スバル・ソルテラET-HS(4WD)
ここからが本番だ 2023.03.03 試乗記 日本の2メーカーが共同開発した電気自動車(BEV)「トヨタbZ4X」と「スバル・ソルテラ」。ライバルが出そろってきたところで、この“和製BEV”の仕上がりをあらためてチェック。その美点と弱点からは、メーカーのBEV戦略が抱えるややっこしい事情が垣間見られた。出ばなをくじいた発売直後のリコール
トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラと聞けば、日本発売直後のリコールがメディアに大きく取り上げられたこともあり、ハード的に生煮え的なイメージを抱いている方は多いのではないだろうか。実際、リコールの対策内容が発表されるまでには3カ月以上の時間がかかり、国交省の届出受理後にはトヨタの技術トップがメディア向けに説明機会を設けるなど、その手当てにはかなり慎重に臨んでいたようにうかがえた。
原因は、ホイールとディスクの合わせ面の精度に個体差が生じ、ハブボルトの緩みが生じる可能性があるというもので、ハブボルトの仕様とホイールの加工の両方を見直すことで解消できたという。全世界のリコール台数は両銘柄合わせて約2700台。日本のそれは、恐らく大半が試乗車等だっただろう200台に満たない数に収まったため、全数把握も容易でタイヤ脱落等の実害も出ていない。
とはいえ、だ。欧・中を軸に急進するBEV化への流れのなかで、その波に乗り遅れていると大小マスコミに散々言われてきた日本の、トヨタとスバルが共同開発した肝いりの専用設計BEVに出落ちのようなミソがついたわけで、これは彼らのさらなる日本たたきの、かっこうの材料とされても仕方がない。
さらに、リコールを終えて本格的に出回り始めたこの両車は、メーターにSOC(State Of Charge=バッテリーの充電率)が表示されないことや実電費の悪さ、急速充電の受け入れ制限のキツさなどが指摘されている(参照)。いずれもドライブ中の不安要素軽減やバッテリーの品質安定といった安心・信頼にまつわる利を鑑みての設定だったことは想像がつくが、一部アーリーな方々は、ここぞとばかりにネットで声を上げている。
そんな逆風のなか、「同級のライバルも出そろい始めたことだし、今年は仕切り直し」という思いも強いだろうbZ4X&ソルテラの長所や短所をあらためて確認しようと借り出したのは、スバル・ソルテラの側。上位グレードの「ET-HS」で駆動方式は4WD(そもそもET-HSは4WDのみの設定だ)。価格は682万円となる。
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走りは上々、インテリアは要改善
bZ4Xとソルテラを比較すると、4WD同士では駆動制御やダンパーチューニング、ドライブモード設定など、性能面で微妙に仕様差がある。以前、両モデルを同様の環境で乗り比べる機会があった際には、bZ4Xよりもソルテラのほうがより“高負荷対応の仕様”という印象だった。端的に言えば、快適性ならbZ4X、ドライビングプレジャーならソルテラという感じだ。
でも、今回のソルテラの試乗では、個体が距離を刻んでこなれていたこともあってか、シティーユースでも乗り心地に粗さを感じる場面はほとんどなかった。バネ下に遊びのないスキッとした転がり感は、リコールの副産物というわけではないだろうが、この間に上陸した「ヒョンデ・アイオニック5」や「BYD ATTO 3」あたりのライバルと比べても動的質感は一枚上手で、細かな凹凸や路面のザラ目もきれいに丸めている。高架のジョイントなどでは時折硬めの突き上げも入るが、履いているタイヤのサイズを鑑みれば許容範囲だろう。
またソルテラの異様なトラクション能力は雪道の試乗でも体験済みだが(参照)、ドライのワインディングロードを走っても、そのロードホールディング能力には舌を巻く。つづら折りの切り返しなどでは高い車体剛性に負けない足まわりの路面追従性の高さを実感させ、低重心がもたらす旋回時の安定した挙動に加え、加減速時の姿勢づくりも自然……と、駆動バランスが安定の側にもしっかり配慮されているのが伝わってくる。このあたりの味つけは、四駆技術を磨いてきたスバルの素養が生きるところだろう。総じてシャシー側のパフォーマンスは、「フォルクスワーゲンID.4」や「日産アリア」といったライバルを向こうにしても、まったく動じないところにある。
と、かように動的なところが煮詰められているぶん、余計に気になるのが静的なところ、すなわち内装の華のなさだ。センターコンソールをブリッジ型としてダッシュボードにファブリックを貼り込んでと、各部の仕立てには工夫がみられるが、いかんせん色味も素材も素っ気なさすぎるし、質感の面で中・韓の2モデルに及ばないところもある。
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ウワサされる今後の改善内容
しかし、そうしたあれこれを差し置いて、この取材で印象に残ったのは電費だ。こちらは同条件で厳密に比べたわけではないが、実感値として、ひと回りは車格が上のモデルと比べても大差ないものだった。エコランもせず暖房も21℃設定と至って普通に走ったとはいえ、高速移動での電費が5km/kWhを切るのでは「メルセデス・ベンツEQS」や「BMW i7」といった巨艦と同程度という具合である。ロングドライブでは当然のこと充電の回数が増えるが、高出力の急速充電器に出会える機会が少ない現状を思えば、ストレスなく行動できる範囲は、日帰りなら片道250km程度。東京起点で言えば静岡・浜松くらいまでという感じだろうか。
