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第748回:F1でもルマンでも大活躍! アルピーヌが実践する“レースを長く続ける秘訣”

2023.06.14 エディターから一言 堀田 剛資
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ルマン24時間レースに合わせて公開された「アルピーヌA424_β」。WECに投入されるハイパーカーのプロトタイプである。
ルマン24時間レースに合わせて公開された「アルピーヌA424_β」。WECに投入されるハイパーカーのプロトタイプである。拡大

アルピーヌが、世界耐久選手権(WEC)のトップカテゴリーへの復帰を表明! F1とルマン・ハイパーカーという、四輪レースの“2つの最高峰”に臨む彼らの狙いとは? しぶとく挑戦し続けるアルピーヌの取り組みから、モータースポーツを長く続ける秘訣(ひけつ)を探った。

◆画像・写真:「アルピーヌA424_β」をより詳しい写真で見る(47枚)

アルピーヌは2021年、2022年とハイパーカークラスにノンハイブリッドの「LMP1」車両で参戦。1年のブランクを挟み、WECのトップカテゴリーに復帰することとなる。
アルピーヌは2021年、2022年とハイパーカークラスにノンハイブリッドの「LMP1」車両で参戦。1年のブランクを挟み、WECのトップカテゴリーに復帰することとなる。拡大
ハイパーカークラスへの参戦は控えた2023年のアルピーヌだが、WECでの活動を休止したわけではなく、今年もLMP2クラスに挑戦している。なお、同クラスは2023年を最後に消滅する予定だ。
ハイパーカークラスへの参戦は控えた2023年のアルピーヌだが、WECでの活動を休止したわけではなく、今年もLMP2クラスに挑戦している。なお、同クラスは2023年を最後に消滅する予定だ。拡大
F1世界選手権でも活躍するアルピーヌ。フォーミュラと耐久レースの両方において最高峰のカテゴリーに挑戦しているのは、彼らを除けばフェラーリだけである。(写真:アルピーヌ)
F1世界選手権でも活躍するアルピーヌ。フォーミュラと耐久レースの両方において最高峰のカテゴリーに挑戦しているのは、彼らを除けばフェラーリだけである。(写真:アルピーヌ)拡大
ファンに厚く支持されるアルピーヌだが、歴史的には1995年に一度消滅。復活を果たしたのは2016年のことで、まだ7年とたっていない。
ファンに厚く支持されるアルピーヌだが、歴史的には1995年に一度消滅。復活を果たしたのは2016年のことで、まだ7年とたっていない。拡大

実はアルピーヌとフェラーリだけ

競技的には大変な物議を醸したものの、取りあえずは盛況に終わった100周年のルマン24時間レース。それに合わせて各自動車メーカー/ブランドは、新しいモータースポーツへの参戦表明やコンセプトモデルのお披露目などをにぎにぎしく行い、サルトサーキットのかいわいは大いに盛り上がった。

アルピーヌもそのひとつで、決勝前日の2023年6月9日に、来シーズン(2024年)よりWECのトップカテゴリーであるハイパーカークラスに参戦すると表明。参戦車両のプロトタイプ「A424_β」を公開した。アルピーヌは、旧規定のマシン(LMP1)の出走も認められていた2021年・2022年にも同クラスに参戦しており、中1年の準備期間を挟んで、WECの最高峰に復帰することとなる。

……とまぁ、事実だけを記すと簡素なものだが、彼らのやっていることは、実はかなりのオオゴトなのだ。モータースポーツのファンならご存じのとおり、アルピーヌは今、四輪レースの最高峰とされるF1世界選手権にも参戦している。そして2023年現在、F1とWECハイパーカーの両方で戦っているメーカーは「いや、うちらレースのためにクルマ売ってますんで」というフェラーリだけだ。フォーミュラと耐久、2つのレースのトップカテゴリーに同時に臨むというのは、それほど稀有(けう)な挑戦なのである。

「A110」の成功で確かな一歩を踏み出したとはいえ、現状における製品ラインナップはその1車種のみ。新生アルピーヌは、スポーツカーブランドとしてはまだまだこれからの存在だ。そんな彼らが、なぜこのような挑戦を続けるのか。アルピーヌはWECのどこに魅力を感じているのだろうか。

