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第255回:合成燃料でカーマニアの未来はどうなる?

2023.04.03 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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10倍でも買います!

2023年3月下旬、カーマニア界に激震が走った。2035年までにエンジン車の新車販売禁止を目指してきたEUが、二酸化炭素の排出が実質ゼロとされる合成燃料の使用を条件に、エンジン車の販売継続を認めることで合意したのである!

「やったーザマーミロ!」
「EV一択信者どもの顔が見たいゼ!」

カーマニア界では、快哉(かいさい)を叫ぶ人々の歓声が飛び交ったが、この決定は、われわれカーマニアのカーライフに、どのような影響を与えるのか? それを考えてみたい。

EUは、現段階ではまだ合成燃料についての詳細な規定を公表していないが、基本的には水の電気分解等で生成したグリーンな水素に、ためておいたCO2を混ぜて(?)炭化水素類にしたもので、ガソリンやら軽油やら重油やらジェット燃料(灯油)の代替品になる。

以前からポルシェは、「911」愛好者のため、南米チリで風力発電の電力を使って合成燃料を生産すると表明していたが、その流れがEUで認められたわけですね。

現状、合成燃料のコストは、ガソリンの数倍から10倍くらいといわれているが、911だけでなく、フェラーリやランボルギーニや「マスタング・マッハ1」とかの愛好者は、それくらいの価格でも喜んで買うだろう。

なにしろそんなに距離を乗るクルマじゃないので、あんまりたくさんはいらない。ガソリンが血よりも貴重な映画『マッドマックス』の世界になっても、手に入れようとするはずだ。私だって10倍でも買いますヨ!

2035年までにエンジン車の新車販売禁止を目指してきたEUが、合成燃料の使用を条件に、エンジン車の販売継続を認めることで合意! やったぜ、ザマーミロだ!
2035年までにエンジン車の新車販売禁止を目指してきたEUが、合成燃料の使用を条件に、エンジン車の販売継続を認めることで合意! やったぜ、ザマーミロだ!拡大
ポルシェは2022年から、チリのHIF(Highly Innovative Fuels)社とその国際パートナーらとともに、合成燃料「eフューエル」の生産を行っている。
ポルシェは2022年から、チリのHIF(Highly Innovative Fuels)社とその国際パートナーらとともに、合成燃料「eフューエル」の生産を行っている。拡大
チリに建設された「eフューエル」の製造プラント。正式名称は「Haru Oni eFuel pilot plant」で、Haru Oniは“強風”を意味するという。風力エネルギーを使って水とCO2から合成燃料を製造するため、エンジン車にこの合成燃料を使用するとCO2排出量が実質ゼロとなるロジックだ。
チリに建設された「eフューエル」の製造プラント。正式名称は「Haru Oni eFuel pilot plant」で、Haru Oniは“強風”を意味するという。風力エネルギーを使って水とCO2から合成燃料を製造するため、エンジン車にこの合成燃料を使用するとCO2排出量が実質ゼロとなるロジックだ。拡大
1979年公開の映画『マッドマックス』では、ガソリンが血よりも貴重な近未来の荒廃した世界が描き出された。ガソリンスタンドが減っていく未来は、そんな感じなのだろうか?
1979年公開の映画『マッドマックス』では、ガソリンが血よりも貴重な近未来の荒廃した世界が描き出された。ガソリンスタンドが減っていく未来は、そんな感じなのだろうか?拡大
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さく裂させられればそれでいい

今回、EV化の急先鋒(せんぽう)だったEUが合成燃料を認めたことで、合成燃料は世界公認となったも同然。今後は研究開発が急進展し、コストダウンも進むだろう。

とにもかくにも、合成燃料があれば、内燃エンジン車を愛するカーマニアは生き残れるのだから、これが朗報でなくてなんだろう!

実は、この決定がなくても、日本の中高年カーマニアたちは、一生趣味の内燃エンジン車を楽しめることがほぼ確定していた。

日本はEUと違って、2035年以降に禁止されるのは純内燃エンジン車のみで、ハイブリッド車はOKだ。ハイブリッド車があれば、ガソリンの販売も継続される。現在手持ちの内燃エンジン車は、2050年のカーボンニュートラル期限まで乗れるはず! それまであと27年もある! その頃には確実にヨボヨボになっているので、逃げ切り勝利は間違いなかったのである。

懸念は、2050年に向けて、ガソリンスタンドが絶滅に向かいそうなことだった。ガソリンスタンドがゼロになると、給油は極めて困難になるが、合成燃料が登場すれば、多少は残るだろう。ファミコン専門店みたいに。

つまり、元気があれば100歳まで内燃エンジン車に乗れる(たぶん)! バンザーイ!

再生可能エネルギー資源に恵まれない日本で合成燃料をつくると、だいぶコスト高になるので、海外でつくったものを輸入するかたちになると思いますが、どこ製だろうとカーマニアには関係ない。さく裂させられればそれでいいです!

