第47回:どうなの!? スバルのデザイン美学(前編) ―技術オリエンテッドなカーデザインの魅力と弊害―
2024.11.20 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
技術的な個性が強すぎて、あまりデザインという切り口では語られてこなかったスバル。なかには「スバルのファンにデザインにこだわる者はいない!」と自虐するオーナーもいるようだが(笑)、その実はどうなのか? 識者とともに“スバルのデザイン”を考えた。
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スバル車のデザインは“合目的性”が高い
webCGほった(以下、ほった):今回はスバル特集でございます。なにやら「すわ新型『フォレスター』日本お披露目か!?」なんてウワサも流れていますし(参照)、この辺で、いっちょう取り上げてみたいなと。
清水草一(以下、清水):『webCG』ではなぜか、スバル車の記事がすごく読まれるっていうからねぇ。
ほった:今回もヨダレが止まりませんよ。
渕野健太郎(以下、渕野):単刀直入にお伺いしますが、皆さんはスバルのデザインについて、どういう風に感じてます?
ほった:そうですねぇ。SNSとかで悪口を言う人が結構いますけど、ワタシは正直、カッコ悪いって感じたことはないんですよね。実際ダサいと思ってたら、実家のクルマに2台連続でスバル車を推したりしませんよ(参照)。
清水:もうずいぶん昔だよね。スバル車がカッコ悪かったのって。
ほった:(うなずきつつ)確かに、いつも渕野さんがおっしゃるような「フォルムが~」とか「タイヤとのバランスが~」という部分では、FRベースだったり、FFベースでもエンジン横置きのクルマのほうがいいのかもしれないですけど、「じゃ、実際にこのクルマってどういう人がどう使うんだろう?」っていうイメージの部分を考えると……。
これは元webCGデスクの竹下元太郎さんの受け売りなんですけど、昔、小林彰太郎さんはクルマを評価する際に、「合目的性」っていう指標を立てていたそうです。私が思うに、もしカーデザインにも合目的性っていうのがあるとしたら、スバル車はそれがすごく高いんじゃないかな。どのクルマもデザインと実用シーンが、カチっとはまってると思うんですよね。例えば「アウトバック」って、これ見た瞬間、どういう人がどういう目的で買うかとか、これを買ったらどんなカーライフが広がるんだろう? ってのが、一発で伝わってくるじゃないですか。そういうデザインが、スバルはすごくうまい。
渕野:自分もそういう感じはします。キャラクターがわかりやすいっていうか。
ファンの心をつかむタフネスとアウトドアテイスト
渕野:清水さんはどうですか?
清水:うーん。もともと技術優先の会社なので、デザインは二の次というのがフィロソフィーなのかなとは思ってました。スバリストのマリオ高野は、「スバリストにデザインにこだわる者は1人もいません!」みたいなことを言ってましたし(笑)。少なくともスバリストは、デザインじゃなく技術に惚(ほ)れてることは確かでしょう。
渕野:ユーザーもある程度そういう感じで見てるってことですかね。スバルに期待することとして。
清水:でも、今スバル車を買ってる人たちに関しては、もう全然そんなことないんじゃないかな。まるで意識が変わってると思います。
ほった:「アイサイト」とか衝突安全の技術とかは、一般の人にもがっつり訴求しているみたいだけど、水平対向や4WDなんかは……。むしろライフスタイルとの親和性とか、漠然としたカッコいいイメージとかで買ってるんじゃないかな? 「これ、たくましくてイイわぁ」とか、「アウトドアシーンにハマるクルマが欲しいな」って感じで。
渕野:やはりそうでしょうね。今タブレットに出してるのはアウトバックで、その下がフォレスター、さらにその下が「クロストレック」です。この3台が、今のスバルの屋台骨なんですよ。北米でも、販売台数はこの3台でだいぶ占められてる。さらに向こうだと、3列シートSUVの「アセント」っていうのもあるんですよ。日本には来ていないけど。一昔前はスバルというと、走り系のイメージが強かったですが、最近はアウトドアユースのモデルが柱なんですね。
ラインナップを俯瞰(ふかん)すると、まずそのアウトドアユースの大・中・小の3台がいて、もう少しロード寄りのところに「インプレッサ」と「レヴォーグ」がいる。で、そのレヴォーグから発生したのが「レヴォーグ レイバック」で、あとは「WRX」、加えて「ソルテラ」と「BRZ」……。今はこういう商品構成です。
清水:WRXの6MTモデルが日本で販売されてないのは、スバリストにとって大変な痛手ですよねぇ……。
ほった:デザインと関係ない話はご遠慮ください(笑)。
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好対照なスバルとマツダ
渕野:今回はスバルがテーマということだったんで、ちょっとマツダとの差異について考えてみたんです。先ほど清水さんもおっしゃってましたけど、スバルってやっぱり技術オリエンテッドなところがありますよね。それに対して、同じような規模感で同じようにクルマ好きから支持されているマツダは、デザインオリエンテッド(参照:その1、その2)。実際の開発がどういう手順かはわかりかねるんだけど、この2社はすごくキャラクターが分かれていて、すごくいいなと思ってるんですよ。
で、スバルの技術オリエンテッドな点をひとつ挙げると、乗ると視界がすごく広いんです。
ほった:いや、それはマジで取材のたびに感じますね。
