吉事の裏に惜別あり! 「ランドクルーザー“250”」の登場を前に「プラド」の功績を思う
2023.09.27 デイリーコラム“250”はライトデューティー系?
「ランドクルーザー」ファミリーの新モデル「トヨタ・ランドクルーザー“250”」が世界初公開されたのは、2023年8月2日。報道やらSNSでの反応を見るに、メディアもファンも、おおむね好意的に“新しいランクル”を受け止めている様子である。
また先日は、レクサスのメディア向けイベント「LEXUS SHOWCASE」で新型「レクサスGX」に触れ、その堂々としたたたずまいと鬼の悪路走破性に感嘆した(渡辺敏史さんの試乗記をお楽しみに!)。残念ながら記者は“リアシート試乗”だったけど、いやはや、下手したら兄貴分の「LX」より岩登りでは快適だったやもしれぬ。レクサスはかたくなに「いや、LXやGXはランクルじゃないっすから」と言うが、その実は皆さんご存じのとおり。LXは「ランドクルーザー“300”」と、GXはランドクルーザー“250”と中身を共用している。GXの実力の片りんに、まだ見ぬランクル“250”への期待を膨らませても、そうお門違いということはないだろう。
とまぁこんな感じで、ネットをあさったり妄想を膨らませたり、東京・台場での邂逅(かいこう)からおよそ2カ月を経てもなお、記者のテンションは依然アゲアゲ状態にある。一方で、時を経るにつれてある惜別もじわじわ実感を増してきた。ああ本当に、「ランドクルーザープラド」はなくなっちゃったんだな。今までにあったようなライトデューティー系のランクルとも、これでオサラバか。
……こんな風に書くと、読者の皆さまは「いや、“250”こそ新しいライトデューティー系でしょ」とツッコまれることだろう。確かにトヨタもそう言っている。ただ実車を見るに、クルマの素性を知るに、「いや、それはホントにホントかな?」と記者は思うのだ。
市場が受け入れたカジュアル(?)路線
現在、ランクルファミリーには旗艦のステーションワゴン系、ワークホースのヘビーデューティー系、そしてライトデューティー系の3つの系統がある(と、されている)。で、ライトデューティー系の歴史をさかのぼると、1985年に登場した70系「ランドクルーザー ワゴン」にたどり着く。当時のクロカン市場はというと、「三菱パジェロ」が新風を巻き起こしていた時代だ。十分な走破性は備えつつも、ランクル軍団よりカジュアルかつ乗用車的なモデルで、それがウケて新しいマーケットを開拓。他社も追従する動きを見せていた。
乗るしかない、このビッグウェーブに。ということでトヨタが送り出したのがランクルワゴンである。70系をベースにしつつも、居住性を改善し、コイルサスを入れ、軽量・小排気量のエンジンを積み、より乗用車ライクに仕立てたモデルだった。当時を知る人に聞いたところ、原理主義者からしたら「あれはランクルじゃねぇ」というクルマだったそうだが(笑)、1990年の4ドア・ロングボディーの設定&ランドクルーザープラドへの車名変更を機に、人気が急上昇。1996年に登場した2代目からは、なんと「ハイラックスサーフ」と多くのコンポーネントを共用する準兄弟車となってしまった。これまた原理主義者からしたら噴飯モノの出来事だろうが、マーケットはやっぱり好意的。結局、この“やりすぎないクロカン路線”は2023年まで受け継がれることとなった……。なんともはや、示唆に富んだ話である。
また以前のコラムでも触れたとおり、欧州など一部の地域では、3代目以降はプラドが“ランドクルーザー”として、タフなトヨタを象徴するモデルとして販売されていたのだ。ファミリーの序列を重んじる一部の熱心な層を除くと、このクルマは一個のオフローダーとして、メーカーからもマーケットからも、ひとかどの評価を得ていたのだと思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“プラド”と“250”に見る違い
……とまぁ、これが記者の認識するライトデューティー系ランクルの来歴である。
これを思うと、やっぱりワタシは「新しい“250”は本当にライトデューティー系なの?」と首をかしげてしまうのだ。だってそうでしょ? サイズは“300”とほぼ一緒。プラットフォームも同じ「GA-F」なのに、なんで“300”はステーションワゴン系で“250”はライトデューティー系なの? むしろ「ライトデューティー系の歴史は、最終型のプラドで終わり。ステーションワゴン系が新たに2系統に分化した」と表するほうが、事実に即していると思う。