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ビジネスに密接に絡んだレース活動

WECのハイパーカークラスを戦う車両には、シャシーからマシンのすべてを自製する「ルマン・ハイパーカー(以下、LMH)」と、シャシーを4つのサプライヤーからの供給に絞るなど、さまざまな制約を課してコストを抑えた「ルマン・デイトナh」(以下、LMDh)の2種類が存在する。LMDhの導入はハイパーカークラスの参入障壁を低くするための施策で、実際にポルシェやキャデラックなど、多くのメーカーを引き込むことに成功した。

アルピーヌが選択したのもこのLMDhなのだが、詳しい人ならご存じのとおり、実はこの車両、アメリカのIMSAウェザーテックスポーツカー選手権(IWSC)の最高峰クラスでも使われているもの。要するにLMDhのマシンがあれば、WECだけでなくIWSCにもそのまま参戦できるのだ(LMHでもIWSCへの参戦は可能だが、性能調整が必要となる)。


他の競技に目をやっても、F1ではマイアミGPでアメリカの巨大カーディーラー、オートネーションをスポンサーに迎えており、また米コロラド州で開催されるパイクスピーク・ヒルクライムにもA110で参戦するとしている。方々でアルピーヌのローラン・ロッシCEOやルノーのルカ・デメオCEOが語っているとおり、アルピーヌは将来的な北米進出を強く望んでいる。LMDhによるWECのトップカテゴリーへの復帰を含め、モータースポーツにおけるこれらの取り組みは、いずれも世界最大のスポーツカーマーケットにおける認知向上の布石なのだ。

もちろん、現状ではかの地でスタンダードといえる大型のスポーツカーをアルピーヌは持っていないし、また過去のルノーの戦略説明会で示された次世代ラインナップのなかにも、そうしたモデルは見当たらない(参照)。彼らの本格的なアメリカ進出は、まだ先の目標なのだ。思い起こせば、アルピーヌというブランド自体、計画の表明から実質的な復活&第1弾モデル(=A110)の発売までに、約10年もの時間を要している。スポーツカーのブランドビジネスとは、かくも遠大で気の長いお仕事なのである。

「LMDh」では車両の開発が厳しく規制されており、例えばシャシーはオレカ、ダラーラ、リジェ、マルチマティックのいずれかのものを使用し、ボッシュ製のモーターとウィリアムズのバッテリー、Xtracのギアボックスを組み合わせた標準規格のハイブリッドシステムを搭載することが義務づけられている。写真は今回のルマンで2位、3位、17位に入った「Cadillac V-Series.R」。(写真:ゼネラルモーターズ)
「LMDh」では車両の開発が厳しく規制されており、例えばシャシーはオレカ、ダラーラ、リジェ、マルチマティックのいずれかのものを使用し、ボッシュ製のモーターとウィリアムズのバッテリー、Xtracのギアボックスを組み合わせた標準規格のハイブリッドシステムを搭載することが義務づけられている。写真は今回のルマンで2位、3位、17位に入った「Cadillac V-Series.R」。(写真:ゼネラルモーターズ)拡大
2023年シーズンのWECにはポルシェやキャデラックが「LMDh」で参戦。2024年からは本稿のアルピーヌに加え、BMWやランボルギーニも参戦を表明している。
2023年シーズンのWECにはポルシェやキャデラックが「LMDh」で参戦。2024年からは本稿のアルピーヌに加え、BMWやランボルギーニも参戦を表明している。拡大
オートネーションは米フロリダ州フォートローダーデールに本社を構える自動車小売会社で、インディーカーシリーズでもエリオ・カストロネベスなど著名なドライバーをサポートしている。
オートネーションは米フロリダ州フォートローダーデールに本社を構える自動車小売会社で、インディーカーシリーズでもエリオ・カストロネベスなど著名なドライバーをサポートしている。拡大
パイクスピーク・ヒルクライムは、1916年から続くアメリカ伝統のヒルクライム競技で、標高差約1500m、全長約20kmのコースを一気に駆け抜け、タイムを競うというものだ。アルピーヌは、ド派手な空力パーツと500PS級のエンジンを備えた「A110パイクスピーク」での参戦を予定している。
パイクスピーク・ヒルクライムは、1916年から続くアメリカ伝統のヒルクライム競技で、標高差約1500m、全長約20kmのコースを一気に駆け抜け、タイムを競うというものだ。アルピーヌは、ド派手な空力パーツと500PS級のエンジンを備えた「A110パイクスピーク」での参戦を予定している。拡大

