもいい。というわけで、軽便廉価さが求められるCセグメント以下のSUVでは二駆すなわちFFが選ばれることが多い。欧米ではハルデックス(現ボルグワーナー)のような外部サプライヤーからシステム供給を受けたり、後軸側にeアクスルを置いてハイブリッド四駆化に踏み込んだりしながら、局所的なニーズに対応している。
比べれば日本は、四駆技術がメーカー間での競争領域として認識されているのだろう。サイズやコストの制約のなか、Cセグメント以下級でも各社が趣向を凝らした駆動システムを構築している。南北にも長く気温や湿度の変化幅が大きい、雪や氷の質ひとつとっても多岐にわたる日本の環境下でスタッドレスタイヤが特殊な発達を果たしたように、後輪が回ってさえいればいいといった生活四駆的なところから、付加価値を高めて対価に応えるものへと進化を続けてきた。
また、日本車にとって最大市場である北米での需要の高まりも、それに力を入れる一因となっていることは間違いない。スノーベルトのみならず東海岸側でも四駆なしでは商売にならないという環境の変化に乗じて、その性能が購入動機となる機会も増えている。スバルの成長はその典型ともいえるだろう。
よもやの大寒波
そんななか、ホンダが「リアルタイムAWD」を発表したのは2011年のこと。SUV的なモデルの販売が伸びるなか、90年代からの「デュアルポンプ式4WD」では性能的不利が目立つようになってきたところで、4代目「CR-V」のフルモデルチェンジを機に全面的に刷新された。そして5代目のCR-Vでは初めてハイブリッドと組み合わせられるとともに、フィードフォワード制御を取り入れ後軸側の応答レスポンスを向上。その技術を源流に、現在のe:HEV+リアルタイムAWDが構築されている。
リアルタイムAWDは制御系が常にアップデートされており、ZR-Vに搭載されるそれは、2021年に登場した新型「ヴェゼル」に対しても、後軸側の駆動力やレスポンスを一層向上させている。今回の試乗は雪深い山形の蔵王かいわいを舞台に、そのパフォーマンスを自然環境下で引き出すのが主な目的だ。
……と思いきや、試乗当日は何十年に一度と気象庁も興奮を隠せないほどの大寒波が日本列島を直撃。山形新幹線は早々に運休を決めるなど、東北の本気組の皆さんもさすがに身構えるほどの大雪となってしまった。おあつらえといえばそうなのだが、市街から山中へと向かう道はところどころ路肩の標(しるべ)も見失いそうになるほどのホワイトアウト状態で、東京でぬくぬくとやらせてもらってる身には遭難を心配するほどの悪環境だった。
機械式にこだわるホンダ
そんななか、四駆の駆動状況を示すインジケーターも参考にしながら走っていて実感したのは、やはりリアルタイムAWDの後軸側の機動力の高さだ。オンデマンドで50%を継続的に、瞬時には最大70%ほどの駆動力を後軸側に回すことのできるメカニカルシステムは、ロジック自体はコンベンショナルなものだが、これをeアクスルで置き換えようという話になればサイズが荷室に干渉するうえ、冷却系も液冷化が求められるなど、重量もコストも大がかりなものになる。物理的にエンジンとつながる構造のほうが結果的にコンパクトで性能を継続的に維持できる。ホンダが機械式四駆にこだわる理由はそこにあるわけだ。
が、eアクスルには駆動制御の緻密さでトラクションを稼ぎ出すという機械式にはまねできない長所があるのも確かだ。ホンダはそこを制御のアルゴリズムで徹底的にカバーしながら、同時にシャシー側でも路面にしっかり4輪のトレッド面を接地させるなど、クルマづくりの基本を愚直に追い求めたという。e:HEV自体は「THS」や「e-POWER」にも比肩する先進的なハイブリッドパワートレインだが、それ以外のところは至ってアナログ的ともいえるだろうか。
そこで思い浮かぶのが、現行のFL型「シビック」だ。ZR-Vとアーキテクチャーを共有するそれは、1.5リッターターボ+CVTのマッチングのよさや、e:HEVのスポーティーさもさることながら、乗り心地もハンドリングもスタビリティーも……と、シャシーのダイナミックレンジの広さがひときわ印象深い仕上がりとなっている。
上質か快活か
ZR-Vがその長所を引き継いでいることはオンロードの試乗で確認していたが、冬季の厳しい環境で目が荒れた路面に雪まで乗った状態に出くわすと、凹凸にしっかり追従して無駄なバタつきを起こさないバネ下の追従性や、発進時のアクセル、停止時のブレーキの操作に対する穏やかな応答性など、クルマ自体の出来のよさが低ミュー路でのドライブを安心安楽なものにしてくれている。
リアルタイムAWDの後軸駆動配分に加えて、前輪にごくごく軽いブレーキを当てて旋回をアシストする「アジャイルハンドリングアシスト」との連携効果もあってか、ZR-Vは滑りやすい雪道のカーブでも想像以上に深いところまでオンザレールの旋回を維持していく。そこからいよいよ膨らみそうになった際の挙動変化も穏やかなら、ブレーキを踏めばVSAが賢く制動配分してスピン状態を防いでくれるなど、限界が高い割には危機に陥りにくい安心のセッティングだ。
個人的には「スポーツ」モードを任意で選択しているときには、より後軸側を積極的に使ってオーバーステア状態へのきっかけをつくりやすくしてもいいかなとも思ったが、ニュートラルを磨いて極める今のホンダのクルマづくりからいえば、それは邪道だろう。そんなことを考えてしまうのは、シビック譲りの最新世代のe:HEVが気持ちよく応答してくれるパワートレインに仕上がっているがゆえの欲なのかもしれない。
あるいはよりアグレッシブなスノードライブが楽しみたいのであれば、軽快さが際立つ1.5リッター4気筒ターボの4WDを選ぶという手もある。上質か快活か、両グレードの動的なキャラクターが意外と明快に分かれているところも、ZR-Vを選ぶうえでの悩ましさでもあり面白さでもある。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダZR-V e:HEV Z
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1840×1620mm
ホイールベース:2655mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500pm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ヨコハマ・アドバンdB V552)
燃費:21.5km/リッター(WLTCモード)
価格:411万9500円/テスト車=429万9900円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムクリスタルガーネットメタリック>(6万0500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(5万2800円)/ドライブレコーダー<前後車内3カメラセット>(6万7100円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2189km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。