そして、ここからがようやっと本題である。記者は“250”のデビューにワクワクしつつ、同時に「本当に、ランクルプラド(=ライトデューティー系)をやめちゃってよかったの?」とも思っているのだ。
記者の周囲を見ると、実は意外とランクルプラドのユーザーが多く、それこそ妹夫婦が3代目の120系プラドに乗っている。たまに実家で鉢合わせすると、各座にベビーチェアを備えたそのさまに、ファミリーカーの本懐を見た気がして勝手に感心しているのだ。また撮影会や試乗会でも、さるカメラマンの機材車として使われる最終型プラドとちょくちょく遭遇している次第で、いずれも家族の足として、仕事の相棒として、いい使われ方をしていると思う。
ただ、そんな彼らのランクルプラドを脳内で“250”に置き換えてみると、イマイチしっくりこない。過ぎたるはなお及ばざるがごとしというか、デカすぎるし、ガチすぎるし、キャラクター感も強すぎる。プラドと同じ“能ある鷹”でも、爪をまったく隠していない。
ハイソカー的な趣もあり、クロカンとしてはどこか肩の力が抜けていたプラドは、地味だけど絶妙なあんばいのいいクルマだったんだなあ……と、“250”が出た今だからこそ、しみじみ感じているのだ。
諸行無常は世の常
もっとも、こうして記者が感じているプラドの価値や功績なんて、天下のトヨタのマーケティングからしたら、当然のごとく承知のこと。承知のうえでのライトデューティー系の廃止(……とはトヨタは言っていないけどね)だったのだろう。
だいたい、仮に今の“持ち駒”でライトデューティー系とステーションワゴン系をつくり分けようとしても、そもそも前者に使えるプラットフォームがない。GA-F以外のラダーフレームといえば、ランクル“70”のものか、「ハイラックス」などIMV(新興国をメインマーケットに想定した世界戦略車)向けのものしかないのだ。20世紀ならともかく、今の時代にそれで高級乗用クロカンを仕立てるなんて不可能……とまでは言わないけど、合理的な判断とはいえないだろう。残念だけど、今ここが、ランクルプラドの終着点だったのだ。
かつての栄華も今は昔。パジェロやら「いすゞ・ビッグホーン」やらが轡(くつわ)を並べていたこのセグメントも、いつの間にやら生き残りはプラドだけというありさまとなっていた。それもこうして終わりを迎えようとしているわけで、ある意味で今は、クロカン史におけるささやかな時代の節目なのだと思う。そういう意味でも記者は現状に哀愁を覚え、つい鼻奥をツンとさせてしまうのだ。
しかし、現れるクルマがあれば姿を消すクルマがあるのは世の理(ことわり)。新車かいわいをウオッチしていれば、諸行無常は常である。あんまり感傷的になりすぎず、2024年上半期とされる新しいランクル“250”の発売にワクワクしていたいと思う。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆実は人を選ぶクルマかも? 話題の新型車「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の実像に迫る
◆“250”と“300”のどっちが本流? トヨタの中嶋副社長がランクルを大いに語る!
◆日本で一番早い!? 「トヨタ・ランドクルーザー」バイヤーズガイド
拡大 |
拡大 |
拡大 |

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日NEW 2026.10.30 中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
NEW
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日
2026.10.30デイリーコラム中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。 -
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。









































