トヨタ・ヴェルファイア エグゼクティブラウンジ(4WD/CVT)
“真ん中”が特等席 2023.10.11 試乗記 トヨタが誇る高級ミニバン「ヴェルファイア」のショーファードリブン仕様「エグゼクティブラウンジ」で、東京-河口湖間のツーリングを敢行。このクルマの特等席であり、ビジネスパーソンが最も気にするであろう2列目キャプテンシートの出来をリポートする。ショーファードリブンを再定義した立役者
自動車かいわいでの直近の大きな話題といえば、「トヨタ・センチュリー」のバリエーション追加(参照)だろう。
出張で発表会に立ち会うことはできなかったが、第一信を見てピンときたのは、これは現代的な礼式的装いと人間工学的な乗降性や居住性との擦り合わせを図った揚げ句、かつて馬に引かせていたコーチのような上屋が今日的に再定義された、そんなものだろうということだ。
「e-Four」とはいえ一応四駆だし、SUV的なまね事もできるのかもしれない。が、主目的はあくまで賓客を運ぶこと。その挑戦的なコンセプトが形になると、馬車から自動車への端境の時代と体躯(たいく)が重なって見えるというのも不思議なものだ。
ともあれクルマ好きとしては、工匠や様式美といったセンチュリーが築いた日本の自動車文化が途切れないことだけでもありがたく思いたい。今やそんな方面でウンチクが語れる対象なんて、イギリスやドイツのごく一部の銘柄のみだ。アメリカもフランスも、そのフィールドからは去っている。
トヨタにおいては、皇室への献上的意味合いや技能継承という文化的側面で成り立っているものであり、もうけは度外視だろうセンチュリーに、ここまで大胆な冒険をさせた背景には、まず「クラウン」や「カローラ」と同じく、銘柄の存続に対する創業家の思いの強さがあるのだと思う。
とともに、開発現場においては自分たちがショーファードリブンを再定義してきたという自負がその挑戦を後押ししたことも想像に難くない。つまりこれは、海外でも認知されつつある「アルファード/ヴェルファイア」=アルヴェルが築いてきたものによって導かれたと言うこともできる。
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早く違う色が見てみたい
取材当日の朝5時、東の空が白む頃合いに拙宅かいわいの待ち合わせ場所に行くと、編集H君の乗る黒いヴェルファイアが待ち構えていた。思いのほかに威圧感を覚えないのは、乗員がH君だからというだけではなく、その希望に満ちた時間帯のおかげだろうか。あるいは送迎車として街の景色になじみ切ってしまったからだろうか。
でも、恐らく一番の理由はそれがピンでいたからだ。銀座通りで列になって止まっていると街並みに圧を感じるし、それが六本木通りあたりだと素直に怖い。白と黒しかない車体色については、需要が圧倒的にそれに集中して有彩色が売れないという都合もさておき、ヴェルファイアの場合はリードタイム最優先で現状の選択肢がそれしかないという割り切りすぎな状況もある(参照)。納車状況が落ち着いたらラインナップの拡大も考えているというから、その時に向けて見る者に愛される色味も検討してほしいと思う。
アルファードとヴェルファイアの識別点は、外観以上に動的質感の側に鮮明に表れていた……というのは、以前のリポートどおり。今回は試乗会の限られた時間ではなく長時間・長距離も試せるとあって、後席にもしっかり乗せてもらおうというもくろみだ。早速H君に運転を頼んでエグゼクティブのラウンジといううやうやしい空間にひとり陣取ってみる。
中央列に据えられた特等席のサイズ自体に、前型との大きな差は感じない。民草にとっては今やベースグレード扱いである「Z」系グレードの真ん中席でも、およそクルマとは思えないほどぜいたくな空間なので、勘どころがつかめていないのかもしれないが、オンビジネスのツールとしてみるぶんにも、まぁZ(ヴェルファイアでは「Zプレミア」)で十分でしょうの感はある。
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車内空間の“盛り”が足りない
欧米先進国のキャリアがファーストクラスの席数を縮小しつつある理由は、プライバシーと時間自由度を優先するガチのエグゼクティブたちのニーズが、プライベートジェットに流れているからだという。逆に、便に合わせて仕事時間の使い切りを優先するエグゼクティブだと、寝るだけの椅子ならビジネスクラスでも十分という合理的な判断をする向きも多いそうだ。
だからこそ、陸のプライベートジェットであるエグゼクティブラウンジはもう少し非合理的な、わかりやすく俗な演出が加わってもよかったのではないか。オールで遊んだ帰りのような時間帯の薄暗い車内で気になったのはそこだ。手元のコントローラーはワイヤレスでも操れるスマホ調のコマンダーに代わり、アンビエントモードのさまざまな提案が盛り込まれるが、選んだところで著しい代わり映えがないのは、イルミネーションやサウンドなどのエフェクトが案外こぢんまりまとまっちゃってるからだ。
