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トヨタ・プリウスZ(FF/CVT)

パイオニアの宿命 2023.04.04 試乗記 高平 高輝 これまでの4世代とはひと味違う魅力で人気を集め、中興の祖のようになりつつある5代目「トヨタ・プリウス」。2リッターエンジンをベースとした新しいパワートレインや室内装備などの使い勝手をリポートする。
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まだまだ譲らない

No.1ヒットを何度も飛ばし、ハリウッド進出も果たしたうえにデビュー25周年を超えても第一線で活躍しているなんて、エンタメ界なら異論の余地もない大御所だよなあ、と妙な連想をしてしまった。もう印税だけで悠々自適のはずなのに、なお大変身を迫られるのだから、自動車という商品を、しかも稼ぐ商品をつくり続けるのはつくづく難しいものだと思う。その名のとおり、他に先駆けて世界初の市販ハイブリッド専用モデルとして登場したプリウスがトヨタの代名詞となったのだから、先見の明があったのはもちろん(初代および2代目の初期は芳しい売れ行きではなかった)、大英断だったと言える。それを一気にタクシー専用車にするわけにはいかないだろう。

一時の勢いを失っているとはいえ(3代目は国内だけで年間30万台を超えたこともあった)、それでもまずまずのセールスを記録していた。2020年はざっと7万台、2021年は5万台、2022年は4万台弱で国内ランキングのベスト20にはほぼ常に入っていた。そもそもハイブリッドの民主化を進め、モデルラインナップを拡大して当たり前の存在にしたのはほかならぬトヨタ自身である。もちろん他のメーカーも追随するし、今やほとんどすべての車種にハイブリッドがあるというほど当たり前になってしまえば、いわゆる“ユニコーン”ではなくなり、その独自性が薄れて埋没してしまうのはこれまた当然である。それでもなお、売れ続けなければならないのだから何とも難儀な話である。

世界初の市販ハイブリッド車として1997年にデビューした「トヨタ・プリウス」。新型は5代目となる。
世界初の市販ハイブリッド車として1997年にデビューした「トヨタ・プリウス」。新型は5代目となる。拡大
横からの眺めは見事なまでのウエッジシェイプ。ボンネットとAピラーが一直線につながるところなどはスーパースポーツカーのようだ。
横からの眺めは見事なまでのウエッジシェイプ。ボンネットとAピラーが一直線につながるところなどはスーパースポーツカーのようだ。拡大
トヨタのエンブレムは小さなスポイラーの下に隠すようにしてレイアウトされている。それと比べると「PRIUS」ロゴはだいぶ大きい。
トヨタのエンブレムは小さなスポイラーの下に隠すようにしてレイアウトされている。それと比べると「PRIUS」ロゴはだいぶ大きい。拡大
ハイブリッド車であることを示すエンブレムも一新。表記も「Hybrid Synergy Drive」から「HEV」へとシンプルになった。
ハイブリッド車であることを示すエンブレムも一新。表記も「Hybrid Synergy Drive」から「HEV」へとシンプルになった。拡大
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スポーツカー顔負け

従来型を改良しながらも踏襲したプラットフォームにもかかわらず、ここまでやれるのか! と驚愕(きょうがく)するのがそのボディースタイルである。5代目プリウスは先代よりもわずかに大きくなったが(ホイールベースは+50mm、全高は40mm低くなった)、ささいな数値よりも雄弁なのはボンネットから一直線につながるAピラーと大径だが細い19インチタイヤなどによる、スタイリッシュな4ドアクーペにしか見えない姿形である。煩雑なラインが行き交っていた先代とは似ても似つかない滑らかなモノフォルムへ、誰がどう見ても大胆な変身だ。

エアロダイナミクスも改善されているはずと想像するところだが、実際にはCd値は先代の0.24から0.27へ低下しているというから一筋縄ではいかない(ちなみに初代プリウスは0.30)。見た目のカッコよさと実際の数値はなかなか両立しないのだ。歴代プリウスは機能第一(もちろん燃費)に徹したちょっと変わったスタイルも特徴だったのだが、それを思い切ってクールなカッコよさを優先したというわけである。とはいえ、前面投影面積を加味した実際の空気抵抗は、低い車高と細いタイヤの効果もあって先代と遜色ないといわれている。

「GA-C」プラットフォームは第2世代に進化。新たな結合技術の採用や構造の見直しによって剛性がアップしている。特にフロントの横曲げ剛性は15%向上しているという。
「GA-C」プラットフォームは第2世代に進化。新たな結合技術の採用や構造の見直しによって剛性がアップしている。特にフロントの横曲げ剛性は15%向上しているという。拡大
タイヤは大径かつ細身な195/50R19サイズが標準装備される。
タイヤは大径かつ細身な195/50R19サイズが標準装備される。拡大
C字型のデイタイムランニングライトがフロントまわりを印象づける。ウインカーもC字型。
C字型のデイタイムランニングライトがフロントまわりを印象づける。ウインカーもC字型。拡大

もうおとなしいハイブリッドではない

既にご存じのように3月には「PHEV」モデルも追加発売されたが、主力のハイブリッド(第5世代に進化)には従来どおりの1.8リッターと新しい2リッターモデルが設定されている。ただし、1.8リッターの「U」はサブスクリプションサービスのKINTO専用、同じく「X」は法人向けの営業車という位置づけであり(一般カタログにも掲載されていない)、一般人が普通に購入できるのは2リッターハイブリッドの「Z」と「G」グレードのみ(それぞれにFWDと4WDあり)というからちょっとモヤモヤが残る。