未来を見据えた水素レーシングカーの開発

もうひとつ、アルピーヌにはルマン24時間レースの未来と絡む注目すべき取り組みがある。

先日、富士SUPER TEC24時間レース(2023年5月26日~28日)の開催に合わせて、ルマンを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長が来日。2026年よりルマンに水素自動車によるカテゴリーを設け、燃料電池車、水素エンジン車が走れるようにすると発表した。また、今回のルマン24時間レースのプレスカンファレンスでは、トヨタの豊田章男会長が同カテゴリーへの参戦を表明。レースカーのコンセプトモデル「GR H2レーシングコンセプト」を披露している。

ここで思い出されるのが、2022年10月のパリモーターショーでアルピーヌが突然発表した、水素レーシングカーのコンセプトモデル「アルペングロー」だ。サルトサーキットのイベント会場には、過去の水素レースカーや上述のトヨタのコンセプトモデルとともにアルペングローも展示されていたわけで、こんなに分かりやすいアピールもないものだった。

一応、アルピーヌレーシングのフランソワ・シャンポ ビークルダイレクターに水素カーの可能性を聞いてみたところ、「具体的な話はできないけれど、今も開発は進んでいますよ。アルピーヌは本気で、水素を将来のモータースポーツにおける“あり得る手段”だと考えています。本日の発表を見て、皆さんも頭の中で、いろいろとマッチングしたんじゃないですか?(笑)」と回答された。

ACOが水素カーによるレースの構想を明らかにしたのは、2018年。アルピーヌがどのタイミングで「うちらもやるか」となったのかは知らないが、さすがに昨日今日の話ではないだろう。先述したブランドビジネスへの活用もそうだが、永続的なモータースポーツ活動のためには、長くて広い視野が必要というか……平易に言うと「やっぱり、いろいろ考えなきゃダメなんだなあ」と感心した次第である。F1をやったり辞めたり、MotoGPをやったり辞めたりしている日本メーカーの皆さま、どうぞご参考までに(笑)。

2022年10月のパリモーターショーで世界初公開された「アルペングロー」。アルピーヌは製品のEV化を推し進めており、当時は「なぜ唐突に水素カーを?」と首を傾げたものだが……。
2022年10月のパリモーターショーで世界初公開された「アルペングロー」。アルピーヌは製品のEV化を推し進めており、当時は「なぜ唐突に水素カーを?」と首を傾げたものだが……。拡大
ルマン24時間レースの会場にて、水素技術の展示エリア「VILLAGE HYDROGENE」に展示された「GR H2レーシングコンセプト」(手前)と「アルペングロー」(奥)。2026年には、両モデルがグリッドで顔をそろえることになる?
ルマン24時間レースの会場にて、水素技術の展示エリア「VILLAGE HYDROGENE」に展示された「GR H2レーシングコンセプト」(手前)と「アルペングロー」(奥)。2026年には、両モデルがグリッドで顔をそろえることになる?拡大
アルピーヌレーシングのフランソワ・シャンポ ビークルダイレクター。多少はごまかすかと思っていたが、「水素カーは開発してますよ」とアッサリ答えられた。
アルピーヌレーシングのフランソワ・シャンポ ビークルダイレクター。多少はごまかすかと思っていたが、「水素カーは開発してますよ」とアッサリ答えられた。拡大
会場にて、来場者の目を楽しませる「アルペングロー」。そのデザインは、今回発表された「A424_β」にも反映されている。
会場にて、来場者の目を楽しませる「アルペングロー」。そのデザインは、今回発表された「A424_β」にも反映されている。拡大