こと光り物に関しては、今やドイツ御三家のほうがトヨタのお株を奪うほど下世話な仕様になっている。バブル前後にはメーターの照明ひとつとっても、だいだい一色のBMWや間接式のメルセデスがお通夜のように寂しく見えたものだが、今や盛り放題な彼らの勢いに比べると、このアルヴェルのエグゼクティブラウンジでさえ殺風景に見えるほどだ。これではとっとと寝落ちするほかない。自省も込めての話、日本のオッさんは乗り物に乗せられるとここぞとばかりに寝ることばかり考えがちだが、果たしてアルヴェルのおもてなしは、そんな尺度に寄りすぎていなかっただろうか。
重要商圏であるアジア市場の嗜好(しこう)を思えばなおのこと、発光部位の面積やアニメーションなどももっと大げさに繰り広げることもできただろう。なんなら流れ星どころか嫁さんの星座まで縫い込めるロールス・ロイスのスターライトヘッドライナーくらいのあざとさを、トヨタの営業や商品企画の部門が本気になれば思いつかないはずがない。ここで名古屋魂(厳密にはトヨタの本拠地は豊田市=三河だが)をみせなくてどうするよ……と、パソコンを載せるのも心もとない小さなテーブルをいじくりながら、そんな寂しさを覚えた。
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乗り心地にみる兄弟車との違い
そのぶん……というわけでもないだろうが、エグゼクティブラウンジの走りだしてからの快適性は、劇的に進化している。まずもって車体の剛性レベルやバランス、アコースティック特性など、クルマ全体がTNGA世代に刷新された効果は多面的に表れていて、プルプル震える床板を毛足の長いじゅうたんでなだめるしかなかった先代とは雲泥の差だ。
基礎がよくなれば小技も生かせるということで、新しいアルヴェルの真ん中席はシートマウントの一部にラバーを用いて微振を吸収したり、エグゼクティブラウンジでは専用の低反発材のフォームをおごったりして、乗り心地の改善に手を尽くしている。その効果もあってだろう、試乗車は19インチタイヤを履く走り推しのヴェルファイアだったが、首都高速から中央自動車道にかけての中・高速域では、路面入力の角を感じさせないフラットライドをみせてくれた。試しに同環境で最後列に座ってみると、路面の凹凸に追従して体が上下動する感は明らかに強くなる。いかに真ん中のチューニングに注力したかがうかがえる。ちなみにZ系グレードのシートの重さが40kgなのに対して、エグゼクティブラウンジのそれは70kgというから、シート本体の重量や骨格が乗り心地の側に効いているところもあるのだろう。
タウンスピードでは目地段差や路肩などで若干の突き上げを感じることもあるが、痛いというほどではない。バウンドのトラベルがタイトでスキッと収まる、例えるならドイツ車的な乗り味が好みであるとか、高速移動が多いという向きには、真ん中視点で見てもオススメしたくなるのはヴェルファイアだ。対すればアルファードは、タウンライドでの快適性に明らかに利があるぶん、中・高速域の上屋の動きは大きくなるし、よくも悪くもバウンドの減衰感にキレがない。そのふわふわっとしたアタリがいにしえの旦那ライドなクラウンなどを思い出すものだから、個人的にはアルファードを推したくなる。そちらでは控えめな速度域で優しい運転を心がけたほうが、乗るほうも乗せられるほうも幸せな時間になると思う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・ヴェルファイア エグゼクティブラウンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1850×1945mm
ホイールベース:3000mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:190PS(140kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:236N・m(24.1kgf・m)/4300-4500rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:250PS(184kW)
タイヤ:(前)225/50R19 103H/(後)225/50R19 103H(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16.5km/リッター(WLTCモード)
価格:892万円/テスト車=924万6920円
オプション装備:ユニバーサルステップ<スライドドア左右・メッキ加飾付き>(6万6000円)/ITS Connect(2万7500円)/CD・DVDデッキ(4万1800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エグゼクティブ・エントラントマット付き>(13万2000円)/ラグマット(1万5400円)/前後方2カメラドライブレコーダー(4万4220円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1448km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:300.9km
使用燃料:22.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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