渕野:前もそうだし、横もそうだし、振り向いたらDピラー付近の視界もそうなんです。ホント、スバルは視界にすごくこだわったメーカーなんだと思います。もちろん開放的で気持ちがいいってだけじゃなくて、死角をできるだけ減らして、安全性を高める意味合いがあるんですよね。これがまさに、技術オリエンテッドのひとつの表れかなと思います。
清水:個人的に唯一買ったスバル車が「SVX」なんですが、あれも視界はよかったかも。
渕野:で、そういう基本的な成り立ちがデザインにどう影響するかというと、例えばサイドビューで見たときのキャビンとロワボディーの比率を見てください。これは「スバル・フォレスター」と「マツダCX-5」の比較なんですけど、マツダはボディーがすっごく強くて、キャビンをコンパクトに見せている。欧州メーカーのクルマでもよく見る手法ですね。それに対してスバルはというと、だいぶキャビンが大きい。同じカテゴリーの車種で比べると、スバルは断然キャビンがでかいんです。
で、普通に考えると、キャビンを小さくしてボディーを大きく見せたほうがいいプロポーションになるんですけど、それだけが正解じゃないのかなと思うわけです。視界の広さとかの機能性に魅力を感じてるユーザーも確かにいて、販売で見ても、みんながみんなCX-5に流れてるわけではない。
ほった:確かにそうですね。
渕野:同じカテゴリーに「トヨタRAV4」もありますけど、それと比べたって、やっぱりスバルのほうがキャビンがでかくて、顔は低いんですよ。
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もうちょっと大きいタイヤが欲しくなる
渕野:ただ、ひとつ注文をつけるとすると……タイヤがね。スバルはどのクルマもタイヤがちっちゃいんです。造形的な部分もあるんですけど、もうちょっとだけタイヤを大きくしてもらうと、すごくよくなると思うんですが。
清水:それは、タイヤハウスのクリアランスを大きくとるから?
渕野:理由はいろいろありますよ。でも、例えばアウトバックはタイヤの外径はそこそこ大きいですし、他のモデルでも、やってやれないことではないと思うんですよね。新型フォレスターを見ても、おそらくだけどタイヤ径は現行型と変わってないんじゃないかな?
ほった:下位・中位グレードのタイヤサイズは一緒ですね。上級グレードには19インチのタイヤ&ホイールセットが付くみたいですが。
渕野:(資料を見つつ)上級グレードのタイヤサイズが235/50R19だから、現行の18インチ仕様より外径は12mm大きい感じですね(705.2mm→717.6mm)。それでも、RAV4の235/55R19(741.6mm)とかと比べたら、まだまだちっちゃい。
清水:でもまぁ、大きなタイヤは交換時のお値段も高くなるし(笑)、最小回転半径もデカくなるし、カッコより実用性を重視してるって気がしますけど。
渕野:ならばせめて、もうちょっとタイヤを大きく見せる工夫があってもいいかなとは思います。このほかに「もうちょっとこうだったらいいのになぁ」と思うのは……スバル車って、ちょっと箱っぽすぎるような感じはしません? 例えばレヴォーグですけど、フロントもリアも結構幅広く見せてるでしょう。ワイド感重視で。
清水:確かにラウンドは少ないですね。
渕野:そう。ワイド感をすごく強調したいから、オーバーハング部のコーナーの絞り込みが少ないんですよ。スバル車はどれもそうなんですが、それによってオーバーハングが前も後ろも重たく感じられて、いっそうタイヤが小さく見えてしまう。
清水:でも、そこがレヴォーグのいいところじゃないですか? 箱っぽいほうがうれしいですよ、個人的には直線基調が好きなので。実直なイメージもするし。どことなく昭和っぽいカッコよさで心が和みます(笑)。
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やっぱりオシャレは足もとから
ほった:でも確かに、あの万能グランドツアラーっぷりからしたら「ちょっと違うかも?」って気はしてきますね。
渕野:レヴォーグはどちらかというと走り重視のクルマですけど、リアクオーターから見ると、やっぱりタイヤよりもボディーが強く見えたりすると思うんですよ。これも、真後ろから見たときのワイド感をすごく重視してるのと……あとはリアゲートの開口幅ですね。スバルはこれを広くとっている。フォレスターなんか、もうボディーめいっぱいです(笑)。スバルらしく機能重視ってことで、荷室開口幅をものすごく重視してる。
清水:最初に、設計からそういう要件がいっているんですかね。デザイン部門に。
渕野:会社によって違うと思うんですけど、スバルはそういう感じなのかな(笑)。もちろん、ただカッコいいものをつくるだけだと実用性が犠牲になっちゃうんで、そこはしっかり守りつつ、もう少しだけ、もうちょっとだけね(笑)。例えばリアオーバーハング自体を軽くできたらいいなとか、そういうところがあるんですよね。
清水:でも、それをやったらスバル車に見えなくなるかも。
渕野:そうかもしれないですけどね。こういう要件みたいなものがあるからこそのスバル車かなっていう気も、確かにします。でも、タイヤにしてももうちょっとだけしっかり見せると、だいぶ印象が変わるんじゃないのかな。
ほった:自動車デザインのキモはタイヤですからねぇ。
清水:実際、クルマってタイヤ外すと超カッコ悪いからね、歯抜けジジイみたいで。
ほった:そもそもそれだと、走れませんから(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スバル、マツダ、トヨタ、ボルボ、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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