チームのオペレーションとマシンの信頼性で勝負

最後に、なぜかやたらとアルピーヌ好きが多いwebCG読者の皆さまへ(笑)、来季のWEC/ルマンにおける彼らの“見どころ”をお届けしたい。

先述のとおり、LMDhはなにかと制約の厳しい車両であり、空力やパワートレインなどでライバルと差をつけるのは難しい。……というか、レギュレーション的にそれはほぼ不可能で、仮に差がついてもBoP(Balance of Performance)でつぶされるルールとなっている。それでも、レースとなれば各車・各チームで明確な差がつくのは、今回のルマンを見てもわかるとおりだ。

そうしたなかにあって、アルピーヌはどう戦うのか? ライバルに対するアドバンテージはどこか? と問うたところ、アルピーヌレーシングのブルーノ・ファミン エグゼクティブディレクターは「チームのオペレーションと、エネルギーマネジメントと信頼性」と回答した。「特にエネルギーマネジメントと信頼性では、私たちの持つ(LMHやLMDhと同じくハイブリッドカーで競われる)F1のノウハウが効いてくるはずだ」

また先述のフランソワ・シャンポ氏も「ハイブリッドシステムは全車共通だが、マレリの電制システムはアルピーヌ独自のもので、そこに載せるソフトウエアもヴィリー・シャティヨン(F1用を含む、アルピーヌレーシングのパワートレイン開発拠点がある)でつくっている。エンジンも基本はメカクローム製だが独自の調整を加えており、燃焼室の仕様を含め、そこにはF1の知見を取り入れている」と説明。「WECでは車両で差がつくというより、チームのオペレーションやタイヤの使い方、ドライバーの実力など、人の能力でレースが動いていく。チームにとって扱いやすい車両を開発していくのが大事」と、アルピーヌにおけるルマンカー開発のキモを語った。

LMP2クラスでは数度にわたり年間タイトルに輝き、またF1やフォーミュラEなどで、電動レースカーの知見も得ているアルピーヌ。耐久レースの最高峰での活躍も、期待できるかもしれない。

(文と写真=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/編集=堀田剛資)

◆画像・写真:「アルピーヌA424_β」をより詳しい写真で見る(47枚)
◆画像・写真:「アルピーヌA110 Rルマン」の内装・外装を見る(31枚)
◆画像・写真:「アルピーヌA290_β/A110 E-ternite/アルペングロー」を写真で見る(45枚)

先述のとおり、「LMDh」では電動パワートレインは全車共通。エンジンについては設計は自由だが、こちらも出力特性などはしっかり規制されている。絶対的な動力性能でライバルと差をつけるのは難しいのだ。
先述のとおり、「LMDh」では電動パワートレインは全車共通。エンジンについては設計は自由だが、こちらも出力特性などはしっかり規制されている。絶対的な動力性能でライバルと差をつけるのは難しいのだ。拡大
アルピーヌレーシングでエグゼクティブディレクターを務めるブルーノ・ファミン氏。ヴィリー・シャティヨンにおいて、主にレース用のパワートレイン開発を統括している。
アルピーヌレーシングでエグゼクティブディレクターを務めるブルーノ・ファミン氏。ヴィリー・シャティヨンにおいて、主にレース用のパワートレイン開発を統括している。拡大
ハイブリッドシステムの制御やエンジンの信頼性などに自信をうかがわせるフランソワ・シャンポ氏。ルール的に“速いクルマ”をつくりにくいWECでは、「チームにとって扱いやすいクルマをつくることが大事」と語った。
ハイブリッドシステムの制御やエンジンの信頼性などに自信をうかがわせるフランソワ・シャンポ氏。ルール的に“速いクルマ”をつくりにくいWECでは、「チームにとって扱いやすいクルマをつくることが大事」と語った。拡大
いよいよ姿を現したアルピーヌのハイパーカー。復帰初年度の2024年にどのような活躍をみせるか、要注目である。
いよいよ姿を現したアルピーヌのハイパーカー。復帰初年度の2024年にどのような活躍をみせるか、要注目である。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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