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第41回:“250”と“300”のどっちが本流? トヨタの中嶋副社長がランクルを大いに語る!

2023.08.31 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ 小沢 コージ
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時代に逆行するモデルチェンジ

もうビックリ! まさかあの人気4WD「ランドクルーザープラド」が大イメチェンどころか、名前を変えて生まれ変わっちゃうなんて。そう、8月頭に突如公開された話題の新型「ランドクルーザー“250”」のことよ。

硬派なランクルシリーズのなかで「ライトデューティー」とも言われたナンパ気味なプラドのフルモデルチェンジなんですが、実車を見たら雰囲気が全然違う!

デザインはフェンダーこそマッチョだけど全体にかつての流麗路線は影を潜め、えらく直線基調で武骨になってるし、ヘッドライトも涙目調から大幅変更。基本シンプルすぎる3連角目LEDで、ことによってはクラシカルな丸目も選べてなにより全面的にサイズ拡大!

全長はついに4.9m台に突入し、全幅はアニキ分の“300”と同じ2m弱。同時に骨格には“300”用に開発された屈強なGA-Fプラットフォームを採用!

いまどき世界のクロカン四駆はジープもランドローバーも「Gクラス」も基本はリッチなラグジュアリー路線に走るなか、時代に逆行するようなガチで硬派なフルモデルチェンジ。一体どうなってんの? 真の狙いは何なの?

お披露目会場でたまたま遭遇できたトヨタのミッドサイズビークルカンパニーのトップ、中嶋裕樹副社長を直撃してみました!

2023年8月2日に世界初披露された「トヨタ・ランドクルーザー“250”」。もちろん小沢コージも世界初公開の舞台に足を運び、じっくりと観察してきました。
2023年8月2日に世界初披露された「トヨタ・ランドクルーザー“250”」。もちろん小沢コージも世界初公開の舞台に足を運び、じっくりと観察してきました。拡大
既存の“300”と新しい“250”、そして再々販売が発表された“70”と合わせて日本の「ランドクルーザー」は3モデル態勢の鉄壁の布陣だ。
既存の“300”と新しい“250”、そして再々販売が発表された“70”と合わせて日本の「ランドクルーザー」は3モデル態勢の鉄壁の布陣だ。拡大
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プラドの後継ではありまっせん!

小沢:中嶋さん。まずは超基本的なことからお聞きしますが、これはプラドの後継なんですか? 後継じゃないんですか?

中嶋:プラドの後継では……ありまっせん!

小沢:ありまっせん! でもそれ、ちと分かりにくいと思うんですよ。販売タイミングはプラドの続きですし、サイズも大きくなってますけど“300”よりは小ぶり。プラドの後継だと思ってる人は一部に根強くおりまして、実際、販売店でもそのように売ってる方がいるようで。

中嶋:プラドというクルマがあって、それがディスコンティニューされてこのクルマが出るというところでは、ある意味後継かもしれません。ただし、それがキープコンセプトなのか、コンセプトをガラッと変えたフルモデルチェンジなのか。去年発表した「クラウン」はクラウンという名前を使わせていただきましたが、時代やお客さまに応じて「あなたのクラウン」という提案で4車種出したわけですね。名前はクラウンのままですし、クラウンの後継ですか? って言われると「イエス」ですよね。ですけどコンセプトは全然違います。

小沢:確かにクラウンは驚きのリボーンを果たしました。つまり今度のランクルも16代目クラウンに匹敵するくらいのコンセプトチェンジだと?

中嶋:16代目は原点回帰を一生懸命やって、どういう思いで過去のクラウンがつくられたかを長い期間使って調べて、先達(せんだつ)の思いを理解したうえで「未来のクラウンをどうつくるか」というふうにやったんですね。

一方、今回のランクルはまずは一度原点に立ってみようと。「クルマのミライを変えていこう」と佐藤新社長も言ってますが、クルマのミライを見るときはどこから見るかが大切なんです。原点を理解し、原点回帰したクルマから未来を見たら景色が変わってくるかもしれない。

小沢:同じリボーンでも視点が違うと。それと今回は既存の“300”に加え、新たに“250”をつくり、1980年代から続いている“70”も復活させました。この3本柱でランクルをあらためて位置づけし直すような感じですか?

