レクサスRX500h“Fスポーツ パフォーマンス”(4WD/6AT)【試乗記】
初心忘るべからず 2023.03.20 試乗記 20年以上にわたって低燃費競争をリードしてきたトヨタのハイブリッドだが、「レクサスRX500h“Fスポーツ パフォーマンス”」では、目指すところが少々違う。ターボと電気の力を組み合わせたパワートレインは、ひたすら走りの楽しさを追求しているところが新しい。ダウンサイジングしながら出力アップ
ラグジュアリーSUVのパイオニアとしてレクサスの屋台骨を支える存在に成長したRX。さりとて、現在も部品調達等の混乱が続いており、日本市場においては最も売れ筋となりそうな「RX350h」が未設定だ。レクサスのウェブサイトで工場出荷に関する情報を見ても、SUV系のほぼすべてが日数的メドが立たない表現になっている。出ばなをくじかれたこの状況は、買い手にとっても売り手にとっても不幸でしかない。
そんなわけで現状、ハイブリッドのRXといえば、2.5リッタープラグインハイブリッドの「RX450h+」と、「RX350」に採用される2.4リッターターボユニットを軸としたハイブリッド(HEV)RX500hの2つとなる。グレード的にはRX450h+は最もラグジュアリー寄りな“バージョンL”、そしてRX500hは「IS500」と同様、パワートレインの独自性をもって“Fスポーツ”のさらに上位に位置づけられる“Fスポーツ パフォーマンス”という扱いだ。価格的にも両車の差は30万円以下と、買う側にしてみれば惑わされる要素も多い。
RX500hは前型の「450h」、つまり3.5リッターユニットを軸としたHEVの代替的なポジションだ。ターボによって排気量的にはダウンサイジングを果たしながら、システム出力的には371PSと前型を60PS近く上回る。お察しのとおり、「クラウン クロスオーバー」の「RS」グレードに搭載される「デュアルブーストハイブリッド」と基本的な構成は同じながら、エンジンもモーターもアウトプットはよりパワフルにチューニングされており、当然ながらマネジメントも別物だ。
プレミアム感がさらにアップ
レクサスが「DIRECT4」と銘打つその4輪駆動制御は100:0~20:80の前後トルク配分を軸に、走行状況に応じて40:60~60:40を加速時のトラクション強化や姿勢制御などにも積極的に用いている。後軸側のeアクスル=モーターは大パワーを継続的に使えるように液冷化されており、メカニカルな接続点を持たずともフルタイム4WDと同等の機能性を備えている。
この先の電動化ストラテジーを見据えて提唱された「スピンドルボディー」をフュージョンした顔まわりも新鮮ながら、RXで感心するのは象徴的なウィンドウグラフィックとルーフラインとを巧みに合わせ込むことで、全体のフォルムが「NX」にも増してスポーティーに仕上がっていることだ。一方でバックドアトリムの薄型化など細かな工夫も手伝って荷室容量は前型比で1割以上大きい612リッターを確保。前後席間もわずかながら広くなっている。
全幅が1900mmの大台を超えたこともあって日常の使い勝手は後退した感もあるが、そのぶんプレミアム感はさらに増していて、同じく屋台骨を支えているNXとの質感的差異は明確に見てとれる。このあたりのすみ分けやつくり分けは難しいところながら、そのさじ加減の絶妙さこそが今日のトヨタの隆盛の礎だ。ちなみにRX500hについては最大4度の逆位相角を持つ後輪操舵システムが搭載されていることもあって、最小回転半径は5.5mと他グレードよりひと回り小さく、NXと比べてもコンパクトに収まっている。
良くも悪くも直結的なパワートレイン
動的な質感の差異もまたしかりだ。基本的にRXの乗り味はハイスピードレンジのダイナミクスよりも日常域での上質感に主眼を置いていて、それはNXとキャラクターを違えるうえでのポイントにもなっている。レクサスに限らず昨今のトヨタ系銘柄は、とかく高負荷域での走りのよさが際立つものが多いが、時にそれが銘柄に対するユーザーの期待値と乖離(かいり)している状況を生み出しているのではないかと思わされることがある。その点、新しいRXは走りに極端な気負いがなく、滑らかさやしなやかさといった、いにしえからのレクサスらしいキーワードがきちんと立っている。
最強スペック+“Fスポーツ パフォーマンス”にしてもその本筋は変わらない。AVS(可変ダンパー)の効果やタイヤの縦バネ感の丸さも手伝って、低速域からの乗り心地はRX450h+ほどではないにせよ適度に穏やかだ。
RX500hのトランスミッションはクラッチを介して駆動を制御するトルコンレスの6段AT。これは電動パワートレインの効率的開発を目的とするデンソーとアイシンの合弁会社、ブルーネクサスが供給するもので、組み合わせるエンジンによって従来の4~5リッター級のパフォーマンスを引き出すとともに、「THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)」では表現できない直結的な駆動力を引き出すことを狙いとしている。
が、そのマネジメントは完全に洗練されているわけではない。RX500hでは停止寸前からの再加速や巡航からの急加速といった、いかにもクラッチ制御の苦手なところで、時折ドライなフィードバックが現れる。DCTなどに比べてことさら粗いというほどではないが、レクサス的なクオリティーという点においては、つぶしておきたいアラでもある。
確かに感じるスポーティネス
加えて、内燃機側の音・振動も一段の洗練を望みたいところだ。現世代のダイナミックフォース系4気筒は高速燃焼特有のノイズや爆発パルスの硬さが強めに立つ傾向がある。RXへの搭載にあたっては細心の注意が払われたのだろう、同じ「T24A-FTS」を搭載するクラウン クロスオーバーに対して車内の音・振動は確実に洗練されているものの、それでも時折濁音系の音が耳につくのがなんとももったいない。
と、そこまでして得られたパフォーマンスは、確かに並のSUVとは一線を画するスポーティネスが感じられる。ワインディングロードを駆ければ後ろからの蹴り出しが確実にダイナミクスに寄与していることが伝わってくるだろう。それでもクラウン クロスオーバーより一歩退いて丸くまとめた敏しょう性も、銘柄の質や格といったところにうまく親和させていると思う。が、そういう走り方をすれば、燃費は単なるターボ四駆のお戯れと変わらぬ結果となるのは痛しかゆしだ。
クラウン クロスオーバーRSを通してこのハイブリッドシステムの強烈な雪上性能を体験したこともあって、RX500hのパフォーマンスには以前ほど疑問を感じなくなっているのも確かだ。個人的にはRX450h+を推すが、なかにはこういうグレードがあってもいいかなとも思う。でもHEVに関して、走りの魅力を高めるために燃費を割り切るという姿勢が時折ながらうかがえるのはちょっといただけない。確かにトヨタとしてはHEVの低燃費化はもうやり尽くしの感があるかもしれないけれども、こういうところで雑な切り捨てが露呈しては本末転倒だ。今時分のトヨタとしては、こと効率について、ライバルに揚げ足を取られるような状況はあってはならないと思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRX500h“Fスポーツ パフォーマンス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4890×1920×1700mm
ホイールベース:2850mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:275PS(202kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:87PS(64kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:103PS(76kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:371PS(273kW)
タイヤ:(前)235/50R21 101W/(後)235/50R21 101W(ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUV)
燃費:14.4km/リッター(WLTCモード)
価格:900万円/テスト車=948万8400円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円)/ルーフレール<“Fスポーツ パフォーマンス”専用ブラック塗装>(3万3000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(27万9400円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2216km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:369.9km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。