ただ、合成燃料がOKになれば、EV化の流れが止まるかといえば、そうはなるまい。

テスラは専用の急速充電ステーション「テスラ・スーパーチャージャー」を自前で整備・展開している。コネクターを差し込むだけで充電が始まるというシンプルさは、ほとんどスマホ。実用車はこうでないと。
テスラは専用の急速充電ステーション「テスラ・スーパーチャージャー」を自前で整備・展開している。コネクターを差し込むだけで充電が始まるというシンプルさは、ほとんどスマホ。実用車はこうでないと。拡大
合成燃料は既存の内燃エンジン車にも使用できるといわれ、エンジン車を愛するカーマニアも生き残れる。ハイブリッドじゃない初代「NSX」だって、死ぬまでその走りを楽しめるようになるはず。懸念はガソリンスタンドの数が減り続けていることか。
合成燃料は既存の内燃エンジン車にも使用できるといわれ、エンジン車を愛するカーマニアも生き残れる。ハイブリッドじゃない初代「NSX」だって、死ぬまでその走りを楽しめるようになるはず。懸念はガソリンスタンドの数が減り続けていることか。拡大
2023年3月29日(現地時間)に発表されたランボルギーニの新型フラッグシップスーパースポーツ「レヴエルト」。ドアは従来どおりの跳ね上げ式で、V12エンジンをベースとする最高出力1015PSのプラグインハイブリッドユニットをリアミドに搭載する。PHEVなので、日本においては2050年まで乗れるはず。
2023年3月29日(現地時間)に発表されたランボルギーニの新型フラッグシップスーパースポーツ「レヴエルト」。ドアは従来どおりの跳ね上げ式で、V12エンジンをベースとする最高出力1015PSのプラグインハイブリッドユニットをリアミドに搭載する。PHEVなので、日本においては2050年まで乗れるはず。拡大
元気があれば100歳まで内燃エンジン車に乗れる(たぶん)! “黒まむしスッポン丸”こと1989年モデルの「フェラーリ328GTS」にもまだまだ乗りたい。(写真=池之平昌信)
元気があれば100歳まで内燃エンジン車に乗れる(たぶん)! “黒まむしスッポン丸”こと1989年モデルの「フェラーリ328GTS」にもまだまだ乗りたい。(写真=池之平昌信)拡大

実用車はEVでまったく問題ナシ

現状日本では、火力発電が7割超なので、EVとハイブリッド車のCO2総排出量は同じくらいといわれているが、再生可能エネルギー資源に恵まれた地域(欧・米・中国など)では、EVのほうが圧倒的に有利だ。合成燃料は、CO2排出量は実質ゼロだけど、電気をそのまま使うEVのほうが、エネルギー効率は数倍高い(つまりコストが安い)。

結局、それぞれの国の政策次第なんだけど、少なくともEUと中国は、EV化を強力に推進し続けることが確定的だ。

EVの進歩イコール、バッテリーの進歩。バッテリー技術の進歩ぶりは、すでにわれわれ日本のカーマニアの想像を超えている。何年先になるかはわからないが、そう遠くない将来、EVは内燃エンジン車よりもトータルコストが安くなり、充電も、ガソリンの給油と大差ない時間で可能になるだろうと思うようになりました。

それを可能にするスーパー急速充電器の設置も、国の政策次第だが、欧・米・中ではすでに、すごい勢いで進めている。

つまり、一般ユーザーは、いずれ雪崩を打ってEVに流れる。

私はカーマニアだが、別にEVが嫌いというわけではない。日産の「デイズ」と「サクラ」、どっちの乗り味が好きかと問われれば、断然サクラだ。充電の手間さえラクになれば、実用車はEVでまったく問題ナシ! むしろ歓迎です!

ただ、現在所有している「フェラーリ328GTS」や、抽選販売に参戦予定の「レクサスIS500」にも、たまのゼイタクとして乗りたいなぁと思っている。

とにもかくにも、EUが合成燃料を認めたことで、今後も自動車の多様性は維持される。やっぱりこれは大朗報ですね!

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

5代目「トヨタ・プリウス」にもプラグインハイブリッドモデルがラインナップしている。車両本体価格は460万円。日本はEUと違って、2035年以降に禁止されるのは純内燃エンジン車のみで、ハイブリッド車はOKだ。
5代目「トヨタ・プリウス」にもプラグインハイブリッドモデルがラインナップしている。車両本体価格は460万円。日本はEUと違って、2035年以降に禁止されるのは純内燃エンジン車のみで、ハイブリッド車はOKだ。拡大
日産の軽で、エンジン車「デイズ」とEV「サクラ」(写真)のどっちの乗り味が好きかと問われれば、断然サクラだ。充電の手間さえラクになれば、実用車はEVでまったく問題ナシ! 充電も、いずれガソリンの給油と大差ない時間で可能になるだろうと期待している。
日産の軽で、エンジン車「デイズ」とEV「サクラ」(写真)のどっちの乗り味が好きかと問われれば、断然サクラだ。充電の手間さえラクになれば、実用車はEVでまったく問題ナシ! 充電も、いずれガソリンの給油と大差ない時間で可能になるだろうと期待している。拡大
「レクサスIS500」を購入しようと心に決め、いずれくるであろう3回目の抽選販売に参戦する予定。フェラーリの正規ディーラー様なら、「まずは一般販売モデルを数台お買いになり、実績を積んでください」と言われるところだが、レクサス様の公平無私に期待するのみ。
「レクサスIS500」を購入しようと心に決め、いずれくるであろう3回目の抽選販売に参戦する予定。フェラーリの正規ディーラー様なら、「まずは一般販売モデルを数台お買いになり、実績を積んでください」と言われるところだが、レクサス様の公平無私に期待するのみ。拡大
EUが合成燃料を認めたことで、今後も自動車の多様性は維持される。やっぱりこれは大朗報! カーマニアは大勝利である。(写真=池之平昌信)
EUが合成燃料を認めたことで、今後も自動車の多様性は維持される。やっぱりこれは大朗報! カーマニアは大勝利である。(写真=池之平昌信)拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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