中嶋:もともとランドクルーザーには72年の長い歴史があります。そこで移動の自由を確保し、人々の生活を支えるという非常に重要な役割を担ってきたクルマなんですね。ただ、時代の進化とともに、ランドクルーザー“300”のようにラグジュアリーなカテゴリーのSUVと、“70”のようにいつまでたっても変わらず、しっかり働き続けるワークホースとしてのSUVに枝分かれしてきました。かたやプラドって何なの? って言われますと、どちらかというとラグジュアリーな方向に進んできました。

小沢:先代はかなりクロスオーバーSUVライクなデザインになっていたし、ある意味では中途半端と言えなくもありません。

中嶋:しかしランドクルーザーの本質は人々の移動を助ける、生活を助けるということですから、やっぱり原点回帰。われわれはクルマのミライを変えていこう! と言ってますが、まずは原点に立ち、そこで見える景色から未来を見ないと行く方向を間違ってしまう。

小沢:人や企業の方向性って結構難しいですよね。電動化もしかり。

中嶋:ランドクルーザーを必要な機能だけに絞り込んだらどうなるのか。そこで新しいプラットフォーム、新しいパワートレインも導入しますが、今回はランドクルーザーネス、つまりオフロードの走破性とか信頼性、そこをしっかり伸ばすことに力を注ぎました。

トヨタの中嶋裕樹副社長。囲み取材のような状況だったため、「私は逃げも隠れもしません」みたいな写真になってしまった。
トヨタの中嶋裕樹副社長。囲み取材のような状況だったため、「私は逃げも隠れもしません」みたいな写真になってしまった。拡大
「ランドクルーザー“250”」は“300”や「レクサスLX」と同じラダーフレームの「GA-F」プラットフォームを使っている。
「ランドクルーザー“250”」は“300”や「レクサスLX」と同じラダーフレームの「GA-F」プラットフォームを使っている。拡大

“80”どころか“40”の復活!

小沢:で結局、“250”と“300”、どちらが(本流の)ランドクルーザーなんでしょうか?

中嶋:新型“250”、こちらこそが「ザ・ランドクルーザー」です! 開発時にはチーフエンジニアが方針を打ち出すんですけど、そこには「ザ・ランドクルーザー」と書かれてました。

小沢:“300”は?

中嶋:ラグジュアリーSUVです!

小沢:角目はランドクルーザー“250”で、丸目はプラドと使い分けをするという説は?

中嶋:そういう予定はまったくありません。プラドがラグジュアリーな方向に行ったので、コンセプトを建て付けし直した。ランドクルーザーには1960年代生まれの“40”があり、ここから派生モデルもいろいろ生まれていったんですが、その“40”に思いをはせ、原点を見つめ直す。

小沢:“70”と“80”の復活どころか、“40”の復活だと?

中嶋:復活じゃないですけど、“40”という原点に立ち返ってランドクルーザーをもう一度磨き直しました。

小沢:プラドどころかランドクルーザーブランド全体の原点回帰ですね。

中嶋:そのとおりです。

“250”には丸目だけでなく角目のヘッドライトも用意される。どのように使い分けるかは明らかになっていない。
“250”には丸目だけでなく角目のヘッドライトも用意される。どのように使い分けるかは明らかになっていない。拡大
1960年代に登場した“40”系「ランドクルーザー。」
1960年代に登場した“40”系「ランドクルーザー。」拡大

ランクルのEVも出します

小沢:その結果、デザインもクラシカルな直線基調になった?

中嶋:クラシカルなというか、ランドクルーザーを自然に体現するとこうなったというのが正直なところで。今のテクノロジーを折り込みながら、素直なデザインをしてみようと。

小沢:ただ、サイズ的にはかなりデカくて“300”に近い。特に全幅は1.98mと数値的にはまったく同じです。

中嶋:確かに“250”の全幅をタイヤのトレッドで見ると“300”と同じ。2850mmのホイールベースもまったく同じです。これが何から決まってくるかというと走破性なんです。オフロードを考えるとホイールベースは変えられない。このグラウンドクリアランス、このホイールベースが必要。

かたやトレッドを合わせたのは堅ろう性を表すためで、もとの“40”を見てください。一見タイヤがボディーからはみ出て、トレッドアウトしてるようにも見えます。原点回帰を考えると、タイヤが四隅にしっかり踏ん張ったイメージにどうしてもこだわりたかった。

小沢:でもこの横幅は、国内じゃデカくないですか?