最上級グレードとなるZに積まれる2リッター4気筒エンジンはいわゆるダイナミックフォースシリーズのM20A-FXS型で、エンジン単体では152PS/6000rpmと188N・m/4400-5200rpmを発生。113PSと206N・mを生み出すフロントモーターと合わせたシステム最高出力は196PSと、先代1.8リッターの122PSに比べて格段にパワーアップしている。0-100km/h加速も7.5秒というから、もはやその辺のスポーツハッチ顔負けの俊足である(システム最高出力140PSの1.8リッターハイブリッドでも9.3秒という)。先代モデルの0-100km/h加速は実測で11秒ぐらいだったから、まさしく一足飛びの進歩である。燃費はいいけれど、まあおとなしいハイブリッドというこれまでの認識を改めなければいけない。実際の路上でもプリウスとは思えないほど身軽である。とりわけ、駆動モーターの高出力化によって、中間加速時にスロットルペダルを深く踏み込まなくても、必要な加速を得られる“余裕たっぷり”感がありがたい。当然エンジン始動の頻度も減るし、高速道路の合流などでもストレスを感じることはなくなった。

新世代TNGAプラットフォームをいち早く採用した先代モデルのハンドリングや乗り心地も良い意味で“普通”だったが、新型はさらに煮詰められたようで、かつてのプリウス独特の癖を意識することなく、まったく自然に走れる。ステアリングフィールやブレーキタッチについても違和感はなく、どこか特別に突出している部分はないものの気を遣わずに操作できる。実用車としては水準以上の出来栄えだろう。

2リッターエンジンと駆動用モーターを合わせたシステム出力は先代モデル比で約1.6倍の196PSに到達。
2リッターエンジンと駆動用モーターを合わせたシステム出力は先代モデル比で約1.6倍の196PSに到達。拡大
ダッシュボード全体を大きなオーバルに見立てた「アイランドアーキテクチャー」を採用。12.3インチのタッチスクリーンはオプションで、スタンダードは8インチ。
ダッシュボード全体を大きなオーバルに見立てた「アイランドアーキテクチャー」を採用。12.3インチのタッチスクリーンはオプションで、スタンダードは8インチ。拡大
「Z」のシート表皮は合成皮革。肩口の赤いアクセントがスポーティーだ。
「Z」のシート表皮は合成皮革。肩口の赤いアクセントがスポーティーだ。拡大
ルーフが後ろ下がりのなかで高さを稼ぐため、後席の着座位置はかなり低い。
ルーフが後ろ下がりのなかで高さを稼ぐため、後席の着座位置はかなり低い。拡大

クーペと見るかセダンと見るか

もっとも、低くなった全高と思い切って寝かされたAピラーから想像できるように、前後席ともに乗り降りにはそれなりに気を遣わなければならない。これだけでタクシー用途には不向きなことが分かる。前後シートともに足元まわりには余裕があるが、リアシートの頭上と横方向はぎりぎりといったところで、低く座らされてルーミーではないことにも留意すべきだ。ミニバンやSUVのアップライトでルーミーな後席に慣れた家族からは不満が出るかもしれない。「bZ4X」と似たようなトップマウントメーターを備えるインストゥルメントパネルは、簡潔だがもう少しエクステリアと同等のチャレンジが欲しかったと思う。ステアリングホイールの上から見る7インチメーターは実質面積が意外に小さく、表示項目がチマチマとして見にくい。トヨタ車は表示ロジックやグラフィックを考え直すべきだと思う。

また荷室容量はZで410リッターと先代よりもはっきりと小さくなっている。195/50R19という特殊なサイズのタイヤも合わせて(2リッター車に標準、ただし195/60R17サイズも減額オプションで設定あり)、実用車としての使い勝手は最優先項目ではないことに注意すべきである。かつてのようにハイブリッドだからという我慢や遠慮は要らないし、もちろん燃費も依然として優秀だが(Z・FWDでWLTCモード28.6km/リッター)、今やそれが誰もかなわない決め球ではない。とすれば、やはり形にほれて買うのが新型プリウスだろうか。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

液晶式のメーターパネルは7インチ。大きさに対して各項目の表示サイズが小さいため、黒い部分が目立ってしまっている。
液晶式のメーターパネルは7インチ。大きさに対して各項目の表示サイズが小さいため、黒い部分が目立ってしまっている。拡大
新型からアクセルペダルがオルガン式に変わった。パーキングブレーキも足踏み式からスイッチ操作による電動式に改められた。
新型からアクセルペダルがオルガン式に変わった。パーキングブレーキも足踏み式からスイッチ操作による電動式に改められた。拡大
荷室の容量は410リッター。右の壁面には12Vの補器用バッテリーが積まれるため横幅は意外に狭い。
荷室の容量は410リッター。右の壁面には12Vの補器用バッテリーが積まれるため横幅は意外に狭い。拡大
フロントシートにはヒーターとベンチレーションが標準装備だ。
フロントシートにはヒーターとベンチレーションが標準装備だ。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・プリウスZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152PS(112kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター最高出力:113PS(83kW)
モーター最大トルク:206N・m(21.0kgf・m)
システム最高出力:196PS(144kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
燃費:28.6km/リッター(WLTCモード)
価格:370万円/テスト車:409万9300円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドII>(5万5000円)/パノラマルーフ<手動サンシェード付き>(13万2000円)/ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー&デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能&周辺車両接近時サポート<録画機能>&ドライブレコーダー<前後>(8万9100円)/コネクティッドナビ対応ディスプレイオーディオPlus<車載ナビ、FM多重VICS、12.3インチHDディスプレイ、AM/FMチューナー、フルセグテレビ、USBタイプC、スマートフォン連携、マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング、BlueTooth対応>(6万1600円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1520km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:448.1km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタ・プリウスZ
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