もちろん、それだけ走れれば十分という冷静な意見もあろう。レジャーもさておきビジネスならなおのこと、新幹線のような交通機関を使う人のほうが多いと思う。ただしそれは、公的インフラの発達した日本的な尺度の話だ。仕向け地によっては、自家用車において連続的な長距離走行の性能がより強く望まれることもある。もちろん、そんな向きは「ゴルフ」のディーゼルにでも乗るほうがよほど目的にかなっているわけだが、特性的な得手不得手を無視して、なんでも普通にできることを求める“声の大きい人たち”が、話をややこしくしているのも確かだ。
bZ4X&ソルテラに共通する電費と充電速度の課題は、ひとえに「10年後に90%の性能維持を実現する」という(保証は8年/16万km)駆動用バッテリーが、他銘柄に比べてかなり過保護に扱われていることに端を発している。もちろん、その過保護には劣化だけでなく万一の事故に対しても何重もの保険をかけるという意味合いもあるはずだ。しかし、恐らく市場からの声を受けてだろう、“充電規制”の緩和や電池残量の%表示などを検討しているという話は、トヨタの関係者からも耳にしている。バッテリーマネジメントシステムに関わるアップデートゆえ、OTA(Over The Air=無線通信)を用いるか否かはわからないが、恐らくすべてのモデルに適用されるだろう。
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待ち受ける困難を乗り越えるために
bZ4X&ソルテラは、専用アーキテクチャーでありながら既存の生産ラインとの親和性を重視した設計で、その狙いは見えない需要の上下動を柔軟に吸収しながらコストを抑えるというものだったはずだ。が、他銘柄に対する価格優位性は高くはない。強烈な円安でありながら、輸入BEVに水を開けられている感もある。BMWなどは居抜き系でコストだけでなく基本性能もうまく仕上げてくるなあと感心するが、そもそも彼らは、そこにたどり着くために早々に高い授業料を支払っていた(参照)。
こうした現状を受けてか、トヨタが新しいBEV専用アーキテクチャーの開発に着手しているという一部報道もある。いわゆるスケートボード型と目されるそれを効率よく生産するためには、設計側も大胆な変革が求められるし、生産設備や工程の大改修も必須となる。先の新経営体制発表の際に佐藤恒治次期社長は、中期ビジョンとして2026年に次世代のBEVをレクサスから投入する予定だと説明したが、ここに件(くだん)のスケートボードアーキテクチャーが関わってくるとすれば時系列はつじつまが合う。というよりも、今今の時流を鑑みれば、もっと早くなければならないかもしれない。
個人的にはクルマのパワートレイン戦略については100%トヨタの意向に同意している。「一様ではないさまざまな事情に向けては、さまざまな解決手段を用意する」というのは、子供でもわかるスジ論だ。が、外的要因によってスジがねじ曲げられ、スジとしてまかり通らない。そんな話は経済活動においても往々にしてあり得ることも確かだ。
この理不尽な波をbZ4Xとソルテラが乗り越えていくには、走りがうんぬんとは異なるところをブラッシュアップしていかなければならないように思う。それゆえ、ソフトウエア側がかなり幅を利かせることになるはずだ。果たして今後、このクルマがどのように化けていくのか。それはBEVの可能性を示すひとつの見本となるのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバル・ソルテラET-HS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:109PS(80kW)/4535-1万2500rpm
フロントモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)/0-4535rpm
リアモーター最高出力:109PS(80kW)/4535-1万2500rpm
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)/0-4535rpm
システム最高出力:218PS(160kW)
システム最大トルク:337N・m(34.4kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 100Q M+S/(後)235/50R20 100Q M+S(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)
一充電走行距離:487km(WLTCモード)
交流電力量消費率:148Wh/km(WLTCモード)
価格:682万円/テスト車=704万円
オプション装備:ルーフレール+パノラマムーンルーフ<電動ロールサンシェード付き>(22万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3793km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:293.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.3km/kWh(車載電費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。