中嶋:数値的にはそうですが、左右のドアミラー間隔(ミラー・トゥ・ミラー)はプラドよりも内側に入っていて、そこにはこだわってます。同時にプラットフォームを“300”と共通化することでつくりやすくなりますし、原価低減も図れます。だけど一番大事なのはオフロードの走破性。これを最も高めたかった。なので変えないし、変えられない!

小沢:今回技術的には2つのポイントがあると思うんですけど、ついにランクル用に初投入したハイブリッドと電動パワステ。特にハイブリッドは、当初は国内には入れないみたいですけど将来的にはどうですか?

中嶋:もちろん全世界に出せるようにしてあります。それぞれのマーケットのコンディションもありますし、“300”はお客さまをお待たせして本当にご迷惑をかけてます。そういう意味で少し絞らせていただきながら、まずは地域に最適なパワートレインから出していくと。

小沢:ついにランクルにもハイブリッドを入れざるを得ないと。

中嶋:そのためにつくってきたようなものですから。大事なのはカーボンニュートラリティーと悪路走破性です。オフロード走行においてタイヤの最初のひと転がりは非常に重要で、ここでモーター駆動は有利なんです。トルクが太くて扱いやすいので。

小沢:電動車はオフロードに向いていると。

中嶋:なので燃費はもちろん、モーターパワーをどう有効活用するかが重要。燃費に振るのか、走破性やトルク感に振るのか。さまざまな使い方ができます。

小沢:あと電動パワステも初投入。

中嶋:これだけオンロード走行の機会が増えると、オフロード車だからそこはいいよね、とは言えません。たとえハイウェイだとしても疲れていいわけがなくて、時代の進化に合わせて、モノコックボディーのSUVに慣れた方にもランドクルーザーを楽しんでいただきたい。

小沢:価格なんですけど、言えないとは思うんですが……

中嶋:まだ申し上げられませんが、われわれとしては原点回帰ですから、できればよりアフォーダブルなかたちでご提供したいと、しっかりと原価低減を図ってまいりました。

小沢:特に2.7リッターガソリンエンジンモデルは、プラドからほぼ性能を変えていないのでコストコンシャスな仕様になるんだろうなと。

中嶋:現状のプラドでも2.7リッターガソリンが非常にご愛顧を頂いているというのもありまして、この性能を維持しながらと考えてます。

小沢:最後にしつこくてイヤだと思うんですが、電気自動車(EV)の計画はあるんでしょうか?

中嶋:EVはつくりますよ。

小沢:このランクルで、ですか?

中嶋:これでか、ではなくて、大事なことはランドクルーザーというブランドを生き残らせようとすると、間違いなくEVの選択肢は必要になってきます。もう一回この場で言わせていただきますよ。6月のテクニカルワークショップ2023、みなさんご覧いただけましたでしょうか。あの場では「レクサスLX」でしたが、水素エンジン仕様を出し、ナンバーも付けました。同じようにラダーフレームの「ハイラックス」でもバッテリーEV仕様を出してます。

ですから努力はします。アベイラビリティーは徹底的に広げておきますが、実際に世に出るかどうかはマーケットのコンディション次第です。逆に言うとフレームストラクチャーは、水素タンクが搭載しやすいとか、バッテリーをしっかり守れるという意味では電動化に向いているのかもしれません。あとはマーケットニーズ次第なので、その都度ご提案しながら出していきたいと思います。ぜひご期待いただきたい!

小沢:期待させていただきます!!

つい長くなってしまいましたが、熱き中嶋副社長の思い、いかがでしたでしょうか。

単なるラグジュアリーSUVの一種ではなく、一部の地域に暮らす人々にとっては生活を支える道具であり、人類全体のお宝ともいうべきランドクルーザーを真剣に残したい! そのためには目先の利益を追ったプレミアム化ではなく、原点に立ち返ったクルマの開発が必要なんだと。そういうことなのかもしれませんね。

(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

ステージ上にずらりと並んだ歴代「ランドクルーザー」。「トヨタ・ジープBJ型」以来、72年もの歴史を誇る。
ステージ上にずらりと並んだ歴代「ランドクルーザー」。「トヨタ・ジープBJ型」以来、72年もの歴史を誇る。拡大
「ランドクルーザー」というブランドを守るためにEVはつくりますと断言する中嶋副社長。期待させていただきます!
「ランドクルーザー」というブランドを守るためにEVはつくりますと断言する中嶋副社長。期待させていただきます!拡大
小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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